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どう続ける?コーチングの継続学習~必要な理由とその方法とは~

今村佳未 投稿者:今村佳未 カテゴリー:コラムコーチングlatest news
MBCC®は次世代が今より幸福に暮らせる世界を築くため、「叡智を生み出す関係性と対話」を探究、実践するコミュニティ組織です。社会関係資本としてのマインドフルコーチング®️を、プロコーチを目指す養成プログラム、またコーチングを取り入れた組織文化の構築を目指す法人向けプログラムとして提供しています。

コーチングは、一度講座を修了したら、それで学習が完了するようなシンプルなスキルではありません。それは、コーチングを学んだ方なら誰しも納得のことでしょう。MBCCでは、これをよく運転免許に例えています。殆どの方は運転免許を取得したからといって、すぐにどんな道でも上手く走れるわけではありません。免許取得後に様々な道路を走ることで経験を積みながら運転技術が向上していきます。そして、運転しない期間が長くなると、運転感覚を取り戻すのに時間がかかることもあります。
では、コーチングの学習は、どのくらい続けていけば納得できるスキルを身に付けることができるのでしょうか?もちろん、そこには一つの答えがあるわけではありません。しかし、効果的で再現性のあるコーチングを提供し続けるためには、コーチングの本質を理解しておくことが重要であり、それが各自に必要な「学び」につながる鍵でもあると考えます。
本コラムでは、コーチングの本質に触れながら、継続学習について掘り下げていきます。それぞれの方にとって今年、そしてその先の学びを考えるきっかけの一つになれば幸いです。

学べば学ぶほど、自分が知らなかった事に気づく、気づけば気づくほどまた学びたくなる。
[The more I learn, the more I realize I don’t know.
The more I realize I don’t know, the more I want to learn.]

ーアルバート・アインシュタイン [Albert Einstein]

コーチングの複雑性を理解する

コーチングの学習を続けるうえで、必ず押さえておきたいことの一つが、コーチングスキルが複雑であるということです。その理由は、コーチングが単なる技術だけではなく、クライアントの多様性に応じて柔軟かつ高度に調整される「アート」としての側面を持っているからとも言えます。
コーチングにおける最適な方法とは、クライアントの状況と目的によって変わるため、唯一絶対のコーチングメソッドや万能なアプローチが存在するわけではありません。今、何が最適なアプローチなのかは、目の前のクライアントに対しコーチがマインドフルな状態で観察、傾聴、共感などを通して導き出していくのです。コーチは基本的なコーチングスキルに加え、状況適応能力や自己管理力などのメタスキルが不可欠です。状況や目的により最適化されたコーチングプロセスは、まさに包括的なアプローチだと言えます。
下記は、コーチングにおける代表的なメタスキルとスキルです。ざっと挙げるだけでもこれだけのボリュームがあるのですから、コーチには中長期的な学習視野が必要であることが自然と理解できるのではないでしょうか。

1.多様なクライアントへの対応

クライアントはそれぞれ異なる価値観、性格、目標、課題を持っています。そのため、同じアプローチが全ての人に効果を発揮するわけではありません。コーチはクライアントに合わせたコミュニケーションスタイルや方法を調整する必要があります。特定のテンプレートが通用しないことが多く、その場その場での柔軟な対応が求められます。

2.人間関係と信頼の構築

効果的なコーチングには、コーチとクライアントの間に信頼関係がうまれています。この関係を構築するためには、コーチが感受性や共感力、そして判断力を発揮しなければなりません。信頼が築けなければ、クライアントは心を開かず、コーチングの成果も得られにくくなります。

3.傾聴力と質問力

コーチングの基本は「傾聴」と「問いかけ」です。しかし、これを効果的に行うにはクライアントの言葉だけではなく、その背後にある意図や感情を読み取る能力が必要です。効果的な質問をするには、質問リストから選ぶような用意された質問ではなく、クライアントの自己認識や自己理解を深める問いをタイミングよく提示するスキルが求められます。

4.感情や無意識の領域への対処

コーチングでは、クライアントの感情や内面的な葛藤に触れることが頻繁に起こり、コーチには高度な共感力や感情を適切に扱うスキルが求められます。無意識の領域も含めてクライアントの価値観や物事のとらえ方を明らかにしながら、自己成長を促す建設的な関わり方をすることは容易なことではありません。

5.自己管理力

コーチの感情やバイアスがコーチングプロセスに影響を及ぼす可能性があります。コーチは自己理解や自己認識を深め、個人的な思い込みや判断を排除しながらクライアントに接するスキルを持つ必要があります。これには継続的な自己研鑽が欠かせません。

6.柔軟性と適応力

コーチングセッション中には予想外の状況が発生することがあります。たとえば、クライアントが突然強い感情を表すことや、目標が変化する場合もあります。コーチはこうした変化に敏速かつ柔軟に対応しながらも、目標や方向性を見失わないことが求められます。

7.倫理的配慮

コーチングでは、クライアントのプライバシーや自律性を尊重しながら進める必要があります。倫理的な判断が常に求められ、時には難しい判断を迫られることもあります。

上記の一つ一つの要素が組み合わさることで、発揮すべきコーチングスキルは重なり合い複雑化します。しかし、その分、習得したスキルを実践で活用することによって大きな成果を生むことが期待できる、やりがいのある領域でもあります。だからこそ、世界中で多くの人がコーチングを学んでいるのではないでしょうか。
これらのコーチングの本質を理解し、最適なコーチングプロセスを目指すことは、今後ますます精度が上がるであろうAIコーチングとの住み分けともなり、リアルな「人」によるコーチング(Human Coaching)としての価値が担保されていくことにつながるのではないかと考えます。

継続学習の方法は・・・

複雑な面を持つコーチングですが、総合的な基礎力を付けるためには、コーチングスクールなどである程度まとまった時間をかけて講座を受講するのが一般的です。ここでは、その後の学び、すなわちコーチングの継続学習について代表的な方法をご紹介していきます。

1.実践とリフレクションによる学び

コーチングの継続学習は、実践を続けていくことが前提です。実践における成功と失敗の経験は、全て学びとなりますが、その効果を上げるためにセッション後に「振り返り(リフレクション)」を行うことをお勧めします。(「リフレクション」に関しての参考:「コーチング学習に欠かせないリフレクションの習慣」MBCC HP掲載、「5 Questions to Reflect on After Coaching a Client(クライアントをコーチングした後に考えるべき 5つの質問)」国際コーチング連盟/ICF HP掲載)
ピアコーチングなどで率直なフィードバックを受けることは、自分だけでは発見しづらい改善点を見つける手助けにもなります。

2.トレーニング講座、ワークショップ、セミナーなどへの参加

さらに上級の講座を受講することやコーチング資格の取得を目指すことで、基礎レベルを超えた知識やスキルを増やしていくことができます。また、特定のスキルにフォーカスした短期講座やセミナーなどに参加することで、ピンポイントでスキルを磨くこともできます。目的や予算、スケジュールなどを考慮して、中長期的な視野で学習の選択をしていくと良いでしょう。
(MBCCでも、各種講座に加えて1日講座なども開催しています。直近ではコーチング基礎力強化の1日講座(2月15日)を開催予定です。その他の講座、イベント、セミナー等は随時HPに掲載しています。)

3.講座の再受講で学びを深める

初回受講時には理解しきれなかった内容や、自分のスキルレベルが上がったことで新たに気づくポイントが出てきます。同じ講座でも、経験を積んだ後に学ぶと実践と照らし合わせることもできるため、より深い理解や新しい視点が得られスキルの定着へとつながります。再受講を効果的にするためには、目的を明確に持ち(たとえば、どんなスキルを強化したいのかなど)、経験と学びをリンクさせる意識をもつことが大切になるでしょう。

4.スーパービジョンやメンターコーチングを受ける

経験豊富なコーチから定期的にフィードバックを受け、具体的なアドバイスや指導を受けることは、コーチングスキルの向上、倫理的な課題への対応、ビジネスの発展、精神的なサポートなど多くのメリットが期待できます。プロコーチとして成長し続けるためには、独学だけでなく、外部のフィードバックを受けながら実践を深めていくことが重要です。

5.コーチングコミュニティへの参加

ICF(国際コーチング連盟)EMCC(欧州メンタリング&コーチング協議会)など、プロフェッショナル団体の会員になることで、ネットワーキングやイベントへの参加が可能になります。最新の知識やトレンドを学べる機会や、人脈を広げるチャンスも広がるため、興味が持てるコミュニティを見つけて参加してみると良い刺激となるでしょう。

6.書籍や様々なリソースの活用

コーチング理論や技術に関する本を定期的に読むことで、新しい視点や方法論を学ぶことができます。また、例えば「マインドフルネス」、「リーダーシップ」、「心理学」など、コーチングに関連しているテーマを学び活かせることもあります。
もちろん今は書籍だけではなく様々なオンラインリソースもあります。限定的に考えず新しいツールにもチャレンジすることで、新たな学び方に出会えるかもしれません。
(MBCCでは、いつでも聴けるコーチングラジオの配信や無料で参加できるマインドフルネス瞑想会(直近では2月3日に開催)を定期的に開催しています。ぜひご活用ください。)

7.自己研鑽、自己成長

コーチングにはコーチの人間性も影響します。人としての自己研鑽を続け、継続的に自己成長をしていくことで、コーチとしての基盤(OS)をアップデートし続けることも大切です。
人の成長については様々な捉え方がありますが、リーダーシップ開発やコーチングなどの分野で広く応用されているのがロバート・キーガン(Robert Kegan、発達心理学者)などの成人発達理論です。成人発達理論とは、個人がどのように自己を捉え、世界と関わっていくかの発達プロセスを説明するものであり、成人になってからも精神面において成長し続けることができるという考え方に基づいています。この内面的な成長には、自己認識の深化、多様な視点、新しい価値観の構築、コンフォートゾーンを超えたチャレンジなどが後押しとなり、現在の自分の枠組みを超えていくような挑戦を続けることで新しい意識が芽生えていくと言われています。

学びにはタイミングや縁もありますが、目的や目標、予算などを考慮し、中長期的な継続学習のスケジュールを考えてみることで、逆に現在の学習に集中できることもあります。あえて時々立ち止まることで自分の現在地を確認し、必要であれば目的地(ゴール)を調整しながら進むことができるのではないでしょうか。その際に、前項の「コーチングの複雑性」を念頭におき、個々のスキルを学ぶ時間、学んだスキルを統合する時間(例えば実践練習など)、自己を磨く時間の3つを柱に考えてみると、学びの計画が立てやすいかもしれません。集中して学べる時期もあれば、そうでない時期もあるでしょう。ぜひ自分の目的や目標にマッチするようなオリジナルの成長ロードマップを描いてみてください。

学ぶことへの情熱を育ててください。そうすれば、成長が止まることはありません。
[Develop a passion for learning. If you do, you will never cease to grow.]

– アンソニー・J・ダンジェロ [Anthony J. D’Angelo]

国際コーチング連盟(ICF)が定める継続学習とは

コーチング分野において最もグローバルでの認知度が高く、影響力もある国際コーチング連盟(International Coaching Federation/通称ICF)では、認定資格の更新において継続学習を義務付けています。資格取得は大切なマイルストーンではありますが、ICFは継続学習が専門性の維持向上、そして倫理的かつ効果的なコーチングを提供し続けるために必要であることと位置づけています。
コーチング資格の中には、更新や継続学習を必須としていないものもあります。自分が目指すコーチになるためには、どんな資格が適しているのか。目指す姿の本質をしっかりと見据えることで、自分に必要な学びに出会えるのではないでしょうか。

ICF 認定資格を取得することは、コーチング実践者にとってプロとしての重要なマイルストーンです。資格を維持することも同様に重要です。ICF 資格更新プロセスは、コーチがプロフェッショナルなコーチング実践の最新情報を把握し、今日の課題に直面しているクライアントをサポートし、将来に向けて継続的な成長と向上にコミットできるように設計されています。
ICF では、資格保有者に対し、継続学習と専門能力開発を通じて 3 年ごとに資格を更新することを義務付けています。ICF 認定コーチにとって、資格の更新は、実践者としての継続的な学習、成長、卓越性への取り組みを示すことになります。
[Earning an ICF credential is an important professional milestone for a coach practitioner. Maintaining a credential is equally important. The ICF Credential Renewal process is designed to help coaches remain up to date on professional coaching practice, capable of supporting clients as they face today’s challenges and committed to ongoing growth and improvement for the future.
ICF requires credential-holders to renew their credentials every three years through continuing education and professional development. For ICF credentialed coaches, renewing the credential demonstrates a commitment to ongoing learning, growth, and excellence as a practitioner.]

Credentials & Standards| ICF – Professional Development(資格と基準| 専門能力の開発) (ICF HP)より抜粋

学習時に気をつけたいバイアス

バイアス(bias)とは、人間の認知や判断、意思決定などに影響を与える思考の偏りや傾向のことで、「偏り」「偏見」「先入観」「思い込み」などの意味があります。
バイアスは全ての人が持っていると言われ、決してネガティブな側面だけがあるわけではありません。しかし、無意識にバイアスがかかることでデメリットが生じることもあります。ここでは、効果的な継続学習を続けていく上で、ぜひ意識的に気をつけたい二つのバイアスをご紹介します。

「できる」「できない」というバイアス・・・人はなかなか正しく自己評価ができない傾向があります。例えば、能力の低い人ほど、実際よりも自己を高く評価する「優越の錯覚」が起きる認知バイアスがあり、心理学用語ではダニング・クルーガー効果と言われています。一方で、逆の働きをするものとしてインポスター症候群があります。これは、周囲から高い評価を得ているにも関わらず、「運が良かっただけ」「周りの人や環境のおかげ」と、自分を過小評価してしまう状態を指します。私達はなかなか正しく自己評価ができないものだ、という事を念頭におき、継続学習の際には「できる」「できない」という判断を一旦手放して、どんな時でもビギナーズマインド(初心の眼)を持って学習に向き合うことをお勧めします。

コーチングは芸術です。初心者の心構えがあれば、アーティストは未知の媒体や技法を自由に探求できます。同様に、初心者のコーチも経験豊富なコーチも、新しいアプローチに対してオープンな姿勢を保つことができます。この心構えを養うことで、クライアントも同じことができるようになります。
[Coaching is an art. Just as a beginner’s mindset can free an artist to explore unfamiliar mediums and techniques, so can this mindset enable both the novice and experienced coach to remain open to new approaches. Cultivating this mindset paves the way for clients to do the same.]

Having a Beginner’s Mindset: My Journey to Becoming a Coach(初心者の心構え:コーチになるまでの私の旅) (ICF HP)より抜粋

 

加算バイアス・・・コーチングには関連する学習テーマが沢山あるため、学ぼうと思えば膨大な学習が存在しています。本を読もう、講座を受けよう、朝活で時間をつくろう、通勤時間に学習しよう、と増やすことで成功すると思いがちです。もちろん加算して頑張ることが悪いことではありませんが、加算しすぎてどれも中途半端になることがよく起こっています。そこで、何をしないかを決める「引き算思考」を取り入れることも大切です。不要なものを減らすことで本質を見極め、もっとも重要なことに集中できるようになります。また、引き算により手放すものが増えれば、ストレスの軽減や生産性の向上といった効果も期待できると言われています。

最も重要な決定とは、何をするかではなく、何をしないかを決めることだ。
[Deciding what not to do is as important as deciding what to do.]

– スティーブ・ジョブズ [Steve Jobs]

他にも私達は様々なバイアスを抱えながら日々を過ごしています。バイアスは無意識に発動されていることが多いため、時々自分が持つバイアスについてオープンに向き合ってみることも必要でしょう。学習や成長にマイナスになりそうなバイアスに気づくことができれば、自己認識が深まり自己管理にもつながります。一つの小さな気づきや学びを大切にしていくことが、学び続ける環境を整える手助けとなります。

変化の波に乗る力

コーチングの継続学習を続けることは、多様なクライアントや社会の変化に適応していく力となります。テクノロジーの進化、経済の変動、価値観の変化などにより社会は常に変わり続けています。そのため、コーチとして成功し続けるためには、コーチングの本質への理解を深めながら、最新の知識や新しいスキルを身につけることも不可欠です。学び続けることは視野を広げ、自己成長のベースともなります。
さて、今年の学びの旅は、どんな道を行きますか?その先に何があるのでしょうか?好奇心も忘れずに自分らしい学習の旅を楽しんでください。

学ぶという事は一生続く、変化に遅れないようについていくためのプロセスだという事実を、私たちは今では受け入れている。そして、最も緊急な課題は人々に学び方を教えることである。
[We now accept the fact that learning is a lifelong process of keeping abreast of change. And the most pressing task is to teach people how to learn.]

-ピーター・ドラッカー[Peter Drucker]

MBCCリサーチ担当 今村佳未

 

ICF継続学習対象講座です。

<参考文献・書籍>