“AIとコーチングの練習をしたい”とGoogleの検索窓に入力したら、待ってましたとばかりに練習方法に関する情報が出てきます。コーチングを学んでいる人が練習相手を探すのに苦労する時代は終わったのか・・・。その気になれば24時間いつでも仮想クライアントを呼び出せるのだから、場数を踏むことに苦労はしない。すべて万々歳となるのか。じつはそうではないようだ、という研究を紹介します。

コーチングよりも学術的な情報の多いカウンセリングでは、AIを仮想クライアントとして実践練習をすることの弊害に関する研究が結構あります。もともとコーチングの研究手法は精神医療などの対人支援を参考にしているものが多いので、先取りしてAIクライアントとのコーチング練習の是非を考えるのに役立つはずです。

いい人すぎるAIクライアント

ChatGPTを相手にした模擬セッションは、学習者がリラックスしてセッションに臨めるため力を発揮しやすく、実際のクライアントと関わるための準備として自信をつけることに貢献しているようです。その一方、次のようなAIクライアントの特徴が、カウンセリング学習者の能力開発を阻害する可能性が指摘されています。

※Akkurt, M., Maurya, R., & Brown, T.(2025)

<AIクライアントの特徴>

◇対人支援者に対して過度に同調的になりやすい

◇言葉に現れない感情的に微妙なニュアンスの欠如

◇文化的背景が中立化される(それを避けるには注意深いプロンプトが必要)

こうした特性をふまえて、学習者はAIクライアントを実践練習の代替ではなく、あくまでも補助学習ととらえていることも報告されています。逆に言えば、人間の練習相手と同じつもりで取り組んだら、弊害の方が大きくなる危険性があるということを認識しておくべきでしょう。

別の研究でもChatGPTが使われていて、典型的な人間のクライアントよりもセッションに忠実だとしています。これは「セッションを十分に活用する優秀な人間」のようであるともいえるが、「画一的で理想化された応答」が学習の足を引っ張る懸念を引き起こしています。

Beeson, E. T., Zhai, Y., Fulmer, R., Burck, A. M., & Maurya, R. (2025).

練習者が想定した人物像からの逸脱

さらにまた別の研究では、学習者が設定した仮想クライアントのパーソナリティなどから、すぐに逸脱してしまう傾向も明らかになっています。たとえば「途中で黙りこむことがある」といったコミュニケーション傾向を入力しても、すぐにセッションを進めやすい「いい人」に戻ってしまう、といったことのようです。

こうした問題は原則遵守プロンプト手法(=生成AIに対して従うべきルールを明確に設定して逸脱を防ぐテクニック)で改善がみられたと報告されていますが、完全ではないようです。またプロンプトの入れ方について一定レベルのスキルが要求されることも頭に入れておく必要があるでしょう。

Louie, R., Nandi, A., Fang, W., Chang, C., Brunskill, E., & Yang, D. (2024).

問題のとらえ方が人間と違う

私がさらに注目したいと思ったのは、「LLM(大規模言語モデル)クライアントは、人間に比べて問題を素早く構造的に開示する傾向がある」という報告でした。

Comparing Human Roleplayers and LLM-Simulated Clients in Online Counselling Training: An Analysis of Counselling Patterns” (EDM 2025, International Conference on Educational Data Mining)

そのためカウンセラーは事実確認的な応答に頼りがちになり、実際に多くのクライアントとのセッションで求められるような対応・・・断片的な話を繋ぎ合わせる、レイヤーの違う話を聴き分けながら探求する、などの機会が奪われます。

賢くて物分かりが良くて、開放的に自己開示してくれて、セッションの質を高めることに協力的なクライアント。しかし冷静に考えてみると、この人こんなキャラだっけ?と疑問を感じるほど“人が変わる”。それでもなんだか中立的で拍子抜けするほど偏りがない。

いくつかの論文に目を通してみた私のAIクライアント像は、こんな感じです。

現地(人間)をみてから地図(AI)にふれる

生身の人間とのセッションでは、その人の良くも悪くも変わらないパーソナリティが、支援者(カウンセラーやコーチ)との関係構築に大きな影響を与えます。それをふまえて場を調整し、セッションの進め方を個別化していきます。

オープンマインドだと思っていた人が急にある局面でビリーフに縛られることもあれば、物事の捉え方がパターン化しすぎて枠から抜け出せない、ハイパフォーマーだと思っていたら特定の課題で思考が停滞するなど、非連続的な流れをたどるのがリアルな対人支援です。

ここではカウンセリング分野における先行研究を通して、コーチングの練習でも当たり前になりつつある生成AIとの付き合い方を考えてみました。

私が提案したいのは、ガチンコで関わってくれるクライアント役協力者を、一人でもいいので見つけることです。そしてその数を、できれば少しずつ増やしていくことです。そうやって生身の人間との会話に揉まれる経験を積めば、生成AIを相手にしたときのギャップを感じ取ることができるでしょう。そのギャップがわかれば、生成AIをどこまで使うか、どのように使うかの判断もしやすくなります。

現地を歩いてから見る地図と、地図ばかり見ていて現地に行くのとでは、得るものは全く違います。

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