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ライフコーチングとは?「私らしさ」を発掘して可能性を引き出すコーチング

今村佳未 投稿者:今村佳未 カテゴリー:コラムコーチング
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ライフコーチングとは?「私らしさ」を発掘して可能性を引き出すコーチング

ライフコーチングとは、クライアントが望む人生を歩むために、クライアントのビジョンに基づいた目標設定を行い、その実現を目指すためのコーチングです。コーチは、主にクライアントの自己理解をサポートし、内面的な成長や行動を起こしていくことを後押しします。(「コーチング」の定義については、こちらもご参照ください。)

ライフコーチングは、米国では最も急速に成長している産業の1つと言われており(参照:U.S. Life Coaching Market Size, Share & Growth Report, 2030(米国のライフコーチング市場規模、シェア、動向分析レポート 2030) (grandviewresearch.com))、日本でも自己投資、自己啓発の選択肢の一つとして需要が高まっています。特にパンデミックが起こったことで、人生を見つめ直し、価値観や自分らしさをベースにした生き方を求める人が若年層を中心に増えていることも影響しているようです。本コラムでは、ライフコーチングの効果やメリットだけでなく、人の成長や自己実現に関する心理学やアカデミックな研究も交えてお伝えしていきたいと思います。

絶えずあなたを何者かに変えようとする世界の中で、自分らしくあり続けること。それがもっとも素晴らしい偉業である。

ラルフ・ウォルド・エマーソン(アメリカの思想家、哲学者)

ライフコーチングの効果・メリット

  • 対人関係を改善したい
  • ワーク&ライフバランスを整えたい
  • 資格取得や転職をしたい
  • タイムマネージメント力を上げたい
  • コミュニケーションを改善したい
  • セカンドライフの準備をしたい
  • 健康的な生活をしたい etc

ざっと挙げても、ライフコーチングで扱われるテーマは多岐に渡ります。しかし、共通してテーマの根底には「こうなりたい」というクライアントの願望が存在しています。ライフコーチングでは、クライアントの価値観をベースに、クライアントが主体的に自己理解を深め、叶えたい目標を設定し、コンフォートゾーンから一歩踏み出して行動を起こしていくことをコーチが支援をします。

人は誰でも「幸せな人生をおくりたい」「私らしく在りたい」と願うものです。しかし、心の底にある願望や価値観、自分の強みや弱みなど、自分のことを案外知らない、または忘れていることが多いのかもしれません。

抱えている課題や悩み、なかなか進まない行動など、クライアントが一見ネガティブだと感じている側面には、自分を知る手がかりが隠れています。コーチからの質問やフィードバックにより、クライアントは内省を深め、自分の中に眠っている感情や価値観を掘り起こし、本当に取り組むべきテーマと向き合います。そして、この一連のプロセスは、クライアントの成長を押し上げていくのです。

Why Does Coaching Work? An Evidence-Based Perspective(コーチングはなぜ効果があるのか?証拠に基づく視点)| Psychology Todayによれば、最近のいくつかの研究で、コーチングが「心理的資本 (Psychological Capital)」を促進することが分かっているそうです。心理的資本とは、組織心理学やポジティブ心理学の文脈で使用される概念であり、個人が持つ精神的な資源や能力の総称を指していま す。主に下記4つの要素があり、これらは個人のパフォーマンスや幸福感、生産性に影響を与えると考えられています。

自己効力感(Self-Efficacy)

自己効力感とは、自分の能力に対する信念と自信のことです。自己効力感は、個人が目標を設定するときや成功体験を振り返るときに高まります。実際、コーチングのプロセスの重要な部分には、クライアントはコーチと一緒に目標を立て、目標達成に対する責任を持ち、目標達成から生じた成功を振り返り、祝うことが含まれます。

希望(Hope)

希望は、目標達成に向けた主体的な感覚によって生まれるモチベーションのある状態です。希望は「主体性の感覚を持つこと」と「変化を起こす方法を理解すること」という、相互に関連する2つの要素として現れます。コーチは両方の面でサポートします。そして、解決策に焦点を当てた思考を奨励および促進し、クライアントが実現可能なことに焦点を当て、変化にどのようにアプローチして実行していくかを支援します。コーチはまた、クライアントが内省に取り組むように後押しする責任もあり、そうすることで、クライアントが成功への可能な道筋に集中し、決意の気持ちを継続できるようにします。

楽観性(Optimism)

楽観主義は、将来についての肯定的な帰属が伴います。 心理的資本の研究者であるYoussefとLuthansが述べているように、楽観主義には「過去に対する寛容さ、現在に対する感謝、未来に対する機会の追求」が含まれます。研究によると、コーチは、可能な限り最高の自分になることに焦点を当てた介入を通じて、クライアントと協力しながら、この考え方を解き放つことができるのです。私たちは物事が困難になると落胆する傾向がありますが、コーチには物事を前向きに捉えなおす能力があります

回復力(Resilience)

回復力(レジリエンス)は、逆境から迅速かつ効果的に立ち直る能力です。レジリエンスは、役立つリソースを積極的に探し求める時だけでなく、状況を積極的に管理するときにも発揮されます。コーチは、クライアントが認知的再評価(特定の状況や出来事に対する考え方や解釈を変えることで、それに伴う感情の経験を変化させるプロセス)を通じて対処できるよう支援するだけでなく、一貫性のある安定した対話相手として機能するという点で、両方の行動を促進します。

人の「望み」を理解するための心理学

ライフコーチングとは?「私らしさ」を発掘して可能性を引き出すコーチング

人の「心」と「行動」について考える心理学は、コーチングとも深く関係しています。人の心というと、哲学的に感じる人もいるかもしれません。実際、心理学は哲学の1分野として捉えられていた過去もありました。しかし、現在では様々な研究が進み、とても科学的に人を理解する学問となっています。

ライフコーチングのテーマの根底にある人の「願望」とは、どんな心理的状態なのか。まずは、アメリカの心理学者であるマズローが 1960年代に提唱した「マズローの欲求5段階説」で体系的に、人の欲求について理解してみたいと思います。

マズローの自己実現「欲求5段階説」

「マズローの欲求5段階説」とは、アメリカの心理学者アブラハム・マズロー(1908~1970)が提唱したものです。人間の欲求を5つの段階に分類し、ニーズのピラミッドとして表されています。下から順に5つの階層になっており、下の階層から上の階層に向かって欲求が満たされていくと言われています。

  1. 生理的欲求:食事や睡眠、排泄といった人間が生命を維持するために必要な行動に対する本能的な欲求。
  2. 安全の欲求:経済的な安定や身体的な安全に対する欲求。
  3. 社会的欲求(所属と愛の欲求):家族や組織など、何らかの社会集団に所属して安心感を得たい、他者に受け入れられたり、求められたり、好意を持たれたい、という感覚的な欲求。
  4. 承認の欲求:所属する組織などの集団や自分を取り巻く人間関係から、自分は価値のある存在であると認められているという感覚的な欲求。
  5. 自己実現の欲求: 自分の能力を発揮し、自分らしく生きていたい、自分の理想の姿を実現したいと強く意識する感覚的な欲求。

ライフコーチングとは?「私らしさ」を発掘して可能性を引き出すコーチング

(参照:マズローの欲求 5 段階説とは?自己実現理論を階層ごとに分けて簡単に説明 | やさびと心理学(yasabito.com))

なお、後年のマズローはさらにもう1段階、高次元な欲求をピラミッドに付け加えていました。6つ目の段階「自己超越の欲求」と呼ばれるものです。自己超越の欲求とは、「社会をより良くしたい」、「世界の貧困をなくしたい」など、欲求のベクトルが自分ではなく他者や社会など自分の外にあるものに対して向いている欲求です。

人の欲求の全体図を理解しておくことは、コーチにとってはクライアントのニーズを理解する手助けとなり、クライアントもまた自分の願望を整理する手がかりとなるのではないでしょうか。

一方で価値観がますます多様化する現代社会においては、マズローの欲求5段階説に対する批判もあることを留意しておきます。その一つとして、人の欲求がピラミッドの階層を飛び越えることがある、という事実です。例えば、歌手や画家などのアーティストが、アルバイトをしながら経済的には不安定な状態で暮らしているケースがあったとします。物理的欲求や社会的欲求、承認欲求が満たされていない状態であっても、自分らしく生きるために「自己実現の欲求」に基づいて生きている状況と言えます。 このように、人の願望はある程度体系的に理解はできても、唯一完全な法則は存在していません。「自分らしく生きる」ための答えは、自分の中から探すより他ないのです。だからこそ、コーチングによる自己探求や自己理解、そして「自分とは一体何者なのか?」の答えを探る旅を経験したことのある人は、その価値を高く評価する方が多いのではないでしょうか。

前野隆司教授が提唱する「幸福の4因子」

ライフコーチングでは、クライアントは、自分の人生の幸福度を上げるためのテーマを設定していると言えます。その逆の目的でコーチングが行われることはまずありません。では幸せな状態とは、どんな要素で成り立っているのでしょうか?人の心はとても複雑ではありますが、「幸せ」についての科学的な研究は様々な切り口で行われています。

もともと機械系エンジニアでカメラやロボットなどの開発をされていた前野隆司教授(慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授兼慶應義塾大学ウェルビーイングリサーチセンター長)は、「幸せ」を科学的に研究している日本における第一人者です。

前野氏は、エンジニアとして開発する製品が「便利」や「安全」といった価値は提供できても、人間にとって最上位の価値とされる 「幸せ」の提供ができないと考えたことがきっかけで、「幸せ」についての研究をスタートしたそうです。

前野氏は、数多くのアンケート調査の結果を因子分析することで、幸せの条件として「4つの因子」があることを明らかにしました。4つの因子について、下記に簡単に紹介します。(前野氏が登壇したTED Talkでも、4つの因子について分かりやすく知ることができます。)

(1)「やってみよう」因子:自己実現と成長の因子

とにかく何かをやってみる、人に何と言われてもやってみる。自己実現や成長に関するものです。夢や目標を叶えた人はもちろん幸せですが、実は、目指しているだけで人は幸せだということが統計的にわかっています。

(2)「ありがとう」因子:つながりと感謝の因子

感謝する人、何か成し遂げたのはみなさんのお陰だと思っている人は、全部俺の能力だと思っている人よりも幸せです。親切で利他的、貢献する人も幸せです。感謝できる相手がいる、つながりが豊かな人も幸せです。

(3)「なんとなかなる」因子:前向きと楽観の因子

自己肯定感が高く、楽観的でポジティブで、細かいことを気にしすぎない人は幸せです。細かいことを気にしてもかまいませんが、それによって自己肯定感を下げないことが肝心です。自分には欠点もあるけれど、みんなで力を合わせれば何とかなる、といった楽観性を持つとよい。

(4)「ありのまま」因子:独立と自分らしさの因子

人の目を気にすると、人と比べて勝ちたいという気持ちが出て、地位財の獲得にやっきになり、長続きしない幸せに向かうことになります。人は人、自分は自分、自分らしく自分のペースでやっていく人が幸せです。

(参照:いまなぜ幸福学が注目されているのか EIシリーズ創刊記念イベント「働く私たちの幸福学」講演録[前編] | ワークライフバランス|DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー個人、組織、社会に広がる幸福経営学 EIシリーズ創刊記念イベント「働く私たちの幸福学」講演録[後編] | 組織文化/組織開発|DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー

この「4つの因子」と前述したコーチングで促進される心理的資本(自己効力感、希望、楽観性、回復 力)は、「主体性」「チャレンジ精神」「楽観性」「自分らしさ」など多くの共通項が見られます。すなわち、ライフコーチングを通して、主体的に自己と向き合い、自分らしさを探求し、自己実現を目指してポジティブな気持ちで目標に向かってチャレンジをしている。そんな状態になると、統計学的には幸せな状態である確率が高くなると言えるのではないでしょうか。

ライフコーチングを受ける際の留意点

ここまでライフコーチングのポジティブな面を沢山お伝えしてきました。しかし、ライフコーチングを受ければ全て OK というわけでは決してありません。そこで、ライフコーチングを受ける前にぜひ知っておいて頂きたいことを、何点かまとめましたので参考にしてみて下さい。

信頼できるコーチを選ぶ

ライフコーチングを受ける際には、コーチとの相性や経験やバックグランドなど気になるポイントがあれば必ず最初に確認をしておきましょう。コーチングという職業には法律で定められた制約がなく、誰でも「コーチ」と名乗ることができます。科学的な裏づけのある学習経験、認定資格の信頼性、その人自身のバックグラウンドなどを確認するとともに、体験セッションなどを通して相性を確認するのもよいでしょう。

オープンマインドで参加する

コーチングは自己成長や変化を促進するためのプロセスです。オープンマインドでコーチングセッションに参加し、新しいアイデアや視点に対して受け入れる姿勢を持つことが大切です。

主体性とコミットメントを持つ

通常コーチングは一回限りのセッションではなく、複数回のセッションを通じて成果を得ることが期待されています。コーチングのテーマに対し、主体的にセッションに臨み、セッション間の課題や行動計画に真剣に取り組むことが重要です。また、セッションに関してニーズや期待に合わない場合やセッションの進行に関する不満や疑問がある場合には、遠慮せずにコーチと話し合いましょう。

人の成長は直線的ではないことを理解しておく

人の変化・成長は直線的に起こるのではなく緩やかなカーブで起こります。実感できるレベルの成果には、ある程度の時間がかかることを念頭に置いておきましょう。コーチングではスモールステップ(小さな目標)を設定して、コンフォートゾーンから一歩を踏み出しやすくするのと同時に変化・成長を実感しやすくしています。小さな一歩の成功を大いに喜びましょう。

「私らしい」人生を解き放つ!

全ての感情や思考を評価や判断をされずに、ありのまま受け止めて聴いてもらえる環境は、実はなかなか無いものです。
もちろん一人でも自己と向き合うことはできますが、長年持っている思い込みや思考の癖が邪魔をして、なかなか新しい視点でポジティブに物事を考えられないことはよく起こります。何かを乗り越える時、最初に取り組むべきことは自分の中に眠っていることがとても多いのではないでしょうか。

通常コーチングは、時間や回数を決めて一定期間行うものです。(もちろん異なるテーマで長期間コーチングを受けている方もいます。)しかし、コーチと共に自己探求をした経験は、コーチングセッションの時間だけではなく、セッションとセッションの間、そしてセッション終了後のクライアントの人生にも様々な影響を与え続けていく可能性が秘められているのです。クライアントはコーチングのテーマ について探求することを通して、自分の根底にある価値観を知り、考え方や視点などもアップデートしています。

以前は大企業で働く一部の人しか受ける機会の無かったコーチングですが、コーチング産業が拡大し今ではコーチが増えたこともあり、どんな方でもコーチングを受ける機会が整ってきています。自分が求める生き方を見つけ、夢や希望を叶えていく一つのサポート方法として、ライフコーチングという選択肢があることを、もっと多くの方に知って頂きたいと思います。

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MBCC リサーチ担当 今村佳未

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