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コーチングカルチャーとは?組織を成功に導く学習と成長

今村佳未 投稿者:今村佳未 カテゴリー:コラムコーチング

コラム「コーチングとは?」

「コーチングカルチャー」とは、企業や組織においてコーチングが奨励され、社員が相互に学び合い、個人や組織の持続的な成長を促す風土を表しており、ますます変化が多く多様化するビジネスにおいて、注目されている組織開発のアプローチでもあります。

社員が成長することでビジネスにも好影響があるのであれば、直ぐにでも取り入れたいものですが、実現するためには時間や戦略、そしてリソースも必要になります。

しかし、企業の成長を支える人材や組織がしなやかに持続的に成長していくために、投資する価値は十分にあると考えます。

本コラムでは、日本ではまだ馴染みの薄い「コーチングカルチャー」とは具体的にどんな組織文化であり、どんなメリットが期待できるのか、そして実現のための道のりなどについて掘り下げていきます。

そもそも「コーチング」とは?

コーチングカルチャーについて理解する上で、まずは「コーチング」について理解しておきましょう。

国際コーチング連盟ではコーチングを次のように定義しています。

“Coaching”- partnering with Clients in a thought-provoking and creative process that inspires them to maximize their personal and professional potential.

「コーチング」とは、思考を刺激しつづける創造的なプロセスを通して、クライアントが自身の可能性を公私において最大化させるように、コーチとクライアントのパートナー関係を築くこと。(ICF 日本支部訳)

原文:ICF倫理規定(PDF) より抜粋

上記定義をふまえて、MBCCでは次のように補足しています。

≪ コーチングとは「コーチ」と「クライアント」の対話を通して、クライアントがより良く生きるための自己理解と自己管理を、コーチが継続的に支援する関係性 ≫。

「パートナー関係」という言葉が表すように、コーチはクライアント自身の主体性を尊重しつつ、相手の状況と目的に応じた最適の支援方法を共に構築していきます。

コーチングマインドが対話に与える影響

「コーチングマインド」とは、コーチングを実践するうえでの、考え方や心構えなどを意味しています。

なぜコーチングマインドが大切なのかと言えば、コーチングの対話では、「質問」や「承認」といった単なるスキルや手法だけではなく、より広い視点でクライアントとの関係性を築き、サポートする姿勢が欠かせないからです。

では、コーチングマインドとは具体的にどんなことなのでしょうか?

代表的な二つのマインドを下記で紹介します。

成長マインド

成長マインドとは、能力は努力やトレーニングで開発できると信じている考え方のことです。コーチングにおいては、コーチがクライアントの可能性を信じて疑わないマインドとも言えます。

クライアントがゴールを達成するためのスキルや能力などを伸ばしていける、誰しも成長し変容していけるという考え方です。

また、根底に成長マインドがあるということは、好奇心や勇気、チャレンジなどのポジティブな価値観とも関連し、結果的に、忍耐やレジリエンスなどの力も引き出す可能性があると考えられています。

成長マインドについては、既に数多くの研究があり、科学的にもその効果は実証されているものです。

その中でも社会心理学や発達心理学の研究者、キャロル・ドゥエック博士の研究は、世界的に有名です。

ドゥエック氏のTEDトーク(The power of believing that you can improve⦅伸びると信じることの力⦆)では、とても分かりやすく「成長マインド」の研究について知ることができますので、まだご覧になっていない方は是非ご覧になってみてください。

共感的な関わり方

共感的な関わり方とは、クライアントの考え方や言動、感情などに対し、良し悪しの判断をせずに一旦受け止め、理解しようと寄り添う姿勢のことです。

クライアントの立場で考えてみると、どんな自分であっても受け入れ、理解してサポートしようと努めてくれるコーチと、それとは逆のコーチがいたとしたら・・・心理的安全性は相当違うものになるのではないでしょうか?

心理的安全性が担保された「場」は、コーチとクライアントの信頼関係の構築にも役立ちます。

安心安全で信頼のおける関係性は、クライアントが深く内省することや自己開示をすることを手助けし、新たな挑戦をする勇気や意欲を引き出すなどの、効果が期待できます。

「共感力」については、別のコラム 「共感力」がコミュニケーションの質を劇的に変える理由 で更に詳しく確認頂けます。

また、MBCCでは 共感コミュニケーション を効果的に学べる講座(共感コミュニケーター認定講座) も用意しています。コーチングの場面だけではなく、普段のコミュニケーションにおいても、共感的な関わり方は良質なコミュニケーションをうみだす基盤となるでしょう。

コーチングカルチャーの定義

コーチングやコーチングマインドの理解が進むと、自然と「コーチングカルチャー」についてもイメージが湧いてくるのではないでしょうか?

コーチングカルチャーとは、組織などにおいて、コーチングが導入され、価値観・態度・行動などがコーチングの原則に基づいている状態を指します。

コーチングマインドやコーチング的な対話が、上司や部下、同僚などの間で頻繁に起こり、学習と成長のサイクルを個人と組織の両方で実践しているシーンが、当たり前に起こっている状態とも言えます。

1on1のコーチングがチームメンバー間のコミュニケーション全体に波及し、そこから生まれるコラボレーションが持続的な成果をもたらす。そのような結果からふりかえって組織をみたとき、コーチングカルチャーが根づいていると評価されるのです。

Coaching Go Where の創設者兼 CEO であり、複数の賞を受賞したリーダーシップコーチ、トレーナー、そしてコンサルタントとして活躍するアンナ・タン(Anna Tan)氏は、コーチングカルチャーを下記のように説明しています。

コーチング文化は、信頼、コラボレーション、説明責任の基盤に基づいて構築されます。
そして、コーチングが組織のデフォルトモードとなっている状態です。この文化は学習と能力開発を重視するため、成功には理想的です。従業員が自己啓発する権限を与えられると、より仕事に熱心になり、毎日目に見える成果をより発揮できるようになります。

[A coaching culture is built on a foundation of trust, collaboration and accountability. It’s when coaching becomes the default mode in an organization. This culture is ideal for success because it places a premium on learning and development. When employees are empowered to develop themselves, they become more committed to their work and better able to deliver measurable results every day.]

Four Keys To Establishing A Coaching Culture / コーチング文化を確立するための 4 つの鍵 (forbes.com) より抜粋

コーチングカルチャーのメリット

国際コーチング連盟(ICF)は ヒューマン・キャピタル・インスティテュート (HCI) との研究パートナーシップを通じて、2014年より、強力なコーチングカルチャーの構成要素と、組織が戦略的目標を達成するためにコーチングをどのように利用しているのかについて調査しています。

Coaching Culture Researchにおける最新のレポート(”2023 ICF Defining New Coaching Cultures – Final Report”)によると、下記がコーチングカルチャーを育成するメリットとして報告されています。

  • リーダーシップ開発の強化
  • 従業員エンゲージメントの向上
  • コミットメントの向上
  • 従業員関係の改善
  • チーム機能の向上
  • 従業員の感情的知性の向上
  • 職務満足度の向上

上記のメリットだけでもチームメンバーのやる気やコミュニケーション、組織としての成果などが大きく変わることがイメージできますが、さらに「人材の確保」においても効果が期待できるのではないでしょうか。

現在、グローバルで様々な価値観の変化が起こっており、仕事に対する価値観についてもZ世代を中心に大きく変わってきています。あるリサーチでは、Z世代が仕事で重視していることのトップが「貢献」「成長」「やりがい」「仲間」という内発的動機であることが示されています。

大きくいえば、これまでは「組織中心の世界」だったが、これからは「個の尊重と組織目的を両立させる世界」にシフトしていき、現在はその大転換の真っ最中である。企業においても、新たな価値の創造や人材の採用・定着のために、パーパスやWell-beingを重視した取り組みが始まっている。

ここで注目したいのが、Z世代は、生まれたときから新パラダイムで育った初めての世代ということだ。Z世代は、これまで企業の当たり前だった「組織中心の世界」には不慣れかもしれないが、これから企業が強化しようとしている環境にはむしろネイティブで、強みや生かせるものを持っている。先に見たZ世代の変化は時代の鏡ともいえ、Z世代の育て方・生かし方を考えることは、単に新人育成という枠を超えて、企業組織をアップデートする機会にもなるのである。

Z世代の育成・教育のために知っておくべき3つのポイント (recruit-ms.co.jp) より抜粋

ICF 組織コーチング(Coaching in Organizations)担当副会長であるロバート・ガルシア氏は、「優秀な人材を惹きつけ、より新しい世代の期待に応えるためには、組織は今後、しっかりとしたコーチングカルチャーを自社のサービスに組み込んでいかなければならない。」と述べています。

パーパスとの密接な関係

前述したコーチングカルチャーのメリットを享受して、企業や組織は何を目指していくのか?
コーチングカルチャーはゴールではありませんが、企業や組織のパーパスと密接に関わるものではないでしょうか。

パーパスは、その企業や組織が存在する目的や使命を表す言葉や文言のことです。

それは、単にビジネスにおける利益を追求するためだけのものではなく、社会やステークホルダーに対して果たすべき役割や提供すべき価値観を示しています。

パーパスとコーチングカルチャーは、両者とも企業や組織全体に共通の目的と方向性を提供しています。パーパスがなぜ企業が存在するのかを示し、コーチングカルチャーはその目的に向かって成長や発展を促進するのです。

パーパスが明確で共感を呼び起こすものであれば、コーチングカルチャーがそれをサポートし、社員のモチベーションやエンゲージメントを向上させる役割を担う、パートナー的な関係とも言えます。

特にZ世代を中心とした価値観の変化において、パーパスに共感し、その目的に向かって成長することは社員にとっても意味のある、価値を感じる経験になると言えるのではないでしょうか。

まず取り組みたい3つのこと

コーチングカルチャーを実現するために、まず取り組みたい最初のステップには、どんなことがあるのでしょうか。
下記は、最初に抑えておきたい3つの側面です。

1. 経営者・リーダーの理解とサポート

経営者やリーダー陣がコーチングの価値を理解し、導入に対して前向きな姿勢であることは、コーチングカルチャーを進める上で最初の鍵となります。

なぜなら、コーチングカルチャーの構築には、リソースの投資が必要だからです。

まずはキーパーソンとなる人を見極めて実際にコーチングを受けてみることで、その価値を体感するのが一般的なステップとされています。

2. 明確な「パーパス」の浸透

企業・組織として目指したい姿、すなわち「パーパス」が具体的であり、且つ社員が十分に理解していることが必須です。

なぜなら、コーチングカルチャーは、パーパス実現のための後押しとなるものであり、その逆ではないからです。

お飾りのパーパスではなく、社員の間で浸透するよう、リーダー達は普段からパーパスを意識した戦略やコミュニケーションを実践していく必要があります。

3. 心理的安全性の徹底

健全なカルチャーを目指す大前提として、職場における心理的安全性の構築があります。

心理的安全性とは、サイコロジカル・セーフティ(psychological safety)の日本語訳で、組織内の誰もが自分の考えや気持ちを自由に安心して発言でき、質問や意見交換を行うことができる環境です。

恐れや制約がなくコミュニケーションができ、心理的なリスクや報復を気にせずに自分を表現できる安全な場所が提供されていることを指します。

元々は1999年にエイミー C. エドモンドソン(Amy Claire Edmondson)教授が提唱した概念で、米Google社での研究成果などの影響もあり、昨今では多くの企業研修などでも取り扱われています。

研究や事例では、心理的安全性が高い職場では、パフォーマンスの向上や、より革新的なアイデアの創出、そして人材の定着率向上などの効果があると言われています。

コーチングカルチャーにおける人と組織の学習と成長サイクルの中では、活発な情報交換やフィードバックが必要で、たとえネガティブなフィードバックであってもオープンに伝え、学びに変換していくことが求められます。そのため、心理的安全性の確保は、真っ先に取り組みたい職場環境づくりの課題でもあります。

コーチングカルチャーの実現に向けて

「コーチングカルチャー」と一言で言っても、その道のりは、三者三様です。

それは、パーパスやリソース、スピード感など、条件や状況が全く同じケースは無いからです。全ての組織がユニークなのです。

では、その道のりには、どんなマイルストーンが待ち受けているのでしょうか。

前述した「まず取り組みたい3つのこと」の先にある様々な取り組みについては、次回のコラムで取り上げたいと思います。

 

MBCCリサーチ担当 今村佳未

 

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