コーチングを学んだことがある人なら“コーチャビリティ”という言葉を聞いたことがあるかもしれません。

通常「あの人はコーチャビリティが高い」と言うと、コーチングを受ける人=クライアント自身が「コーチングを受けることで自ら気づき、行動を起こして望ましい変化を創り出す能力」が高いことを意味します。

それはコーチのスキルによって促進されるのでは?と思うかもしれませんが、たとえコーチ側が同じようなアプローチをとっても、クライアントAは深い気づきを持って建設的な行動につなげていく。クライアントBは堂々巡りをくりかえし行動がつづかない。そんな違いが出てくることは珍しくありません。

では何がコーチャビリティを高めるのか。

多くの論文や専門誌で引用されているエグゼクティブコーチングの成果に関する体系的な研究からご紹介します。

引用元:Athanasopoulou, A., & Dopson, S. (2018) A systematic review of executive coaching outcomes: Is it the journey or the destination that matters the most?

The Leadership Quarterly, 29(1), 70–88.

ここではクライアントのコーチャビリティを5つの構成要素で示しています。※論文では”Coachability”という言葉は使われておらず、コーチングで成果を上げている“クライアント要因”(Client-related factors)として記述。

  • 成果以上に学習を志向する

成果を出して認められることよりも、学び成長することに動機づけられる。正解か不正解かにこだわるのではなく、手探りで取り組んでいくことに前向き。

  • 特定の考えや感情にはまり込まずに省察する

自分の思考や感情、行動を対象化して新たに意味づける能力。

  • できない理由より変化に向けて自分を動機づける

自ら望ましい方向に変わっていこうとする意志。

  • フィードバックに対して開放的

あらゆるフィードバックを前向きに受け止めて学習や行動に活かす。

  • 行動する意欲 

気づいて満足するのではなく、行動へと自らを動機づける

コーチャビリティを引き出す協働関係

これだけ揃っていたらコーチはいらないのでは?という声も聞こえてきそうです。

しかしこの研究は実際にエグゼクティブコーチングを受けている経営層が、コーチという他者との関わりを通して成果を上げている事例にもとづいています。もちろん十分な成果に至らないケースもあり、その分水嶺となるのがコーチャビリティを構成する5つの要素なのです。

とはいえクライアントのコーチャビリティだけでコーチングの成果が決まるわけではありません。複雑で困難な課題に対してコーチが適切な支援をできなければ、クライアントの可能性を十分に引き出せないこともあります。

しかしコーチングの過程で難しい局面が訪れても、クライアント自身が前向きにコーチと協働することによって、コーチングで成果を出せる可能性は高まります。

コーチとクライアントが共に協力して主題に取り組む関係性(ワーキングアライアンス=協働関係)は、あらゆる技法の効果性を左右するメタスキルです。

ではコーチャビリティと協働関係、どっちのほうがより重要?

これまでの研究によれば、2つの要素は相互補完的な関係にあると理解するのが妥当なようです。

私のコーチとしての経験からも、クライアントのコーチャビリティは協働関係の構築を容易にしてくれます。他方、コーチが協働関係の構築に配慮することで、クライアントのコーチャビリティが解き放たれてくることも多々あります。

そしてこの二つの要素は好循環をもたらします。

コーチャビリティの強化はコーチングの大前提

なかなかコーチングが良い方向に進まない、難しいクライアントとの仕事について相談を受けることがあります。クライアントのコーチャビリティという概念を知っているがゆえに、知らないうちにコーチが「難しいクライアント」というレッテルを貼っていることも。

コーチャビリティを十分に発揮していないからといって、コーチングが機能しない人であるとは限りません。コーチングというアプローチが適さない人だと評価するのは早計です。

コーチングを万能薬としてとらえることを強く戒めなければならないのと同じくらい、クライアントの可能性を安易に評価することにも注意が必要です。

コーチャビリティはクライアントの特性であるだけではなく、コーチが開発をサポートするべきコーチングプロセスの前提でもあるのです。