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組織力を高めるコーチングカルチャーの築き方

今村佳未 投稿者:今村佳未 カテゴリー:コラムコーチング
MBCC®は次世代が今より幸福に暮らせる世界を築くため、「叡智を生み出す関係性と対話」を探究、実践するコミュニティ組織です。社会関係資本としてのマインドフルコーチング®️を、プロコーチを目指す養成プログラム、またコーチングを取り入れた組織文化の構築を目指す法人向けプログラムとして提供しています。>>>詳しくはこちら

前回のコラム「コーチングカルチャーとは?組織を成功に導く学習と成長」に続く、コーチングカルチャーについての2回目のコラムです。

コーチングカルチャーが根づくことのメリットは、過去の成功事例や数々のリサーチで示されています。しかしコーチングを取り入れることで特定個人のみならず、組織全体を変えていくには体系的な取り組みが必要です。ここではコーチングを通して組織に活力を吹き込み、望ましいカルチャーを構築した事例を紹介します。

経営者やリーダー層へのコーチング

経営者や部門リーダー(以下ビジネスリーダー)の言動が変わると職場の雰囲気が変わる・・・。そのくらいビジネスリーダーは、良くも悪くも職場における影響力をもっています。

影響力を良い方向に発揮できるよう支援することが、組織や部門を率いる人にコーチをつける大きな理由です。

ビジネスリーダーに対するコーチングでは、その人自身、組織(チーム)、事業の全て、またはいずれかに焦点を当て、パフォーマンス向上を目指します。コーチングを受けるビジネスリーダー自身が成長すること。それが組織全体に望ましい影響を広げていくために不可欠なテーマとなります。

「あの人は変わった・・・」と 周囲に感じさせるようなビジネスリーダーの行動変容がロールモデルとなり、組織の文化を変えていく重要な起点になります。

行動を起こす原動力は一つではありませんが、コーチングで自己と向き合った結果、自己認識や自己管理の向上につながり、そのことが積極的な行動や他者へのコミュニケーションの改善等にも影響しているケースは大変多いと考えられています。

ウォール・ストリート・ジャーナルによると、コーチを雇用しているビジネスリーダーの71%が、コーチングによって会社の業績が向上したと信じており、60%がコーチングの結果、より良い意思決定ができたと報告しています。

According to the WSJ, 71% of business leaders who employ coaches believe coaching improved the performance of their company, and 60% reported that they made better decisions as a result of the coaching.

What the World’s Top Executive Coach Can Teach Us(世界トップのエグゼクティブコ ーチが教えてくれること)より抜粋(Psychology Today掲載)

The Impact of Coaching on Leadership(コーチングがリーダーシップに与える影響)によれば、 エグゼクティブコーチングを受けたフォーチュン1000企業のエグゼクティブ100人は、以下のような改善を報告したそうです。(カッコ内の数字は「改善」と回答した割合)

  • 仕事における関係性・・・直属の部下との関係(77%)、直属の上司との関係(71%)、同僚との関係(63%)、顧客との関係(37%)
  • コーチングを受けた幹部の定着率(32%)
  • チームワーク(67%)
  • 仕事の満足度(61%)
  • 生産性(53%)
  • コスト削減(23%)
  • 最終的な収益性(22%)

コーチングについては、上記のようなポジティブな報告やデータが多く、効果が期待できるのは確かです。しかし、コーチングは決して「魔法」ではありません。ポジティブなデータの影には、向き合うべき課題に対し、内省や行動、チャレンジを継続したクライアントの主体的な努力が必ず存在しています。 クライアントの可能性が最大限に引き出されたのは、コーチの存在があったからかもしれませんが、それは決して一夜にして得られるようなものではありません。

人の成長は、緩やかにおこるものです。コーチングに大いに期待を膨らませるのと同時に、効果が出るまでには、ある程度の時間やリソース、そして継続的な取り組みが必要なことを理解しておきましょう。

社内コーチを増やす

ビジネスリーダーを起点にしてコーチングが活用され始めたら、次はいかに多くの社員にコーチングを経験する機会を提供できるようにするかが課題となります。外部のコーチと契約するだけでは、大きな組織においては量的に限界もあるでしょう。そこで社内でコーチングの考え方と技法を学ぶ機会をつくり、「社内コーチ」を増やしていくことも有効な選択肢となります。

まず、シニアリーダーにいくつかのコーチングの基本を教えることから始めます。 それは、傾聴すること、質問すること、行動を起こす前に内省を促し、洞察を深めることです。次に、彼らが最も尊敬するチームメンバーをコーチできるように指導します。これらの「影響力を持つ人」は、コーチングを受けることで注目を集めるようになり、同じコーチングの行動を学び、模範とすることに前向きになります。時間が経てば、コーチングの文化が生まれるでしょう。ー キャロリン・エスポジート、タレント・パスウェイズ社

Start by teaching senior leaders a few coaching basics — listening, asking questions, encouraging others to reflect and develop insights before taking action. Then guide them to coach their most respected team members. As these “influencers” gain traction from beingcoached, they will be open to learning and modeling the same coaching behaviors. Over time, a coaching culture will emerge. – Carolyn Esposito, Talent Pathways, Inc.

13 Ways Leaders Can Build A ‘Coaching Culture’ At Work(リーダーが職場で「コーチング文化」を構築できる13の方法)より抜粋(Forbes掲載)

ビジネスリーダーがコーチングの基本を体系的に学ぶことは効果的ですが、 最初からプロコーチレベルを目指す必要はありません。それよりも、基本を一つ学んだら、一つ実践してみる。リアルなビジネス現場で「実践」を重ねながら、少しずつコーチとしての筋肉を付けていくことが、1年後、2年後に大きな変化を生むきっかけとなります。

初めは「傾聴」を心掛け、とにかく部下の話を最後まで聴くというような、一つ一つのコミュニケーションスキルを意識した取り組みを続けることが、やがて統合されて大きな力となります。

今ではコーチングを学べるスクールや講座、書籍などは検索をすればすぐに見つかります。MBCC®️でも、コーチングを体系的に学べる講座を用意しております。)

コーチングの学び方に関して、MBCC®️CEOの吉田典生が「コーチング3つの学び方」というコラムも書いております。ぜひ参考にしてみてください。

 

社内コーチの成功事例

社内コーチを増やし、コーチングカルチャーを構築した成功事例として、ヤフーの「1on1 ミーティング」はとても有名です。

毎週1回、30分の対話は、基本的には部下が自分の考えを話すことで進められる。上司は、なかなか言葉にならない部下の思いを引き出す努力はするものの、結論を先取りしたり、決めつけたりはしない。その30分で上司は部下の業務の進捗確認を行い、また問題解決をサポートする。そして、これが1on1の最大の狙いだが、対話を通して部下の目標支援と成長支援を行うのである。そのコミュニケーションが目標支援と成長支援につながるように、マネジャーたちはコーチング研修を受けて「傾聴」のし方を学び、有効な「フィードバック」の手法を身につける。端的に言えば、ヤフーの 1on1 は人材育成を目的とする上司と部下との対話なのである。

ヤフーはなぜ6000人の社員を巻き込む「1on1ミーティング」を続けるのか?|人事 評価を考える|ダイヤモンド・オンライン(diamond.jp) より抜粋

 

仕事においては、業務で必要な情報・知識・スキル等を教えるティーチングももちろん必要です。新入社員には、業務プロセスやポリシー、様々なツールの使い方なども教える必要があります。新たに管理職となる人には、リーダーシップスキル、人材管理、コミュニケーション等の知識をインプットする場も必要でしょう。既存のビジネスリーダーを含め人のマネジメントを担う人が社内コーチとなる場合は、コーチングとティーチングの目的やアプローチの違いを理解し、両者の住み分けを整理しておくと良いでしょう。

組織コミュニケーション力の底上げ

コーチングを取り入れることを考えているような組織では、既に組織内のコミュニケーション改善に向けた研修を行ない、ツール(社内SNS、チャットなど)の導入や他の施策(フリーアドレス、コミュニケーションの活性化を意図したオフィスづくり)にも力を入れているでしょう。しかしもう一つ忘れてはならないのは、コーチングを実践していこうとする人々が自分をより良く理解し、他者をより良く理解すること。そして互いの違いをふまえて、効果的な関わり方を見出すことへの意欲を持ち続けることです。

 

自己認識力(セルフ・アウェアネス)

自己認識力とは、自分の感情や価値観、強みや弱み、行動パターンなどを把握する能力のことを指します。自己認識力が高まると、人は自分の行動や決定に対してより的確で客観的な視点を持つことができるようになることが、研究などで示されています。

高い自己認識力は、コミュニケーションやリーダーシップ、人間関係の構築などさまざまな側面で優れた能力を発揮するためのメタスキルとも言われています。また、自己認識力があるからこそ、自己管理(セルフマネジメント)をすることも可能になるわけです。

自己認識力を高めるためには、マインドフルネスや瞑想の実践、他者からのフィードバック、コーチングなどを通した振り返りや内省など、自己と向き合う時間を持つことが効果的だと言われています。

コミュニケーションスタイル

コミュニケーションの質を高めるためには、自己理解と共に他者理解も必要です。人は皆、異なる価値観を持っており、モチベーション要因や思考・感情の表現方法などが異なります。自分とは異なる価値観や考え方を持つ他者を広く理解するスキルは、先入観や固定的な視点から自己を解放し、オープンでフラットな関係性を築く架け橋となります。

心理学や行動科学などの研究が進んだことで、人の感情や行動、コミュニケーションについて、理論的・体系的に理解できるようなツールも増えています。

組織へのコーチング導入と親和性が高く世界的に広く活用されているのがDiSCです。パーソナリティ心理学にもとづくDiSCでは、人の思考と行動特性から4つのコミュニケーションスタイルに分類し、さらに一人ひとりの多様な特性をとらえていくことができます。

エグゼクティブコーチや社内コーチを支援する外部のビジネスコーチがDiSCを活用できると、社内でコーチングを実践していく人がコミュニケーションを可視化しやすくなります。

戦略とトライアンドエラーの精神

トライアンドエラー(トライアル&エラー)は、文字通り「試す」と「間違える」を繰り返し、その過程で学習し、成果につなげていくアプローチです。

多くの人は無意識的に「失敗」を避けようとするものです。それが悪いことではありませんが、コーチングカルチャーが浸透している組織とは、自ら学習し成長していける組織でもあります。

失敗の許容は「自由なチャレンジ」、「自主的なアプローチ」を導きだし、多くの潜在能力を引き出すきっかけともなります。新しいチャレンジをしていくのであれば、ある程度の失敗も許容できる組織風土をつくることも大切です。

 

コーチングカルチャーを導入することで、チームは自由に試し、自分たちのやり方で課題を解決するための新しいアプローチを試すことができる環境がうまれます。コーチングカルチャーは、新しいアプローチを試すことをサポートし、これらの試みは時には失敗することもあるが、それはそれで構わないということを認識します。コーチングカルチャーは、すでに存在している可能性を解き放ちますが、ほとんどのチームは失敗を恐れてそれを抑制しています。ー デニス・カイト、it works!LLC社

Adopting a coaching culture creates an environment where teams are free to experiment and try new approaches to resolving the challenges in their way. A coaching culture supports trying new approaches, recognizing that sometimes these experiments will fail and that this is okay. It unleashes potential that is already present, but most teams suppress it out of the fear of failure. – Dennis Kight, it works! LLC

13 Ways Leaders Can Build A ‘Coaching Culture’ At Work(リーダーが職場で「コーチング文化」を構築できる 13 の方法)より抜粋(Forbes 掲載)

 

ただし、ビジネスにおける失敗は時間とリソースが無駄になることも考えられます。それも含めて学習と捉えることは出来ますが、メンバー内での十分なコミュニケーションとリスク管理を含めた戦略を練ることで、より思い切ったチャレンジをする環境をつくることにもなります。

外部機関のサポートも視野に入れる

コーチングカルチャーを築きたい、人材・組織改革を進めたい、と考えても、日々の業務に追われ手が付けられないこともあるでしょう。出来るところからチャレンジすることも、書籍や事例などから学びチャレンジすることも、もちろんできます。

一方で、多くのビジネスリーダー達が組織改革や風土づくりが上手くいかないことに悩んでいるようです。こうした施策は片手間でできることではなく、丁寧な現状把握やゴール設定には専門性も必要です。そこで大切なことは、外部の専門家を上手く活用しながら進めていく視点でしょう。

けっして外部への丸投げ、依存ではうまくいきません。あくまでビジネスリーダー自身が変革を推進するメンバーとチームをつくり、当事者意識を持つかが重要。まさにコーチとクライアントの関係と同じで、外部のコーチなど専門家との協働を通して本当の課題を表面化させ、組織の目的と状況に沿ったデザインを推進します。

「コーチングカルチャー」は、人の能力や良いところを活かしていくポジティブな考え方や、人を大切にする考え方が基盤にあります。この考え方が広がることは、社員や企業、そして顧客も含めた健全な関係づくりや、ビジネス展開に大きく貢献していくことが期待できるのではないでしょうか。

MBCCリサーチ担当 今村佳未

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