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自己改善よりも自己受容が必要なとき~ありのままの自分を受け入れる~

今村佳未 投稿者:今村佳未 カテゴリー:コラムコーチングlatest news
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「自分のこと好きですか?」

「自分の短所も含めた、今のままの自分を愛していますか?」

突然こんな質問をされたら、あなたは何と答えますか?あなたのクライアントは何と答えるでしょうか?
ありのままの自分を否定することなく受け入れることを「自己受容」といいます。それは、完璧ではない自分、過ちや失敗をした自分、欠点や短所のある自分をも理解し、それでも肯定的に受け入れることです。自己受容は、自信を持って生きていくためにとても重要だと考えられていますが、私達の多くは自己受容が不足しているとも言われています。
コーチングにおいても、クライアントの自己受容の有無が、行動変容や取り組みの結果に大きな影響を与える可能性があります。そもそも設定したゴールにも影響するかもしれません。コーチであれば必ず理解しておきたい心理的な側面の一つではないかと考えます。
本コラムでは、思考や言動、幸福感、他者とのコミュニケーションなどにとても大きなインパクトを与える「自己受容」について理解し、自己受容の育み方について掘り下げていきたいと思います。まず、他者を思いやるように自分のことを思いやる考え方=セルフ・コンパッション研究の第一人者の言葉を紹介します。

セルフ・コンパッション研究の先駆者で心理学者のクリスティン・ネフ博士によれば、人が自分に優しくなれない一番の理由は、それによってタガが緩み、自分が後退することを恐れるからだという。だが、実際はその逆だ。2016年の研究によれば、「セルフ・コンパッションは個人の大きな改善につながり、その一因は自分自身をもっと受け入れることにある」という。 

自分で自分を追い込むほど、目標から遠ざかっていく 自己改善ではなく自己受容を実践する | ビジネススキル|DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビューより抜粋

自己受容とは?

前述したとおり、自己受容とは無条件にありのままの自分を受け入れることです。そう説明すればシンプルに聞こえるかもしれませんが、実は心理学者の間でも共通する一つの定義が定まっていない、人間の複雑な内面的側面でもあります。
自分の長所や得意な側面を受け入れることは比較的簡単です。しかし、自己受容とは、自分自身のあまり望ましくない部分、否定的な部分、醜い部分も無条件に受け入れることであり、そのためには自分への優しさや強さなども必要であると言われています。前述した「セルフ・コンパッション」は、自己受容を育んでいくと考えられます。
私達の多くは、子供の頃から競争社会の中で生きているとも言えます。学校での成績、スポーツでの勝敗、受験、就職、昇進など、スキルや能力、適性などで順位がつけられ合否が判定される場面は、全ての人が経験しているのではないでしょうか。さらにSNSの普及は輪をかけて自分と他者を比較する原因にもなっています。他者のキラキラした一面をSNSで見ることにより、自分よりも幸せで成功している、他者の人生の方が立派に見える、そんなことが世界中で起こっています。これは、いつの間にかメンタルヘルスを悪化させてしまう原因にもなっている、とても危険なことでもあります。(なんとSNS利用者の25%が鬱病になる可能性が高いと診断されたという研究結果もあるそうです) 自分の内から否定的な声が頻繁に聞こえる場合は、注意が必要です。たとえばこんな声・・・

「仕事で失敗をした自分はダメなやつだ」
「試験に落ちた自分は、そもそも頭が悪いし頑張っても無駄だ」
「私は可愛くないから誰からも愛されない」
「稼ぎの悪い自分はカッコ悪い。」
「子供に怒ってばかりいる私は、悪い親だ」

自分への否定的な言葉は、認識していることもありますが、その多くは無意識的に流れてきます。このような状態でいくら目標に向かっても、条件付きでしか認めない自分がずっと存在することになってしまいます。もちろん、ゴールや目標に向かい取り組むことは素晴らしいことです。自己改善をして在りたい姿に近づきたいと思うことは一生懸命に生きている証でもあるでしょう。しかし「自己受容」ができていないと、いくら大きな家に住んでも、ダイエットに成功しても、一流企業で働いていても、目の前の目標が一つクリアできたとしても、どこか満たされない自分が常に存在することになりかねないのです。自己受容の基盤があることで、自分の外で起こっていること(比較・競争・期待など)に振り回されることなく、自己と向き合っていけるのだと考えます。

人生の外側を変えるには、まず内側を変える必要があります。ルイーズ・ヘイ(作家、講演家)

In order to change your life outside, you must first change inside. Louise Hay

自己受容で得られるメリット

無条件に自分を受け入れることで、長年持っていた自己否定感から解放され、自分の価値を感じながら日々を過ごすことができるようになります。そのため、生活全体における満足度が向上し、幸福感を感じやすくなります。自己受容により得られるメリットは沢山ありますが、下記はその代表的なものです。

内面の平穏:

自分を受け入れることで、内面で起こる戦いやストレス、不安が軽減されて心の安定と平穏が生まれます。

自分らしくいられる:

外からの評価や期待、他者との比較などから解放されることで、より自由にありのままの自分自身でいられるようになります。また、自分の価値も感じやすくなります。

自己肯定感の向上:

自己受容は自己肯定の土台となっているとも考えられおり、自己肯定感を高めるのに役立ちます。自己受容をしていない状態での自己肯定は、失敗や困難に直面した時に崩れやすい危険が伴います。自己受容があれば、一時的に困難な状況になったとしても、前向きな気持ちや自信がうまれる可能性が高まります。

前向きな行動:

うまくいかないことも受け止めることができるようになると「では、どうしたら良さそうか?」と前向きに考えやすくなります。レジリエンスが高まり、前向きな一歩を踏み出せる力が引き出され、成長する機会を得ることができます。

他者との関係改善:

自分との付き合い方は、他者との関係構築の基盤となり、自己受容ができると他者の受け入れにも寛容になると考えられています。また自己受容が高い人は、他者とのコミュニケーションを円滑に行うことができ、より健全な人間関係を築くことができる傾向があります。

あなたが与えることができる、または受け取ることができるギフトの中で、心の声に従うこと以上のものはありません。それがあなたがこの世に生まれた理由です。あなたがあなたらしく生きるための方法です。

オプラ・ウィンフリー(アメリカの女性テレビ司会者、女優) There is no greater gift you can give or receive than to honor your calling. It’s why you were born. And how you become most truly alive.Oprah Winfrey

なぜ自己受容は難しいのか?

自己受容することが難しい理由は、いくつかの要素が重なりあっているからともいえます。親からの影響、育った環境や文化などの外的要因や、失敗やトラウマ、性格などの内的要因が考えられます。下記は自己受容を妨げる要因としてよく挙げられるものですが、これに限ったものではありません。

親の影響:

親からの影響は様々なケースがあり、一概には言えませんが、親の言動が子供に大きな影響を与えることは間違いありません。一例として、「褒めて伸ばす」という教育は多くの親が良いと思い導入しているかもしれませんが、子供にとっては「条件付きの愛」として伝わってしまうこともあります。「成績が良いから偉い」、「お手伝いをしたから良い子」のようにポジティブな行動や結果に対してのみ褒められる経験をすると、「頑張らないと愛されない」とインプットされてしまう可能性があります。これは、親にそのような意図が無かったとしても、ありのままの自分を受け入れることができないことに繫がってしまう危険があります。

社会的影響:

社会や文化の中では、完璧主義や他者との比較など、自己受容を妨げる要因が多く存在しています。SNSもその一つです。外からの期待や一般的な規範に合わせようとすると、自分自身を受け入れることが難しくなります。

完璧主義:

完璧主義な人は、物事を減点方式で見ていることがよくあります。100点や完璧の状態があり、ちょっとした失敗やミスがあると減点されるように感じます。これにより常に自分自身も完璧ではないと感じてしまい、自分を受け入れることが難しくなります。

過去の経験:

過去のトラウマやネガティブな経験が、自己受容を妨げることがあります。過去の「傷」を乗り越えることができず、それが長年の自己受容の障害になることがあります。

自己理解の欠如:

自分の欲求や感情、価値観などを理解し、それらを受け入れることが重要ですが、そもそも自己理解が正しくできていない場合は自己受容が妨げられます。

自己受容がないと、人は本質的に自分自身の価値を下げてしまい、これが仕事、友人、家族、健康、幸福など、人生のあらゆる分野に悪影響を及ぼすことがよくあります。 メーガン・マーカス、心理学博士

Self-Acceptance: Characteristics, Importance, and Tips for Improvement (verywellmind.com) より抜粋

自己受容への6ステップ

もしあなたが今日自分を愛するつもりがないなら、明日になっても愛することはないでしょう。今ある言い訳は明日になってもあるでしょうから。20年後も今と同じ言い訳をしているかもしれません。そしてその言い訳にしがみついたまま死ぬことになるでしょう。思い込みを手放してあなたのすべてを今日愛しましょう。 「内なる力」より抜粋(ルイーズ・ヘイ著)

自己受容はどのように育んでいけるのでしょうか。もちろんその方法は一つではありませんが、ここでは、40年以上セラピストとして活躍するカリル・マクブライド博士が紹介する「自己受容への6つのステップ」を紹介したいと思います。その中のステップ2にもありますが、特にトラウマと向き合う際は、心理的なサポートを専門とするプロ(心理カウンセラーやセラピストなど)と一緒に取り組む方が安全です。無理をせずにご自分のコンディションを確認しながら取り組んでください。(参照:6 Steps to Self-Acceptance | Psychology Today

自己受容への6つのステップ

ステップ1:自己受容に取り組むことをコミットします(Make a commitment to work on self-acceptance)これは単に、自分の自己受容に取り組むことを決意することを意味します。まず、自分の独り言や自分を責めていることに気づきましょう。自己受容日記をつけて、自分自身に送っているメッセージを書き留めてください。

ステップ2:過去のトラウマについて振り返り、それに取り組みます(Assess and work on any past trauma)過去にトラウマがあるなら、それを日記に書き出してください。あなたが経験したトラウマを特定し、それに対処し始めるようにしてください。セラピストと一緒に行う必要があるかもしれません。

ステップ3:自分の価値観を決めます(Determine your own value system)自分が何を信じ、何を信じていないかを棚卸しします。最も重要な価値観と、なぜその価値観に従って生きたいのかを書き出します。あなたの価値観の中には、幼少期に教えられたことも含まれるかもしれませんが、生まれ育った家庭で教えられたことの中には、意識的に信じていないものもあるかもしれません。あなたの価値観には、あなたにとって正しいものだけを含めるべきです。

ステップ4:大人になった自分を使って、自分自身に送っている否定的なメッセージを修正しましょう(Use your adult self to correct the negative messages you are sending yourself)父性的または母性的な大人の自分を使い、インナーチャイルドに話しかけ、自分自身に送っている否定的なメッセージを正しましょう。インナーチャイルドに手紙を書き、小さな子どもに話しかけるように話してみます。なぜそのメッセージが間違っているのかを説明し、どのように修正するかを決めます。例えば、「自分はダメな人間だ」というメッセージであれば、なぜ自分は十分な人間なのかをインナーチャイルドに説明します。

ステップ5:間違いや失敗を自分に許しましょう(Forgive yourself for mistakes and failures)自分自身を許すという意識的な決断をしてください。私たちは、今はそれらのことに気づいているとしても、以前は知らなかったこと、または認識していなかったことで自分を責めることはできません。間違いから学ぶことは重要ですが、後悔の念から自分を責め続けることは決して役に立ちません。

ステップ6:不完全さを受け入れます(Accept imperfection)完璧な人は誰もいませんし、完璧になれる人はいません。自問してみてください。自分は完璧でなければならないのに、他人には完璧であることを期待していない自分は誰なのでしょうか?自分の強み、弱み、間違いなど、ありのままの自分をすべて受け入れることを学びましょう。

コーチングにおける内省や自己探求も、もちろん自己受容をサポートします。自己と向き合うことで、自己認識力が高まり、自己受容が足りないことに気づくこともあるでしょう。マインドフルネスの実践を通して、内から聞こえるネガティブな声に気づくかもしれません。一気に解決しようとはせずに、変化にはある程度の時間がかかることも同時に受け入れておくと良いでしょう。
心理学者のクリスティン・ネフ博士の著書「セルフ・コンパッション」の中にも、自分を受け入れる優しさを培うヒントやワークが沢山紹介されています。なによりも、長年に渡り実生活でセルフ・コンパッションの実践をしているネフ博士の体験を知ることは、とても参考になるのではないでしょうか。なぜならば、それは決して魔法のように一瞬で起こる変化ではなく、一進一退を繰り返すことでの変化だということが分かるからです。

私は定期的にセラピーのクライアントに、本気で自尊心を高めたいのであれば、自分のどの部分がまだ受け入れられていないのかを探求する必要があると伝えています。結局のところ、自分自身をもっと好きになることは、主に自己受容と関係があるからです。そして、自分自身を判断するのをやめたときにのみ、私たちは自分が誰であるかについてより前向きな感覚を確保することができます。これが、自分に厳しくするのをやめるとすぐに、自尊心が自然に高まると私が信じている理由です。自己受容には自尊心以上のものが含まれるため、それが私たちの幸福な状態にとって非常に重要であると私は考えています。

The Path to Unconditional Self-Acceptance | Psychology Today

自分を受け入れ発揮できる力

自己受容ができないことは、誰にでも起こり得ることです。そして、自分を受け入れるためには、過去の傷を乗り越える必要があるかもしれず、苦しさや厳しさを味わうかもしれません。自分への優しさだけではなく、強さや手放すことなど、様々な取り組みが必要かもしれません。しかし、それらの取り組みは必ず内面的な自己成長につながると考えます。内面が成長することで、自分の価値に沿った物事の判断ができるようになります。自分の軸ができることで外からの期待や他者比較による目標設定ではなく、本当に自分が望んでいるゴールや目標を見出していきやすくなります。大袈裟かもしれませんが、この世界に生まれてきた意味を思い出すことができるかもしれません。

さらに自己受容への取り組みを通して他者を受け入れる力が培われることで、他者との人間関係が大きく変わります。リーダーシップやコミュニティでの役割などを後押ししてくれる力となることが期待できます。自己受容により必要のなくなった足かせを外すことで軽やかに動いていけることも増えるはずですが、何よりも日々の内面の平穏を感じることで、人生への関わり方がポジティブに変化していくのではないでしょうか。

MBCCリサーチ担当 今村佳未

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