経営者じゃないとエグゼクティブコーチングはできないのか問題
エグゼクティブコーチングは経営職を経験した人しかできない、という言説があります。
それは正しいのか、都合の良いバックグラウンドを持つ人の印象操作なのか。
この論争には決着がついていません。
ここではコーチングでキャリアを積もうと思っている人が、これからの学習やビジネス構築の示唆を得られそうな研究を紹介します。
経営職にかぎらず、「職務経験が後のコーチングに活かせるか」を広く検証した結果、クライアントは自分と共通体験をもっているコーチを求める傾向があり、それはコーチングのプロセスに寄与すると報告されています。(George & Rose,2024)
重責を担い相談する相手が限られる経営職であれば、なおさらコーチの共通体験は信頼の証になるかもしれません。
この調査でわかっているのはクライアントの選好です。
共通言語があり経験から類推できることが多いので、スムーズに互いを理解して関係構築できることを、多くのクライアント、コーチ双方が報告しています。
しかし実際にコーチングの効果が共通体験を持たないコーチよりも高いことが定量的に示されているわけではありません。
著者自身が「選好は必ずしも効果と一致しない」と述べています。
ではクライアントとの共通体験以外に、コーチの何がコーチングの実効性を高めるのか。それを直接的に扱った研究があります。(Bozer, G., Sarros, J. C., & Santora, J. C. 2014)
イスラエルの4つのエグゼクティブコーチング会社のクライアントを対象にした準実験(実際の業務に即した研究)では、心理学的な訓練を積み自他の内面を扱うことに秀でたコーチが成果を上げました。
2つの研究から、「経営職を経験しているか否かは、エグゼクティブコーチの価値を決めるものではない」ということは言えそうです。
しかし決定要因ではないけれど、見逃せない大事な要素ではあると私は思います。
なぜならば最初に上げた調査で明らかになっている「クライアントの選好」は、コーチとの協力関係を築く駆動力になるからです。
コーチング技法の成果を最も左右するのは、この協力関係=working allianceであることは研究領域でのコンセンサスです。
他方、定量研究で実効性が高いとされる「心理学的な訓練を積んだコーチ」とは、ただ巧みにコーチングスキルを行使できるコーチではありません。
この専門職の曖昧さや限界を熟知して、状況と目的に応じてクライアントに関われるコーチです。
前述したように論文には「自他の内面を十分に扱うことに秀でた~」とあり、私は「自他」の自分=コーチ自身を扱う能力が核心ではないかと考えています。
なぜならクライアントとの“共通体験のなさ”は、新鮮な視点をもたらせる可能性でもあり、埋められない知識の溝を拡げるリスクでもあるからです。
私自身も一部上場企業の経営職を経験したことはありませんから、彼らと向き合うときは必ず何らかのギャップがあります。
そのギャップを自分がどう感じるか、どう向き合うか。
それが共通体験から自然に形成される協力関係とは異なる、コーチとしての関係構築の出発点になります。
類似する研究のメタ分析を行った文献では、「コーチとして普遍的に必要とされる資格はない」と述べています。
ただし実社会のビジネスへの理解と行動科学の理解という両面を磨く必要があることも強調しています。(Bono, J. E., Purvanova, R. K., Towler, A. J., & Peterson, D. B. ,2009)
エグゼクティブコーチングが共通体験だけに依存した“心地よい”時間になったら、その安心感はバイアスを拡げるための協力関係になるかもしれません。
一方で経営職の孤独と地獄を想像すらしない探求心のないコーチに、高い報酬を支払うエグゼクティブはいないでしょう。
学びはつづくよ、どこまでも。
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