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組織づくりの秘訣は「共感力」だった~最新研究が示す効果~

今村佳未 投稿者:今村佳未 カテゴリー:コラムコーチング
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ビジネスのあらゆる局面に変化はつきものですが、ビジネスを遂行する「職場」では、逆に変化ができずに低迷・停滞しているケースも非常に多いのではないでしょうか。あらゆる分野の研究が進み、テクノロジーが進化し、得たい情報がいつでもどこでも入手できる時代になっても、チームづくりや組織改革の課題に手を焼くリーダーが後を絶ちません。
そこで今、世界で注目をされているのが対人スキルの一つである「共感力」です。
共感力にマイナスのイメージを持つ人は少ないにせよ、「優しさ」や「思いやり」を連想させる「共感力」が職場で本当に重要なのか?疑心暗鬼な方もいるでしょうし、職場で推進するには他者への説明や説得が必要なシーンも多いかもしれません。
本コラムでは、「共感力」についての研究やリサーチ、そして共感力を効果的にコミュニケーションに反映していく方法などについて紹介していきます。生産性が高く働きやすい職場には、共感が必要不可欠なヒューマンスキルであると広く認知され、多くの職場と人間関係の好転につながるヒントになれば幸いです。

共感性の高い上司を持つ人の67%は、しばしば又は常に仕事に対してエンゲージメントしていると答える一方で、共感性の低いマネジャーを持つ人では24%しかそうではなかった。
67% of people with highly empathic managers report often or always being engaged, compared to only 24% of people with less empathic managers.

The Power of Empathy in Times of Crisis and Beyond (危機の時代とそれ以降における共感の力) | Catalystより抜粋

「共感力」に関する研究が示すものとは

社員のエンゲージメントを高め、イノベーションやダイバーシティを推進すると同時に、ストレスによるバーンアウト(燃え尽き症候群)や離職を減らす方法があるとしたら積極的に取り入れたいと思いませんか?それがまさに「共感」であり、最新の研究がそれらの効果を示しています。

Catalyst は、共感的なリーダーシップが職場での経験に与える影響を理解するために、さまざまな業界で働く約 900人の米国人従業員を対象に調査を行いました。その結果、共感は、特に危機の時代に、イノベーション、エンゲージメント、インクルージョンなどの従業員の成果の重要な原動力であることがわかりました。つまり、共感は今日の職場になくてはならないものなのです。

Catalyst surveyed nearly 900 US employees working across industries to understand the effects of empathic leadership on their experiences at work. We found that empathy is an important driver of employee outcomes such as innovation, engagement, and inclusion—especially in times of crisis. In short, empathy is a must-have in today’s workplace.

The Power of Empathy in Times of Crisis and Beyond (危機の時代とそれ以降における共感の力) | Catalyst より抜粋

下記は、共感に関するリサーチや研究結果などから、組織づくりに関連しそうなものの一部を紹介しています。

  • イノベーション:上層部のリーダーに共感力があると回答した人は、イノベーションを起こすことができると回答する傾向が高い。共感力の低いリーダーの元では 13% にとどまったのに対し、リーダーに共感力があると回答した人の場合は61%でした。
  • インクルージョン:上層部のリーダーに共感力があると回答した人の50%は、 職場がインクルージョンであると回答したのに対し、共感力の低いリーダーがいると回答した人ではわずか17%でした。(補足:「インクルージョン」とは、多様な人材が互いに尊重され、それぞれが能力を発揮できている状態を指します。)
  • ワークライフ:リーダーの共感力がより高いと感じた人の86%が、仕事と生活のバランスにうまく適応でき、個人、家族、仕事の義務をうまく両立できると回答しています。共感力が低いと感じた人の場合では60% でした。
  • 協力:Evolutionary Biologyに掲載された研究によると、意思決定に共感が導入されると、協力が促進され、人々の共感力も高まりました。共感がさらなる共感を育みました。
  • ウェルビーイング:「自分の組織、特に上司が共感的であると信じている従業員は、ストレス関連の病気で病欠する頻度が低い傾向があります。燃え尽き症候群も少ないと報告されています。精神的な健康と士気が高まり、組織に留まる意向も高いと報告されています。共感されていると感じている人は、より革新的で創造的なリスクを取る傾向もあります。(原文:“Employees who believe their organizations, and especially their managers, are empathic tend to call in sick with stress-related illnesses less often. They report less burnout. They report better mental health and morale and a greater intent to stay at their organizations. People who feel empathized with also tend to innovate more and take creative risks.”」(「スタンフォード大学の共感の授業」の著者ジャミール・ザキ氏の発言より抜粋)

上記は研究の一部ではありますが、これらの事実だけでも、「共感」に対する思い込みや時代に合わないリーダーシップスタイルをアップデートするための根拠として十分なのではないでしょうか。

リーダーシップスタイルの変化による影響

共感力の必要性を述べる上で欠かせないのがリーダーシップスタイルの変化です。
求められるリーダーシップスタイルは、時代背景とともに変化しています。昔はトップダウン型のアプローチが主流でしたが、今では「共感力」を重視した人間中心のアプローチにシフトした考え方が、組織として成功しやすいと考えられる傾向があります。
トップダウン型では、上からの指示・命令に部下が従い、個々の従業員の感情やニーズなどについてはあまり重要視されず、結果や業績を最優先とする成果主義が特徴でした。手っ取り早く効率的に仕事が遂行されていた、と捉える方もいるかもしれません。
しかし、価値観の変化や社会の多様化、様々な組織開発の研究が進んだ現在では、よりフラットな組織構造やチームとしてのコラボレーションが重視され、従業員のウェルビーイングが組織の成功にも直結するという考え方にシフトしています。
このようなリーダーシップスタイル、組織スタイルの変化に伴い、職場での信頼関係やコミュニケーションの重要性が広く認知された結果、それらの基盤となる「共感力」についても関心が集まっているのです。
昨今、注目をされているリーダーシップ理論の一つ、サーバント型リーダーシップ(1970年にロバート・グリーンリーフによって提唱)では、リーダーが「奉仕者」としての役割を果たすことに重点が置かれています。リーダーが、自己利益よりも他者の成長や幸福を優先し、組織やコミュニティ全体の利益を追求していくスタイルですが、ここでも「共感力」は柱になるスキルの一つだと言われています。

ビジネス慣行は迅速に発展するが、ビジネスリーダーが人を効果的にやる気にさせて率いるために、常に頼るべきテクニックが1つある。それは「共感のコミュニケーション」だ。
共感力を伸ばして、あなたの会社の変革に関与するすべての人に共感を示そう。そうすれば、あなたが率いるチームは、「重用され、同志として扱われている」と感じ、あなたのイニシアティブが成功する力になりたいという気持ちに駆り立てられるだろう。

組織変革を成功に導く秘訣は共感力にある | 組織文化/組織開発|DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー より抜粋

ますます重要と言われる対人スキルとは

対人スキル(Interpersonal Skills)とは、他者と効果的なコミュニケーションを取り、円滑で良好な人間関係を築くための能力や特性のことです。「共感力」もその一つと言われており、他に「傾聴力」「柔軟性」「リーダーシップ」「チームワーク」「感情知性」「対立解消スキル」「交渉力」などがあります。テクノロジーの進化や社会の変化により、人と人との直接的な接点が減少傾向にあるにも関わらず、今後さらに職場やビジネスの成功に必要なスキルと言われています。

人間は社会的な生き物であり、それぞれが仕事、学校、遊びのコミュニティに参加しています。私たちは孤立して生きているわけではないので、対人スキルは、私たちが個人生活や仕事において機能し成功する上で非常に重要です。

1936年、デール・カーネギーは『人を動かす(How to Win Friends and Influence People)』を出版しました。これは、現在史上、最も売れている本の1つです。彼は、次のような一見シンプルなアドバイスをしています。「聴き上手になりましょう。批判、非難、不満を言わないでください。他人の視点から物事を見るようにしてください。」36カ国語で 3,000万部以上売れたカーネギーの著書(そして遺産)は、対人スキルを向上させたいという願望が人々の心に響くことを思い出させてくれます。

さらに、これらの種類のスキルは職場でますます重要になってきています。マッキンゼーによると、社会的・感情的なスキル(リーダーシップや他者管理など)に費やされる時間は、ヨーロッパとイギリスでは2030年までに22%増加すると予想されています。

What Are Interpersonal Skills? And How to Strengthen Them(対人スキルとは何か?そしてそれを強化する方法)| Coursera より抜粋

対人スキルを含むソフトスキル全般は、生まれ持った性格や資質などと思われがちですが、これらのスキルはトレーニングで伸ばしていけると言われています。ただし、ハードスキル(専門的な知識やテクニカルスキルなど)のように明確な測定ができないところや、同じトレーニングを受けても人により効果が異なる点などから、継続した取り組みにつながらない、といったことが起きるかもしれません。対人スキルについては、学びや取り組みなどから効果を実感するまでに、ある程度の時間が必要なことも大いにあります。結果を急ぐよりも継続することにフォーカスし、チャレンジをしていくことで必ず違いがうまれてくるはずです。

ソフトスキルはある種、天性のもので、他の人よりも優れた能力を自然に発揮する人がいるようだ。しかし、これらのスキルは習得することもできる。そのため、シリコンバレー企業は、社員とリーダーの両方に対して、ソフトスキルのトレーニングに多くの投資をしている。
このような投資はクラスでの研修、オンデマンドのオンライン学習へのアクセス、大学などでの授業料の払い戻し、書籍やその他の学習教材を自分で購入する補助など、さまざまなものがある。
時代が進むにつれ、シリコンバレー企業では社員のソフトスキルやリーダーシップがますます重視されるようになりそうだ。

重み増す「ソフトスキル」力 新風シリコンバレー ジャパン・インターカルチュラル・コンサルティング社長 ロッシェル・カップ氏 – 日本経済新聞 (nikkei.com) より抜粋

よくある失敗から学ぶ「共感コミュニケーション」

「共感コミュニケーション」をコーチングの基盤の一つにしているMBCC®では、「MBCC®の共感コミュニケーション」について下記のように定義をしています。

目の前にいる相手に寄り添う気持ちで注意を向けながら、自分に起きる反応や現れてくる思考にも気づき、相手に対する理解と互いの共有領域を拡げていくコミュニケーション。

共感コミュニケーション | Mindfulness Based Coach Camp®︎ (mbcc-c.com)より抜粋

「共感力を高める方法」については、別のコラム「共感力」がコミュニケーションの質を劇的に変える理由にも掲載していますので、ぜひ参考にしてみて下さい。ここでは、共感コミュニケーションとしては「失敗」と言えるような状況、すなわち相手が理解されていないと感じ、信頼関係が損なわれるようなコミュニケーションから、どう改善できるかについてのポイントをいくつか抑えておきたいと考えます。
自分のコミュニケーションの傾向やこれまでのフィードバックなどと比較し、何を優先的に改善すると良さそうか、共感コミュニケーションの伸びしろを見極めることで、より具体的な取り組みを見つける手助けになるのではないでしょうか。

1. 失敗:「話を遮る」→対策:「最後まで聴く」

失敗: 相手が話している途中で口を挟み、自分の意見を述べたり、アドバイスをしたりすること。これは、相手の話に十分な注意を払っていないという印象を与える。
対策: 相手の話を最後まで集中して聴き、話し終わるまで待つ。その後に質問をするか、自分の意見を述べるようにする。

2. 失敗「アドバイスの押し付け」→対策「アドバイスが必要か確認する」

失敗: 相手が求めていないのにアドバイスをすること。これにより、相手は理解されていないと感じることがある。
対策: 相手がアドバイスを求めているかどうかを確認する。必要ならば、「何か助言が欲しいですか?」と尋ねるようにする。

3. 失敗「感情を無視する」→対策「感情を尊重する」

失敗: 相手の感情を無視したり、軽視したりすること。例えば、「そんなことで悩む必要はないよ」、「もっと酷いケースはあるから大丈夫」などと軽く言うこと。
対策: 相手の感情を受け入れ、その感情を尊重する。例えば、「それは本当に辛い状況ですね」と共感を示す。

4. 失敗「解決志向」→対策「理解を示し、ニーズをきく」

失敗: 相手がただ話を聞いて欲しいだけなのに、問題解決に焦点を当ててしまうこと。
対策: 相手が求めているのは解決策ではなく、共感や理解であることを認識する。「私に何かできることはありますか?」と尋ねることで、相手のニーズに応えることができる。

5. 失敗「非言語コミュニケーションの不足」→対策「適度な非言語コミュニケーション」

失敗: 非言語的なサイン(アイコンタクト、表情など)を無視する又は気づかないこと。
対策: 適度なアイコンタクトや相槌など、言葉以外で相手に対し関心や好奇心を示す。オーバーになり過ぎないように気を付けながら非言語コミュニケーションを活用する。

身近なシーンから広めたいヒューマンスキル

職場で共感コミュニケーションを広めていく際のハードルの一つは、多忙な職場で優先度を上げ効果が実感できるまで継続していくこと、なのではないでしょうか。この課題への解決方法は一つではありませんが、少なくても組織のリーダーやキーパーソンは、研修などを通して「共感の価値」を体験し、実践へのモチベーションを高めておくことが近道になるでしょう。
最初は意識的に、日々の会話や1on1ミーティングなどの短い対話に取り入れて実践することで、少しずつ共感コミュニケーションの筋肉が鍛えられ、より自然に様々な場面で共感が発揮できるようになっていきます。
話は戻りますが、共感の研究は、職場などでの信頼関係構築や人間関係の改善を超えた、より大きな社会課題の解決を見据えたものへと広がってきています。すなわち、共感とは、問題の大小に関わらず、人と人とのヘルシーな関係性を創り出す、思い出されるべきヒューマンスキルであると言えるのではないでしょうか。

2006年、当時はイリノイ州選出の上院議員だったバラク・オバマは、同州ノースウェスタン大学の卒業生祝辞で、「国家財政の赤字についてはよく話題になりますが、私たちは別の赤字、すなわち共感の欠乏についても、もっと話し合うべきだと思っています」と語った。オバマは、現代の無残な状況について、更に言葉を続けている。「今のわたしたちが生きているのは、共感を大切にしない文化です。この文化は、富を築き、外見を整え、若さを保ち、有名になり、身の安全を確保し、楽しく過ごすことを最優先とすべし、とわたしたちにささやきかけます。こうした利己的な衝動を、権力者が奨励すらしているのです」。共感の回復は、国家を立て直すために絶対に欠かせないものだ、とオバマは主張した。哲学者のジュレミー・リフキンは、さらに殺伐とした言葉で、こう書いている。「われわれがグローバルな共感を抱けるようになれば、文明の崩壊は回避され、地球は救われるだろう。問題は『はたして間に合うのか』という点だ。人類につきつけられているもっとも重要な問いである」

スタンフォード大学の共感の授業」(P15)より抜粋

MBCCリサーチ担当 今村佳未

<参考文献・書籍>