コーチングの教育を提供する上でメンタリングは近接する技法であるにもかかわらず、これまで詳しくふれる機会は決して多くなかったように思います。しかし欧州発のコーチング教育では、以前からメンタリングは統合的に教えられています。私たちにとってメンタリングがなんとなく近くて遠いところにあったのは、日本のコーチング教育が主に米国から輸入され、その影響が強いからかもしれません。

それをふまえて書いたのがこの記事でした。

今回はあらためて、コーチングとメンタリングは何が同じで、何が違うのかを明らかにしていこうと思います。そして時代とともに2つのアプローチがどう変わり、それぞれの変化または進化が、互いにどんな影響を及ぼしあっていくのかということにも目を向けていきます。

最初にコーチングで必要とされる能力のとらえ方について、新たな観点が加わろうとしている、という事実から共有します。

コーチングがメンタリングに近づいている?

コーチングの専門家を養成する教育プログラムや資格認定は、行政が関与しない自主規制に委ねられています。この自主規制に関する世界最大の統括組織がICF(国際コーチング連盟)です。

ICFは専門職としてのコーチの核となる能力水準(コアコンピテンシー)を定めており、これがICFの承認を受けた教育プログラムが提供する内容、受講者の技能レベルの審査をする基準にもなります。

このコアコンピテンシーが2025年に改訂され、次の項目が加わりました。

クライアントが新しい洞察を生み出す可能性を持てるように、観察、知識、感情を、それに固執することなく共有している。

Share observations and feelings, without attachment, that have the potential to create new insights for the client.

「コーチの知識を共有する」ということは、あくまでも「クライアントの中に答えがある」という立場をとり、「クライアントは常にリソースフルな存在である」という哲学を重んじてきた(米国主導の)コーチングにおいて、革命的な変化だったといえるかもしれません。

大げさに聞こえるかもしれませんが、このコンピテンシーの新しい一文を見た多くのコーチから「それは私が信じてきたコーチングではない」、「これまで私たちが教育してきたコーチングとの整合性を、どう測ればよいのか」といった異論が巻き起こったのです。

しかし米国文脈とは違う観点からもコーチングをとらえ、文化の異なる社会や職場に適用することに取り組んできた私にとっては、我が意を得たような正常進化に感じられました。そして異論の一方で海外のコーチからも、「それを明記してくれて肩の荷が下りた」といった声もたくさん上がりました。

コーチとして「自分の知識を共有する」ことでコーチングという専門職の役割から外れることを心配しながら、それが実際は役に立つと思われるクライアントと向き合い、何をするべきか、するべきではないかに葛藤してきたコーチがたくさんいるようでした。

メンターの知識や経験は、どのように活用されるのか

さて、コーチが自分の知識をクライアントと共有することは、「答えを出すのはコーチではなくクライアントである」という、これまでの前提と矛盾するでしょうか。

そうであるならばコアコンピテンシーが根本から覆ったことになりますが、実際はそうではありません。ポイントは前述した能力要件にある”without attachment”(=固執することなく)という部分です。あくまでコーチはクライアント自身が気づき、判断して建設的な行動を起こせるように、必要かつ妥当なタイミングにおいて、自分に可能であればクライアントに「知識を共有する」のです。

これによってコーチングとメンタリングの接続点が強化されたと私は感じました。私たちMBCCの入門コースが承認を受けているEMCC Globalは、メンタリングを次のように定義しています。

メンタリングとは、メンターとメンティーの間で、発展的な対話、経験の共有、ロールモデリングを通じて、スキル・知識・専門性を共有する学習関係である。この関係は幅広い文脈をカバーし、多様性を尊重する、相互学習のための包括的な双方向のパートナーシップである。

Mentoring is a learning relationship involving the sharing of skills, knowledge, and expertise between a mentor and mentee through developmental conversations, experience sharing, and role modeling. The relationship may cover a wide variety of contexts and is an inclusive two-way partnership for mutual learning that values differences

この定義の前提となる「メンター」とは、基本的にメンタリングを受ける側であるメンティーよりも人生全般あるいは特定分野の知識や経験、専門技能などを豊富に備えている人です。他方、コーチは必ずしもそうではありません。たとえば大手企業のCEOが自分よりもずっと若いコーチをつけることもあり、クライアントが自分の足りない経験をコーチに補ってもらう関係性ではありません。

もしもメンタリングがメンターの経験に沿ってメンティーを誘導していくものであったなら、これは明らかにコーチングとは違うアプローチになります。しかし定義にあるとおり、メンタリングは「スキル、知識、経験を共有する学習関係」=a learning relationship involving the sharing of skills, knowledge, and expertise between a mentor and menteeであると言っており、また「相互学習のための双方向の包括的なパートナーシップ」=an inclusive two-way partnership for mutual learning だとしています。

メンターは過去のアプローチとしての発展経緯をみれば、“豊富な経験”をもつ人が、それをリソースとしてメンティーを支援します。しかしそれはメンティー自身の気づきや主体的な選択、行動を尊重した関係性にもとづくもの。これがEMCC Globalの説明であり、欧州におけるメンタリングの主流となる考え方です。

コーチングとの距離を遠ざけた米国流のメンタリング

しかし実は、もう一つの異なるメンタリングの考え方があります。これは主に組織内におけるメンタリングが中心になると思いますが、メンターの地位や権限、影響力などをメンティーのために行使することを含めたもの。これは”Sponsor ship model”(=スポンサーシップ型)のメンタリングと呼ばれ、主に米国におけるメンタリングの実践に大きな影響を与えてきました。

スポンサーシップモデルでは、たとえば役員であるメンターが新任管理職のキャリアを指南しながら、上司から正当な評価を受けていない状況に介入する、といったことも含まれてきます。現在は米国でもスポンサーシップはメンタリングと区別化される方向に進んでいるようですが、もとはスポンサーシップがメンタリングの概念に含まれていたのです。

米国から始まったICFがメンタリングをコーチングと区別し、欧州から始まったEMCC Globalがメンタリングとコーチングを当初から統合的に扱っている背景には、このような学術的な立場の違い、その影響を受けた実務分野での捉え方の違いがあったのだろうというのが私の推察です。

成果の上がるコーチングには“メンタリング”が潜んでいる

欧州型といっても差し支えないでしょうが、EMCC Globalが説明するメンタリングは、Developmental model(開発型)と呼ばれます。現在少なくとも企業などの組織・人材開発の実務分野では、米国でもスポンサーシップはメンタリングとは切り離されるようになっているので、ICFがコーチの経験を活かしたコーチングの可能性を視野に入れ、メンタリングの要素がグラデーションとして入ってくる「知識の共有」をコアコンピテンシーに加えたのでしょう。

実際にコアコンピテンシー改訂は半年におよぶ世界的なコーチングの職務分析を経て実施されているので、これからのコーチングの主流となる実態に即したアップデートだと思います。

メンタリングの本質の中にあるメンター自身の知識や経験。それらがメンティーの意思決定や行動を主導するものであれば、コーチングとは広い意味での対人支援という共通項でしか括れないでしょう。しかしDevelopmental modelのメンタリングは、「実際に成果を上げているコーチング」から“効果的な知識の共有”が確認されたことによって、極めて親和性の高い相互補完的、あるいは統合的なものだということが明らかになってきました。

コーチングとメンタリングを統合的に学ぶ時代へ

メンタリングの歴史はコーチングよりも長いとされていますが、メンターの経験に依存するような傾向もあり、コーチングほど標準化された教育が普及しているわけではありません。非公式に行われることが多く、その質も属人的な要素に左右されやすいといえるかもしれません。

一方でコーチングは誰もが手法として実践できるような教育が普及しています。しかし裏返せば形式化されて対話モデルだけが独り歩きしていく問題をはらんでいます。そして非公式なメンタリングを支えているような、深い関係性が構築されないまま商業化している面もあると思います。

これからの大事なテーマは、メンタリングとコーチングの両方を正しく理解した上で、それぞれを磨き上げ、それぞれの知識体系と技能をアップデートしながら統合していくこと。私はそこに大きな可能性の扉が待ち受けていると思っています。

次回は、その可能性を社会や会社の実態に沿って掘り下げていく予定です。


安易な”資格”取得ではなく、欧州基準で本当の実力をつけたい人のために