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効果的なフィードバック面談の秘訣

今村佳未 投稿者:今村佳未 カテゴリー:コラムコーチング

効果的なフィードバック面談の秘訣

フィードバック面談とは、一般的に上司と部下が人事評価について話し合う面談のことを指します。

一定期間の仕事の成果や目標達成状況、改善点などについて会話をしながら、今後のことを一緒に考える機会です。パフォーマンスレビューと呼んでいる企業もあります。

本来、部下の成長を促す目的で行われる「フィードバック面談」ですが、フィードバックを行う側も受ける側も、苦手意識のある人が多いと言われています。また、残念なことに、フィードバックが役立ったと感じている人は半数以下というリサーチもあります。

では、人の成長や能力開発につながる効果的なフィードバック面談を実施するにはどうしたら良いのでしょうか?

本コラムでは、成功するフィードバック面談の実現に向けて、コーチング的なアプローチも含め、その秘訣についてご紹介していきます。

フィードバックに対するマインドセット

フィードバックに対するマインドセット

フィードバックは、受け手がポジティブに前進するために役立つものだということを、改めて念頭においておきましょう。

「そんなことは分かっている」と思われるかもしれません。しかし、無意識レベルでは、どうでしょうか?

「これを指摘すると部下との関係性が悪くなるのでは?」

「これを言うと嫌われるのでは?」

などのような思い込みがあり、本来伝えるべき内容が充分に伝えられていない、ということがよく起こっています。このような現象を、エグゼクティブコーチのメロディ・ワイルディング(Melody Wilding)氏は、「二元的思考」と呼んでいます。

対立を避けるリーダーの多くは、「マイクロマネジャーは嫌われる」「この問題を持ち出すと職場関係が壊れる」といった思い込みを持っている。こうした考えは、過去の拒絶や失敗に由来するものかもしれないが、不正確な二元的思考を反映している。実際には、人間関係を損なったり、「気難しいマネジャー」と見なされたりすることなく、はっきりと意見を述べ、率直で居続けることは可能だ。

部下への厳しいフィードバックを恐れてはならない 対立を避ければ問題は悪化する | チームマネジメント|DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー より抜粋

さらに、男性に対するフィードバックと女性に対するフィードバックには格差が存在している、という研究結果もあります。

これは、誰もが持つ「アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)」(以下、バイアス)により起こると考えられています。バイアスは、それ自体が悪いことばかりではありませんが、職場でのコミュニケーションにおいてマイナスの影響が出る可能性があることを理解しておく必要があります。

昨今、女性リーダーの数は増えているものの、男性の昇進ペースと比較すればまだまだ遅い。その重要な要因の一つは、フィードバックの与えられ方に男女格差が存在するからだ。マネジャーは無意識に、男性部下には昇進につながる具体的なアドバイスを与える一方、女性部下に対するアドバイスは抽象的な表現に留まったり、女性らしさを要求したりしていることが、筆者らの調査で判明した。

女性は男性のように昇進に役立つフィードバックを受けていない マネジャーが無意識バイアスを克服し、部下の成長を促す方法 | 戦略|DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー より抜粋

バイアスに関して、多くの企業では社内研修などで取り扱うようになり、その重要性についての理解が高まっていると考えられます。(バイアスに関する研修を受けたことの無い方のために、研修内容について以下の記事を参考にして頂けるのではないでしょうか。企業向けの「アンコンシャスバイアス研修」を受けて、私がわかったこと | HRオンライン | ダイヤモンド・オンライン (diamond.jp) )

効果的なフィードバック面談を実施するため、まずは上司の立場で自分が持つマインドセットやバイアスについて振り返りを行い、客観的な視点を持ち、自分の本音に気づいておくことはとても重要です。なぜなら、それらは普段、無意識的に作動しており、最初から本番で認識してコントロールすることは難しいからです。

世界で活躍するリーダー達のように、日頃から瞑想やマインドフルネスを実践し、自己認識力や自己管理力を高めておくことは、有効な方法の一つでもあります。

フィードバックの基本

フィードバックの基本

効果的なフィードバック面談は、部下のモチベーションの向上、成長やスキルアップ、コミュニケーションの活性化による信頼関係の構築など、部下のやる気や能力を引き出す大切なチャンスです。

フィードバックの基本をしっかりと抑え、準備をしましょう。慣れてくれば、一つ一つは決して難しくありません。

事前準備

部下のスケジュールや希望も考慮できるよう余裕を持って面談の日時を調整します。

フィードバック面談の時期は、会議室が混むことも考えられます。オープンスペースを使うことの無いよう、必ず会議室などプライバシーの守られる場所を確保しましょう。

部下の仕事の成果を、できる限り数値や具体的な事例で示すことで、客観的かつ公平で理解しやすい内容になるよう準備します。その為には、面談直前だけではなく、日頃から部下のパフォーマンスにアンテナを張り記録やメモを残しておく必要があります。

会話の始め方を決めておく

冒頭の会話(アイスブレイクから本題に入る際の最初の会話)の内容を決めておくことで、気持ちの余裕が生まれ自信と気配りを持ってフィードバック面談をスタートすることができます。

会話の始め方を計画することで、「思考の渦」を和らげることもできる。最初から主導権を握ることで、自信が高まり、敬意を持って会話ができる。フィリップは、アンジェリークの状況に正面から取り組む必要があると認識し、彼女にこう言った。「あなたの献身と創造性を私は評価しています。私が話し合いたいのは、士気が低下するパターンについてで、一緒に対処できる障害があるかどうかを私は把握したいのです」
「私」を可能な限り使うことで、率直に内容を伝えることができる。単に恐れているという理由で動揺する、必要以上の懸念を抱く、といったことが少なくなる。「またミスをした」と言うよりも、「今日のクライアントとの打ち合わせに書類が間に合わなかったことが心配だ」と言うようにする。

部下への厳しいフィードバックを恐れてはならない 対立を避ければ問題は悪化する | チームマネジメント|DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー より抜粋

一方的に話さない

部下が発言しやすい環境をつくることも大切です。会話の半分以上は、部下に話してもらうつもりで、質問を準備しておくと良いでしょう。部下の自己評価、フィードバック内容についての意見、次のステップに向けての課題などを本音で話せるかどうかで、フィードバックの効果も変わってきます。

今後の目標設定 

必ず部下の次のステップを一緒に考え、具体的な目標設定をします。

「目標」に対して、不安な気持ちが残らないよう丁寧に部下の気持ちを確認するよう心掛け、必要に応じてフォローアップミーティングを設定しておくと良いでしょう。

上司として部下をサポートする姿勢を示し、安心してチャレンジできる環境を整えることは、信頼関係の構築にも、部下の成長にもつながります。

Gallup によると、頻繁かつ継続的にフィードバックを提供するマネージャーは、従業員が優れた仕事をする意欲があると強く同意する可能性が 3.2 倍、仕事に熱心に取り組む可能性が 2.7 倍高くなります。
Why Asking For Feedback Can Be A Key To Success(フィードバックを求めることが成功の鍵となる理由)より抜粋

フィードバックの秘訣を4ステップで学べる動画Ted Talk (The secret to giving great feedback) を紹介したこちらのコラムも是非参考にしてください。

失敗から学ぶ!気をつけるポイントとは

失敗から学ぶ!気をつけるポイントとは

フィードバック面談で陥りがちな失敗には傾向があります。

これらが起こると、部下のモチベーションが下がる要因になり逆効果となります。どれも、フィードバック時だけでなく、どんなコミュニケーションにおいても普段から気を付けておくべきポイントでもありますので、よくある失敗例から学んでおきましょう。

追い詰めるような伝え方

当然ではありますが、追い詰めるような言動や高圧的な態度は絶対にしないようにしましょう。

評価の低い部下、やる気の無い部下にイライラしてしまう状況もあるかもしれません。しかし、ネガティブな感情にコントロールされたままの言動は失敗の元です。自分のネガティブな感情に気づいた時は、必ず気持ちを落ち着ける時間を持ち、経験や立場の異なる部下に共感を持って接するよう心掛けてください。(実は思い当たる節がある、という方は、是非「共感力」がコミュニケーションの質を劇的に変える理由もご参考にしてください。)

準備不足

フィードバック内容の準備不足により、主観的なフィードバックが増え、褒めるだけで終わってしまう、というような状況が起こり得ます。具体的では無いフィードバックは、部下の成長に役立たないばかりではなく、モチベーションや信頼関係が下がるといったマイナの影響になることもあります。

他にも上司の立場で会社や制度を批判することや他の部下と比較する、などの失敗例もあります。

どれも逆の立場で考えてみれば一目瞭然ですが、仕事の忙しさや気持ちの余裕の無さなどから、悪気が無くても起こる可能性が充分にあります。

フィードバックを受ける側にしてみると、自分の評価であり、今後のステップに関するとてもセンシティブな場面です。たとえ親しい仲であっても普段のコミュニケーション以上に気を配る必要があります。

「コーチング」の要素を取り入れ効果を高めるには

「コーチング」の要素を取り入れ効果を高めるには

現在では日本でも多くのリーダー達が受けたり、学んだりしている「コーチング」ですが、当初(1990年頃から)はアメリカを中心に広まっていました。例えば、Apple共同創業者の故スティーブ・ジョブス氏、Google元CEOのエリック・シュミット氏など、世界的企業のトップリーダーがコーチングを受けていたことは有名です。

では、なぜ既にリーダーシップも成功も手に入れていると思われているようなトップリーダー達がコーチングを受け続けるのでしょうか?もちろん、その答えは一つではありませんが、「自己認識を高める」ということが大きな理由の一つに含まれるのではないかと考えます。

自分とは何者なのか・・・どんな信念や価値観を持ち、どんな強みや弱みがあり、一体何を目指しているのか?何を迷っているのか?それは何故なのか?etc.

自分について正しく理解をしてメタ認知することで、自分が本当に成すべきと信じていることを明確にする。自分の価値観と行動が一致したとき、迷いが消え、人は大きな力を発揮できるのではないでしょうか。

フィードバック面談に取り入れたい3つのポイント

「自分」をよく理解した上で、目指したい目標を見つけ、そこに向かい行動していく。

そんな、人の成長を促進する「コーチング」の要素を取り入れ、フィードバック面談の効果を高めるために、最初に取り入れたい3つのポイントをご紹介いたします。

十分に聴く(傾聴)

人は十分に話を聴いてもらうと、より大きな満足感や信頼感、そして相手との繋がりを感じると言われています。職場では話を聴いてもらえていると感じる従業員は一般的にバーンアウトしにくく、話を聴く上司をより好意的に感じるそうです。部下の話をさえぎることなく完全に聴き、内容の確認や質問を入れるなどしながら、部下の考えや思いを十分に理解できるように心がけましょう。

TED-Ed “4 things all great listeners know”(優れたリスナーが全員知っている4つのこと) では、良い聴き手になるためのヒントを分かりやすく紹介しています。

目的とゴールの明確化

フィードバック面談の目的、仕事における目標設定、中長期的な仕事やキャリアにおけるゴール設定など、何のための話で、どこに向かっている会話なのかを、必ず部下と共通認識になるように意識しましょう。フィードバック面談の主人公はフィードバックを受ける部下です。その部下が主体的に考え、目標を決めていくことで、例え、課題の多いフィードバックであったとしても、話の中心は「今後の成長」に向けた前向きな内容になっていきます。

スモールステップ

目標達成に向けた行動計画は、スモールステップで設定していくと良いでしょう。

「スモールステップ」は、アメリカの心理学者バラス・スキナー氏が提唱した「プログラム学習」の5つの原理のうちの一つです。初めは教育現場や心理療法などに活用されていましたが、その汎用性の高さから人材育成や子育てなどに幅広く活用されるようになりました。

コーチングにおいても「スモールステップ」で行動計画を立てることは、基本の一つとも言えます。

これは、その名の通り、大きな目標までのステップを小さく細分化して、小さな目標を設定していく方法です。小さな目標を沢山積み上げ、結果的に大きな目標の達成を目指すのです。

いきなり大きな目標に向かった時の失敗や挫折をする可能性に比べ、小さな目標であれば達成しやすく、成功体験を積みながら最終目標に近づくことができます。その為、モチベーションも維持しやすいと考えられています。

コミュニケーションは伸ばせるスキル

コミュニケーションは伸ばせるスキル

フィードバック面談は、上司のコミュニケーション能力が問われる場面です。

もし、部下へのフィードバックに苦手意識があるのであれば、どんな取り組みをしていくと良さそうなのかを探り、コミュニケーションのスキルアップを続けていくことをお勧めします。

リーダー向けのコミュニケーション研修やコーチングスキルを学ぶことも役立つでしょう。又は、コーチングを受けることで、リーダーとしての成長やスキルアップをより加速させることもできるかもしれません。

どんな学びや取り組みをするにしても、自分自身が「適切なフィードバックを受けることのできる環境」に身をおくことで、その効果がより一層期待できるものになります。

私たちは皆、フィードバックしてくれる人を必要としています。そうやって私たちは向上していくのです。ビル・ゲイツ(マイクロソフト創業者)

We all need people who will give us feedback. That’s how we improve.  – Bill Gates

MBCCリサーチ担当 今村佳未

 

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