コーチングを学んだけど職場でうまく使えない、という声を聞くことがあります。かなりの人に共通するのが、コーチングを学んでいる人と練習しているのとでは勝手が違う、という戸惑いです。どうすればせっかく学んだことが本当に使えるものになるのか。ここでは、たったひとつの発想転換と、その転換した中での超絶シンプルな実践だけを紹介します。

ちなみにシンプルであるということは、けっしてイージーなことではありません。心がけという意味でも、何をするかという意味でも、奥が深いです。だからこそ、続けていくことで本当の価値を実感できると思います。

では最初にひとつクイズを。

昭和の職場に隠されたコーチングのヒント

“昭和の職場”を思い浮かべてください。そしていろいろな場面を想像してください。オフィスの様子、飛び交う会話、当時のオフィスの雰囲気や働いている人たちの表情。

さて、いちばん会話が弾んでいるのは、会社のどんな場所でしょうか。明確に決まった答えがあるわけではないのですが、一定の年齢以上の人は?納得~かも。

いろいろリストアップしていくと必ず上がってくると思うのですが、昔ある会社でコーチング研修をしていたとき、オブザーブに来ていた社長が言いました。

「コーチングの会話って、喫煙室で起きていることに近いかもね」

そう、いちばん会話が弾んでいるのは喫煙室だと社長は言ったのです。

これ、私はコーチングの本質だと思います。どういうこと?と思う人もいるでしょう。しかしそれが腹落ちしたら、コーチングを職場で活かすための発想転換に繋がります。

コーチングは「する」のではなく「起きてくる」もの

まだ喫煙者の多かった昭和の職場は、一服しにくるスモーカーであふれていました。今も絶滅したわけじゃないけれど。

仕事中だからみんな緊張感は残っているものの、ちょっと一息つく時間。それは緊張とリラックスが中和した独特の場です。そして煙草をふかしている間は、たまたまやってきた幹部も中堅も若手も、不健康な(笑)煙につつまれて少しだけフラットな関係になります。

タバコを吸う以外には決まり事がない時間。だけど飲み会と違うのは、直前まで忙しく働いていて、タバコを吸い終えたらまた忙しい場所に戻るということ。もちろんアルコールが入っていないから頭は働く。

この“束の間感”が実はけっこうおもしろくて、「ところでA社の件、その後どうなったの?」「どうだい、ちょっと慣れてきた?」「〇〇課長とはうまくやってる?」みたいな話題が、露店のポップコーンみたいにポンポン飛び交います。相手に対する関心や気遣い、共有している課題などが自然に言葉になって出てくるのです。

一方で、正確に伝えなければとか、いい質問をしなければ、何か役に立つ助言をせねば、などという意識はタバコの煙に隠れて出てきません。

コーチングの会話は喫煙室の会話のようだと言った社長はさすがでした。ここにあるのは、自分を飾らずオープンであること、相手に関心をもっていること。ここにないのは、なにかをうまくやろうとする思考、できるだろうかという不安。

このあたりにコーチングが起こってくるための条件、コーチングが機能しない理由を探るヒントが隠されていそうです。

とても印象深い社長の言葉を聞いてから、もう20年以上が経過しました。当時よりもコーチングは日本の職場で知られるようになりました。しかし喫煙者が減った令和の職場で、コーチングは喫煙室の代わりになっているでしょうか。

スキルを使うことへの関心が仇になる

ここで冒頭の話にもどります。多くのコーチングを学んだビジネスパーソンが、職場ではコーチングができないと言います。それは、本人がコーチングだと理解している決まり事を知らない相手に対して持ち込み、なんとか上手にやって成果を出そうとしているからです。

職場でコーチングを「しよう」と思っている人は、すること自体に関心を向けています。相手の話を聴いているようでも、それは習ってきたコーチングの教科書にあった聴き方をしているだけです。相手が自分で考えることを支援するための質問をしているようでも、実際は教科書に出ている“コーチングぽい質問”を取り出しているにすぎません。

これはコーチングの理論的な支柱であるカール・ロジャースのClient Centered=クライアント中心ではありません。自分がコーチングをすること中心、です。スキルを覚えたから、それを使って「しよう」が全面に出たとき、それはコーチングではなくなるのです。

コーチングに関心のない人が、コーングを習っている上司からコーチングという得体の知れない会話のテンプレートを持ち込まれても、そのテンプレートが好きな人同士のようにはいきません。

まず、コーチングを“しないこと”からはじめる

そもそもテンプレート的な会話がコーチングだという誤った解釈が、残念ながら日本では広がっています。テンプレートを覚えてコーチングができるようになったと思い、〇〇認定とか付与されたら、そりゃあ職場で使いたくなりますよね。しかしそれはコーチングではないので、やはり機能しません。

さて、せっかく学んだコーチングを役立てるための、たったひとつの発想転換。それはコーチングをしないことです。テンプレート(コーチング関連の論文などではmodelと表現されます)に当てはめていくのがコーチングだという観念を乗り越えるためには、まず「しないことからはじめる」必要があります。

いちばん大切な人だと思って聴く

しないなら、なにをすればいいんだ・・・という哲学的なツッコミがきそうです。はい、その答えは用意しています。

たったひとつだけの、すること。それは目の前の人に好奇心をもって、少なくとも今この瞬間だけは、この人が地上でいちばん大切な人だと思って話を聴くことです。えーべつに好きにならなくても・・・という声は当然聞こえてくるわけですが、それがコーチングという専門職の起点であり、もどってくる場所です。

自分の思惑どおりに物事を進めることが相手への関心よりも優先されていたら、相手から受け取れることは限られます。ただあなたの話を聴きたいのだという態度と、よく分からないけど何かをしようとしている態度。不思議なくらい、相手はその違いをかぎ分けるものです。

聴くことで生まれる特別な関係

なぜ、そこまで聴くことが大切なのか。それは、その態度によって自分という存在が受け入れられていることを実感するからです。これが信頼のベースになり、安心で安全な関係性を築くきっかけになります。

そして、より相手を知るために聴く姿勢は、もっと相手を理解しようとする自然な問いを生みます。それは教科書から取り出した作為的な質問ではありません。私たちはコーチングの基盤をなすものとして、それを確認のプロセスと呼んでいます。

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例:なんども「できるかなあ」と言っているじゃない? なんか話すたびに曇っている感じがするのだけど、私の思い過ごし? 

※注 あくまで、その場で自然に生まれてくることが重要

このとき、ただ相手のことをもっと理解しようとしているだけなので、”結果“を出すために話を先に進めようとはしません。しかし実際には、次のような会話が多いのでは。

例:では、まずどこから始めますか?

この質問が表現として悪いのではなく、あらかじめ用意した質問リストから取り出すかのように使っていることに気づく必要があります。

相手は心の揺れ動きを繰り返し伝えているのに、聴き手の関心が結果を出すことや行動に向いています。それは今この瞬間に、相手と共にいないとうこと。参考までにICFコアコンピテンシーフレームから一つだけ引くと・・・

カテゴリー5 Maintains Presence―今ここに在り続ける

5.01. Remains aware of what is emerging for self and client in the present moment

     今この瞬間、自身やクライアントに起きていることへの気づきを維持する

相手と共有領域を拡げて共通理解を深めていくことは、あるところまでいって完了するものではありません。状況も変われば自分のコンディションも変わり、感情の動きが思考に影響を与えます。だから常に相手を理解しようとする姿勢をもって関わっていくことで、関係がメンテナンスされつづけます。

こうやって一緒に大事な物事に取り組んでいる関係なのだという互いの実感を共有すること。それが、すべてのコーチング技法を支えるメタスキル=working allianceとなります。 これは研究に裏づけられたコーチング関係の土台です。

なぜ“コーチング後”の会話が弾むのか

職場のメンバーを相手に時間を決めてコーチングをしているマネージャーの録音を聴かせてもらいました(もちろん相手の了承済)。いちばん印象的だったのは、コーチングの時間が終了したあと、しばらく録音を停止せずに話し合っている内容でした。

コーチングが終わったので会話が自然になり、クライアント側(ここでは部下)が生き生きと話し始めて、コーチング中とは別人のようになっていたのです。そしてコーチ役のマネージャーから出てきたのはこんな言葉。

「なんか終わってからのほうがいい話ができている気がするなあ(苦笑)」

昭和の喫煙室が、ここにあった!

自分の習ったコーチングが職場で使えないなあと思ったら、いちど教科書を捨てて相手に寄り添い、どこからともなくコーチングが起きてくるのを待ちましょう。そういわれてもよく分からないと思ったら、とりあえずコーチングはしないで、相手のために雑談すればよいです。当たるも八卦、当たらぬも八卦。

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コーチングの本質を学んで対人支援の基盤をつくる

~10月4日(土)開講 EMCC Global 承認 ”Foundation” 認定コース~

コーチのマインドセットを強化するグループコーチング

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