1on1の失敗とコーチングへの誤解 (4)

vol.172(2026年6月11日配信)

なぜ職場の1on1がうまくいかない(と悩む人が多い)のか、そこにコーチングの学習の仕方がどう影響しているのか。短期集中連載も最終回を迎えました。

前回ふれた大事なポイントを、あらためて学術的に押さえておきます。
(前回の記事は こちら。1回目は こちらからお読みいただけます)

コーチングでは心理療法と同じように、「どの技法が効果的か」ではなく「どんな関係性を土台に技法が活用されているか」が重要(Edward S.Bordin,1979)。

このBordinの研究は50年近く引用されつづけているworking alliance研究の原典のようなものです。
論文の言葉を用いると、Bond(信頼・情緒的なつながり=working allianceのベース)が形成されることで、Goal(目標)とTask(課題)への合意が進み、それによって成果が生まれる可能性が高まるという主張です。
これは後のメタ研究によって、さらに裏付けられています。

そのような関係を築く方法についてもBordinは述べていて、コーチやセラピストとクライアントが関わりを持った初期段階における傾聴と共感が、成果の基盤となるアライアンス形成を促進するとしています。

この研究には、近年さらに新たな知見が加わりました。
それはこのような関係性は一度形成されたら固定化するものではなく、歪みを経験しながら修復を繰り返していくということです(Safran and Muran,2000)。

つまりコーチは常にクライアントに”I don’t-know(無知の知)“の姿勢で関わり、共通認識を更新しつづける必要があります。
これを私たちは、ジョハリの窓のイメージになぞらえて「共有領域の拡大」と呼んでいます。
いったん拡大した窓も縮小していく可能性があるので、耳を傾け、観察し、確認する姿勢を維持しなくてはなりません。

これを怠ると、関係性の歪みに気づかないままコーチングが進みます。
ここで実は厄介なのは、コーチがスキルをもっていることです。
もっと効果的に技法を使えば事態を改善できると考え、ますます歪みが拡がっていく危険性があります。

それほどコーチングスキルを備えていないマネージャーはどうでしょう。
さいきん以前のように会話が弾まないし、〇〇さんのモチベーションも低下しているようだ。
そうなると自他への批判や焦りから知識と経験に頼り、一方通行の話にもどってしまうかもしれません。
あるいは1on1自体がフェイドアウトしてしまう…これもよくある話です。

では何をすればよいか。何をつづければよいか。
それを提案して連載を締めくくりたいと思います。

何を言うかを手放して、ただ全身全霊で耳を傾けること。

そこから聴いたこと、感じたこと、理解したことを相手に投げかけして確認すること。

このサイクルをまわしつづけるのが共感コミュニケーションです。
これが学術研究に裏打ちされた地味なコーチングの本質です。
さまざまな技法を活用するのは、その後だったり、ときには不要なこともあります。

共感コミュニケーションだけでコーチングができたという経験は、対話の概念を変えるかもしれません。
実際にその体験を現場での成果につなげている人が書いたnoteがこちらにあるので、よかったらぜひ読んでみてください。

職場の1on1をほんとうに磨き上げていったら、やがて組織文化にも影響が及んでくるでしょう。
いつかそれが社会全体に及んでくる日を信じる人たちと一緒に、私も一歩一歩、目の前のことに取り組んでいきます。


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