クライアントの選択責任とはどういうことか

vol.177(2026年8月13日配信)

倫理規定につづくICFのコアコンピテンシーは、
【コーチングマインドセットを体現する―Embodies a Coaching Mindset―】
の構成要素として、次のサブコンピテンシーから始まります。

クライアント自身に選択の責任があることを認識している
 =Acknowledges that clients are responsible for their own choices.

行動指標のリストなので主語が省略されていますが、言うまでもなく主語はコーチ(The coach)です。
クライアントに責任がある~という客観的な記述ではなく、“コーチはそれを認識しなさい”という強いニュアンスが込められています。

そして“認識している”という日本語訳の元が“Acknowledges”であることに注目してください。
もしも“コーチはクライアントの責任について知っておきましょうね~”ということならば、”Recognize”や“Be aware of”などがくるはずです。
“Acknowledges”を用いているのは、クライアントの存在や価値、行為を認めて、それを伝え、関わっていく~といった能動的な意味を強調しているからだと考えるのが妥当でしょう。

ではなぜコーチングにおいて、状況も能力もさまざまであるはずのクライアント自身の責任が前提になるのか。
それはクライアントが人間として”responsible”(全体性を備えた信頼できる存在)であるという立場をとっているからです。
ただしICFのコアコンピテンシーには、このような背景を丁寧に説明する記述はありません。

「クライアント自身の責任」について本当に理解するためには、ロジャースの「無条件の肯定的関心」―あらゆる条件を排して相手を受け入れる―や、マズローの「自己実現」―人は自ら学び成長していく存在である―という、人間性心理学を支える柱を押さえておく必要があります。

コアコンピテンシーに書いてあることの本当の意味は、コーチングという専門職を成立させているコーチング以前の知の体系にふれることで理解が進みます。
しかしそこに遡って実践者として腹落ちさせるまでには、ある程度の知的格闘が必要かもしれません。
たどり着いたところでは、コーチがクライアント自身の選択を支援する関わり方とは何かが、表層的なスキルではない在り方―way of being として見えてくると思います。


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