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「Z世代」の特徴を知り、コーチングで活躍を後押しする

今村佳未 投稿者:今村佳未 カテゴリー:コラムコーチング

Z世代×コーチング

コーチという立場で若い世代の活躍を後押しできたなら、そこにはどんな新しいストーリーがうまれるのでしょうか?

最近、日本でもメディアやビジネス誌などで「Z世代(Generation Z)」(1990 年代後半から2010年頃までに生まれた世代)について頻繁に取り上げられています。「Z世代」の人口比率が日本と比べ高い欧米諸国では、日本に先駆けてとても注目されている世代です。

「バブル世代」や「ゆとり世代」など、これまでも時代背景や価値観などから名づけられた「~世代」という言葉に、また新しい世代が名付けられた・・・。初めて「Z世代」という言葉を耳にした頃、私自身はあまり気に留めていませんでした。

しかし、「Z世代」の特徴や価値観と時代背景を重ね合わせてみたとき、もしかしたら「地球と人類の岐路に立つ非常に重要な世代」なのではないか、と考えはじめました。もちろん、どの世代も未来を繋ぐ大切な世代であることは間違いありません。けれども、温暖化という地球レベルでの課題に取り組むラストチャンスの時期に社会人になっていく、又は多感な時期を過ごしている世代なのです。

長年、人類が先送りにしてきた社会問題が浮き彫りになり、価値観の転換期でもあることを踏まえれば「地球と人類の岐路に立つ非常に重要な世代」と言っても大袈裟すぎることはないのではないでしょうか。

「Z世代」の特徴や価値観と時代背景

本コラムでは、「Z世代」の特徴や生まれ育った時代背景などを改めて整理してみます。オープンな気持ちで好奇心を持って知る。そのことで理解がより深まると考えます。

その上で、コーチ(又はコーチング)がZ世代にどう関わることができるのか、どんな可能性をうむことができるのかについて、いくつかの文献も参考にしながら考えてみたいと思います。

「Z世代」とは?

「Z世代」とは?

Z 世代とは、明確な定義はありませんが、大まかには 1990 年代後半から2010年頃までに生まれた世代を指しています(年代の区切りには諸説あります)

まだまだ社会人のごく一部と思いがちですが、Adobe  によると、2025 年には Z 世代が世界の労働人口の 27% を占めると予想されています。(注意:日本の場合は、少子化の影響でこの数字よりも割合は少ないですが、徐々に増えていくことには変わりはありません。)

「Z世代」の特徴

「Z世代」の特徴

Z世代を語る上で欠かせないのがデジタルツールです。この世代の人たちは、幼いころからインターネットに触れてきたデジタルネイティブとも呼ばれています。スマートフォンと発信型のSNS(Instagram, Twitter, TikTokなど)と共に育ちました。そのため「スマホネイティブ」「ソーシャルネイティブ」とも呼ばれています。

情報収集の方法も、検索サイトで「ググる」だけではなく、目的に応じた複数のSNSを使い分けています。

一世代前の「ゆとり世代」もSNSを使っていましたが、その頃は、mixiのようなネットワーキングや人間関係の構築を目的としたツールとしての使用が主流で、使い方に違いが見られます。

「Z世代」が育った時代背景

「Z世代」が育った時代背景

Z世代はITバブルの崩壊、リーマンショック、東日本大震災など、不安定な社会情勢を見聞きして成長してきました。親世代の終身雇用制度の崩壊もあり、経済面では基本的には保守的で、現実の生活を重視するリアリストの傾向がある、と言われています。

そして、新型コロナウィルス(COVID-19)の大流行にも大変な影響を受けています。感染症による世界規模の混乱の中、就職活動を行い社会に出始めた世代なのです。

どんな世代も社会に出ればそれなりの荒波はありますが、在宅勤務などの急な働き方の変化により本来人間の成長に不可欠な、人と人とのコミュニケーションが大幅に減ってしまったことは、とても大きなダメージとなりました。

“インフレが進行して、学費ローンに縛られ、住宅は高すぎて手が出ず、レイオフが相次ぎ、パンデミックが長引いて、不況が迫り来る──いま、多くの若い労働者が限界に達している。”

(「人とのつながりを感じられないZ世代を企業はいかに支えるべきか」より抜粋、以下「Z世代をいかに支えるべきか」、Harvard Business Review 2022年 8月掲載)

2015年に国連サミットで持続可能な未来を目指した国際目標SDGsが採択されました。この17の目標には、解決を先送りにされてきた社会問題が凝縮されています。

Z世代はこれらに代表する社会問題について、他の世代よりも関心が高いと言われています。その理由として、学校教育の場でも学んでいること。そして、SNSやYouTubeなど、より多くの情報源を持ち、インターネットでいつでも調べることができることなどが、挙げられます。

また、環境保全活動などについては、有名アーティストやインフルエンサーなどもSNS経由で情報発信を行っており、若い世代への啓発にもなっています。

『2020年度 ESG/SDGsに関する意識調査』(以下意識調査)では、「SDGs」や「ESG」について、若い世代ほど認知度が高いことが示され、それに比例し行動に結びついている、と述べられています。

“企業のSDGsの取り組みを認知すると、生活者の約7割(71.1%)はウェブサイトの閲覧や商品・サービスの購入など、その企業に対し何かしらの行動を起こす。“意識調査より抜粋)

「Z世代」の価値観

「Z世代」の価値観

「多様性」「コト消費」「つながり」という3つの要素は、Z世代の傾向をよく表す代表的な価値観です。

多様性:Z世代は子供の頃から世界中の情報にアクセスできる環境で、様々な価値観に触れて育っています。そんな彼らにとって、人が多様であることは当たり前のこと。自分らしさを尊重し、尊重されたいと思っています。

人種、性別、ジェンダーなど、現代社会では平等に受け入れられるべきというのがZ世代の考え方です。Z世代は社会や企業の差別や不平等に対して非常に敏感です。

コト消費:ブランド品を所有することよりも、自分にとって価値があるものにお金を使いたいと考えています。個性や自分らしいもの、オリジナリティを大切に考え、コストパフォーマンスも重要です。そして「モノ消費」よりも体験を重視する「コト消費」により関心を持っています。

つながり:Z世代を対象とした「新生活・友達作り」に関する調査 (以下、Z世代に関する調査)によれば、Z世代にとって友人が多いコミュニティは、「学校」や「職場」を抜いて「SNSやオンライン」が1位でした。そして、人と仲良くなるきっかけで最も多いのは、「趣味や共通点でつながる」(31.4%)でした。

“Coetoは、全国のZ世代(1996~2008年生まれ)の男女に「新生活・友達作り」に関する調査を行った。「リアルの友達ともSNSでつながりながら、会ったことのない人ともオンラインでつながっているZ世代は、リアルとオンラインのコミュニティを全く別のコミュニティとしてうまく使い分けていることがうかがえた。またオフラインの環境が少なくなっても、オンラインでコミュニケーションを取ることができるため、SNSで孤独を解消しているZ世代も多いようだ」と分析した。”

Z世代に関する調査 より抜粋)

「Z世代」の社会への影響

「Z世代」の社会への影響

新しい価値観を持ったZ世代が、経済や消費、社会のメイン層になっていくと、どんな変化が起こっていくのでしょうか?

日本は少子高齢化が著しいためシニア層の比率が高いですが、それでも団塊の世代が高齢化する「2025年問題」を迎える頃には、消費の中心は若い世代に移っていきます。世界的には、全人口に占めるZ世代の割合は高く、多くの国では日本よりも早くZ世代の購買力が他の世代を抜かしていきます。そのため、特にマーケティング分野では、Z世代の動向にとても敏感で、既にZ世代を取り込むマーケティング手法へのシフトは始まっています。

Z世代の就職観は、安定している企業自分のやりたい仕事(職種)ができるワークライフバランスを重視楽しく働きたいという傾向があります。(参考 マイナビ 2021年卒大学生就職意識調査

安定した環境で自分らしく働きたい、という希望は決して悪いものではありません。

しかし、労働人口が減り、変化が激しい時代に、これらを満たす企業がどれ程あるでしょうか。

他者との競争よりも、個性や多様性、協調することが大切にされた環境で育ったZ世代と、現実社会のギャップはとても大きく映ります。

価値観や考え方の違いに苦労しているのは、若い世代だけではありません。若い世代を部下にもつ、上司側も、どう対応すればよいのか苦戦している様子が伺えます。

“最近の新入社員は、基本的には“良い子”が多い。性格的にはガツガツしていないし、さりとておとなしいわけでもなく、あえて言えば言動にソツがないこと。5段階の成績ではオール4のイメージ。教科書通りにやることはすごく得意だし、ある意味で優秀だ。ただし、共通するのは“失敗を恐れる優等生”という感じ。だから教えてもらっていないことをやることを極端に嫌がる。(中略)
ソツがなく教えられた仕事は忠実にこなすのだが、どこかに失敗したくないというプライドのようなものがあり、教えられていない仕事に挑戦しようとしない。またミスしても「教えなかったあなたが悪い」と、自分の失敗を認めようとしない。その結果、上司や先輩とこじれると、簡単に退職してしまう傾向があると、この人事課長は説明する。“

(「『新人が育ってくれない』と悩む上司が知らない、Z世代の特徴とは 」より抜粋、ITmedia ビジネスオンライン2022年9月掲載)

企業ができる「Z世代」へのサポート

若い才能をコーチングでサポートする

“この不安定な時代にリーダーや管理職は、次の世代を担う人材を惹きつける手段としてだけでなく、協力的な未来への投資として、若い従業員とのつながりを深め、支援することが不可欠だ。そこで、次第に弱くなってしまっている若い世代をサポートするために、企業ができる4つの取り組みを提案する。” (「Z世代をいかに支えるべきか」より抜粋)

新しい価値観を持った若い世代が活躍していける職場づくりのヒントとして、「Z世代をいかに支えるべきか」では4つの取り組みを提案しています。

➀メンタルヘルスを前面に打ち出す

リンクトインによるとZ世代の66%が、メンタルヘルスとウェルネスを基盤とする企業文化を求めている。” (「Z世代をいかに支えるべきか」より抜粋)

社員のメンタルヘルスとウェルネスをサポートするには、社内ポリシー(指針)やプログラムを作り、経営層やリーダーを含む組織全体にその意識を浸透させる必要があります。昨今、健康経営を推進するようなサービスも増えていますので、外部から専門家のサポートを受けるという選択肢もあります。

よくある具体策としては、給与水準を上げる、フレックスタイム制度の拡充、休暇制度の拡充、育児支援、介護支援などがあります。また、DEI(ダイバーシティ〈多様性〉、エクイティ〈公平性〉、インクルージョン〈包摂〉)を実現するためのトレーニングや心理的安全性に関するトレーニングを導入し、一人一人違う「個」を尊重する風土づくりを行う企業も増えています。

②オンボーディングをコミュニティ形成のエクササイズにする

“オンボーディング(新規採用者の研修)は、新しく入社した人々に相互支援とウェルビーイングの文化を紹介する機会になる。バンブーHRの調査ではオンボーディングの経験を高く評価した従業員の80%以上が、その後も自分が所属する組織を高く評価しており、役割を明確に理解して、仕事に強くコミットしていると感じている。(中略)オンボーディングは、会社に関する情報を提供すること以上に、新入社員が互いを知り、安全かつ協力的な環境で質問をするために行うものだ。234ページのトレーニングマニュアルを読む時間ではない。従業員が新しい友人をつくるためのコミュニティを形成する場になるのだ。” (「Z世代をいかに支えるべきか」より抜粋)

オンボーディングで忘れてならないのは、人とのつながり、すなわちコミュニティ形成がデザインされているか、という点です。特にコロナ禍以降、オンラインでのオンボーディングプログラムも導入され、対面式では自然な機会がうまれる人と人とのつながりは、意図してプログラム化する必要があります。

③ 若い才能をコーチングでサポートする

“グリントの「従業員ウェルビーイング・リポート2021年」は、学習と成長の機会があることを、優れた職場環境を定義する最も重要な要素に挙げている。学習と成長に不可欠なツールの一つは、組織の枠を超えたメンターシップとスポンサーシップで、次の世代を担う人材が個人的および専門的な成長と昇進の機会を確保できるようにする。” (「Z世代をいかに支えるべきか」より抜粋)

Z世代をいかに支sえるべきか」には、米国でのいくつかのコーチング導入事例やサクセスストーリーが紹介されています。

しかし単にトレンドに乗って導入するのは失敗のもとです。自社の現状や文化、対象者の資質やレベルに応じたコンサルテーションのできるコーチ、コーチング会社を見極める必要があります。

入社後の伸び悩みや退職に困っているのであれば、オンボーディングでコーチングの要素を取り入れることもできます。

若手社員にとにかく早くリーダーに成長して欲しいのであれば、成長を加速させるアクセラレーター的なコーチングプログラムもあります。

人とのつながりの場を大切にしたいのであれば、同僚2人がお互いに高め合う中で気づきを得るようなピアコーチングもあります。

また、上司がコーチングを学べば、1on1などで日頃からコーチングの機会をつくることが可能になります。

心理的安全性の中で上司が自分の為に傾聴や承認をしてくれていることが分かれば、部下は本当に困っていることを打ち明けることができるかもしれません。もしくは、そのやる気と才能を後押しするような内省を促すことができるかもしれません。

④スクリーンタイムをコネクションタイムに変える

“Z世代の従業員の大多数(77%)が柔軟な勤務体制を望んでいる一方で、上司や同僚と物理的に近くないために、顔と顔を合わせるつながりが減って、メンターシップやキャリア開発の機会を逃していると感じている。(中略)

医療サービス企業のシグナによると、一緒にランチを食べたい同僚や親友が職場にいる人や、同僚と電話や直接会って話す機会が多い人は、「UCLA孤独感尺度」で孤独感が低い傾向がある。” 

(「Z世代をいかに支えるべきか」より抜粋)

定期的にオフラインで集まる、直接電話で会話をする、コーヒー休憩やランチを一緒にとる、歩きながら話すなど、意識的にコネクションタイムを増やすことで、若い世代が感じている孤独感を少しでも解消していくことができます。

「Z世代×コーチング」でうまれる可能性

「Z世代×コーチング」でうまれる可能性

世代による傾向はあっても、もちろん一人一人異なる価値観を持っています。

コーチングでは尚更、個別対応が必要です。世代による特徴や傾向はクライアントを判断するためではなく、理解するための一つのリソースとして役立つものだと考えます。

そして世代間ギャップを理解していくために忘れてはならないこと。それは、自分を含むすべての人がアンコンシャス・バイアス(無意識的な偏見、思い込み)をもっている、ということです。

コーチが世代を超えてコーチングを行っていく際、自分の持つバイアスに気づいていることは非常に重要です。なぜなら、無意識的な思い込みをセッションに持ち込んでしまえば、それはクライアントの思考や可能性にも制限をかけてしまう危険が潜んでいるからです。

例えば、コーチングセッションにおいて、Z世代のクライアントが「楽しく働きたい」というテーマを持ち出したとしたら、あなたにはどんなバイアスがありそうでしょうか?

Coaching Across the Generation Gap (“ジェネレーションギャップを超えたコーチング”)」( ICFブログ 2019年10月掲載)にも、「世代を超えてコーチする能力は、獲得する可能性のある外的な知識ではなく、あなた自身の内面の準備によって決まりますと述べられています。

そして、自分の持つバイアスを知るためには、振り返りの時間が大切であることが紹介されています。

時代の転換期に新しい価値観と感性を持つZ世代。そんなZ世代に無限の可能性とチャンスがあると信じ、好奇心を持ってアプローチしていくコーチの姿勢こそが、クライアントの可能性を拡げる土台となるのではないでしょうか。コーチングの場面が、クライアントが自分を信じチャレンジしていける勇気を得られる場所となれば、その先には新しい沢山の道がひらけてくるでしょう。

MBCCリサーチ担当 今村佳未