コーチングでSDGsを推進するには~知っておくべきIDGsと人の成長~
SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標 ) により掲げられた「世界共通の目標」の存在は、ここ数年で広く周知されてきました。しかしながら、目標達成のための取り組みが追いついていないのが現実です。
「この問題(SDGs)に最もインパクトをもたらせる、あなたの行動は?」
もし、こんなお題が出されたら、あなたはなんて答えますか?
コーチングがSDGsに必要な人の変革にどう貢献していけるのか
SDGs17カテゴリーの目標のうちの「13 . 気候変動に具体的な対策を(Take urgent action to combat climate change and its impact)」は、他16カテゴリーの目標を実現する舞台となる「地球」を守るための目標です。
今年3月にIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が発表した報告書には、未来に向けた脱炭素の取り組みを相当加速しなければならない、決して悠長になどしていられない状況であることが明記されています。(参照:IPCC報告書AR6発表「2035年までに世界全体で60%削減必要」)
では、気候危機を含むSDGs目標を達成し、持続可能な未来をつくるためには、私達「人間」はどう「考え方」をリニューアルし、新たな「行動」を取る必要があるのでしょうか?
そんな指針の一つとしてIDGs(Inner Development Goals) というフレームワークもできましたが、IDGsに示されるような人間がイノベーションを起こすためには、「内面的な成長」が不可欠です。
「内面開発」や「行動変容」という言葉と「コーチング」は非常に相関関係が深いことは、本コラムの読者であれば、既にお気づきかもしれません。
SDGsとコーチングに距離を感じる方も、その間に人の学習と成長、すなわち「内面開発」「行動変容」という言葉が挟まることで、両者の距離が縮まる、もしくは繋がりがうまれるのではないでしょうか。
本コラムでは、SDGsやIDGsについても改めてインプットをしながら、コーチングがSDGsに必要な人の変革にどう貢献していけるのかについて考えていきたいと思います。
SDGsについてのおさらい
地球が抱える様々な社会問題や環境問題。このまま放っておけば、格差社会は益々進み、地球の温度は上がり続けます。気候変動の影響で、貧しい地域がもっと貧しくなり、難民や紛争の数は右肩上がりのまま、状況は悪化の一途をたどることになります。
国際NGO「オックスファム・インターナショナル」は、世界で最も裕福な26人の資産の合計が、経済的に恵まれない世界人口の下位半分(約38億人)の資産合計とほぼ同じだとする報告書を発表しています。(参照:朝日新聞デジタル 2019年1月22日掲載記事/「裕福26人の資産」=「38億人分」 なお広がる格差 )
不平等な社会は、不安定な社会となり、紛争や戦争の原因にもなります。気候危機が進めば、そもそも人類の存続さえ危ない。
今、地球上で起きていることと、そこから予想する未来からの、とても大きな危機感から生まれたのが、SDGs(Sustainable Development Goals) です。今では、日本人の9割近くの方が「SDGs」について知っており、非常に認知度が上がった世界共通の目標です。
今のペースでは地球は「大惨事に・・・」
2015年のSDGs発足以来、目標達成に向けた政策、投資の転換、ビジネスモデルの変更、コミュニティの発足など、世界中で多くの新しい試みが生まれてきました。
気候危機に関して言及すれば、気温上昇を産業革命以前と比べ1.5℃以内に抑えることを「目標」に脱炭素の取り組みが行われてきました。ここで目標にした「1.5℃」の気温上昇とは、世界が「大惨事」に見舞われるぎりぎりのラインだと言われています。少し補足すると、この「大惨事」とは、酷暑の急増、海面上昇、山火事や巨大ハリケーンの発生などに代表される気候変動であり、人々の生活と生命が大きな危険にさらされている状態なのです。
しかしながら、世界気象機関(WMO)の最新報告によれば、66%の確率で2027年までに地球の気温上昇が1.5℃を超えるというのです。(参照:地球の気温上昇、2027年までに1.5度超える見込み=世界気象機関 – BBCニュース )
2027年までにここまで深刻な状態になる高い可能性が示唆されているのにも関わらず、あるリサーチによれば、日本人は「気候危機対策のために自分の生活を変えてもいい」人がリサーチ対象国の中で最下位というデータもあります。(参照:日本だけが世界と逆の動き、なぜ?気候危機への意識、1万8千人対象調査(井出留美) – 個人 – Yahoo!ニュース )
このままでは、大惨事を免れるチャンスも閉ざされてしまう。そんな危機感を感じないではいられません。
SDGs達成に向けて誕生したIDGs(Inner Development Goals)とは?
気候危機に対する関心の低さを改善するには何が必要なのか?
世界中で長年先送りにしてきた社会問題の解決に必要なことはどんなことなのだろうか?
目の前の課題が異なってはいても、それぞれの状況を「好転」させるために必要なことには共通点があります。それは私達人間が「取るべき行動にシフトする」ことです。
SDGsが期待通りに進まない中、持続可能な未来を実現するために、人間に求められている「行動」を選択し実行していくための重要な能力、資質、スキルを体系立ててプラットフォームにしたのがIDGs(Inner Development Goals) です。
IDGsは、2020年にスウェーデンのNGOで発足し、人の内面開発に向けたフレームワークやツールキットなどを提供しています。完成した特定の理論ではなく、アップデートされていくものであり、誰でも取り入れることができるオープンソース的なプラットフォームであることが特徴です。
IDGsは、どんなフレームワークなのか?
では、具体的にIDGsとはどんなフレームワークなのでしょうか?
IDGs(Inner Development Goals) のウェブサイト上にはIDGsのフレームワーク が公開されております。そして、それは5つのカテゴリーと23のターゲットスキルで構成されています。
IDGsの「5つのカテゴリー」
- 「在り方」自己との関係性/ Being–Relationship to Self
- 「考え方」認知スキル/ Thinking-Cognitive Skills
- 「つながり」他者や世界を思いやる/Relating-Caring for Others and the World
- 「協働する」社会的スキル /Collaborating-Social Skills
- 「行動する」変化を推進する /Acting-Enabling Change
5つのカテゴリーでのスキルや成長を促す為に、カテゴリーごとに4~5個のターゲットスキルが設定されています。ターゲットスキルの中には、例えばセルフ・アウェアネス(自己認識)、クリティカル・シンキング、感謝、プレゼンス、創造性、粘り強さなど、多くの方が聞いたことがある、もしくは過去に学習したことのあるキーワードも含まれています。
IDGsについて更に知識を深めるリソースの一つとして、今年6月に発売された「IDGs 変容する組織」があることを紹介しておきます。
コーチングを活用し「内面開発」と「行動」を同時進行する
「成人発達理論」のロバート・キーガン、「心理的安全性」のエイミー・エドモンドソン、「U理論」のオットー・シャーマーなどの多くの世界的な著名人がアドバイザーをしているIDGsは、人の「内面の成長」において土台となるフレームワークであることは間違いないでしょう。
しかし、一刻の猶予もなくSDGsを推し進めるためには、今起こっているリアルな課題の中で「どう在るべきか」、自らの頭で「考え」、そして「行動」していかなければなりません。
IDGsのフレームワークやスキルありきではなく、自分が抱える課題を持続可能な未来の為にどう行動して解決するのか?と考えたときに、今の自分にプラスするべきスキルは何なのか?という視点で活用するほうが、現実的で役立つフレームワークだと考えます。
言い換えれば、IDGsのフレームワークを構成するスキルについて100点を取ろうとするのではなく、現在の自分に加点していくつもりでフレームワークを活用すれば、「内面開発」と「行動」を同時進行していくための頼れるリソースになるのではないでしょうか。
クライアント自身が、内省し、自ら気づき、主体的に行動を起こしていくプロセスを重視する「コーチング」は、まさに「内面開発」と「行動促進」のアプローチです。すなわち、SDGsを加速する為の「行動のシフト」にコーチングはとても適していると言えます。
SDGsに貢献したいコーチなら知っておきたい視点
クライアントの「内面開発」や「行動」を促進すること以外に、コーチがSDGsに貢献できることは何か?いくつかの取り組みや視点を紹介します。
気候問題に取り組むコーチの国際ネットワークCCA(Climate Coach Alliance)
Dr. Josie McLean(オーストラリア、2009年ICFグローバル・プレジデント・アワード受賞)氏らが中心となって設立された気候問題に取り組むコーチの国際ネットワークがあります。CCA発足後、あっという間に2000名を超えるメンバーが世界中から集まったそうです。MBCC®ファウンダー兼CEOの吉田典生は、CCA Japanの共同代表でもあります。
CCAの目的は、「個々のコーチング実践者、そしてコーチングという専門職が、クライアント(個人、リーダー、そのチーム)が気候変動と環境の緊急事態に直面したときに必要なリーダーシップの役割を果たすための適切な場を提供する戦略と実践を開発できるようにすること」です。
誰でも参加可能なコミュニティのため、CCAのウェブサイトからコミュニティへの登録も可能です。
世界の現状を積極的に知る
日本のメディアでは頻繁に取り上げられないようなことでも、世界の現状を積極的に知ろうと思えば、様々なメディアやツールがあります。世界の現状を正しく知ることは、必要な行動を考える材料にもなります。
一例ですが、日本のニュースではあまり知られていないZ世代を中心として「エコ不安」という現象があります。2020年11月、英国王立精神科医学会(RC Psych)は、児童・思春期精神科医の57%が、気候危機や環境の状況に関して悩んでいる子どもや若者を診察していることを明らかにしました。(参照:若者の「エコ不安」とは。地球の未来への不安を和らげるために、私たちができること )
人口の3.5%が積極的に参加するだけで革命は成功する
SDGs達成には、様々な局面で改革が必要です。しかし、例え改革に際し賛同者が少なかったとしても諦めるのではなく、改革に前向きな人々を見つけて支持を広げるほうが効果的だということが多くの研究で明らかになっています。それであれば、気候危機に関して日本人の関心の低さにフォーカスするよりも、関心のある人にフォーカスして行動していく方が、遥かに効果的だということになります。
(参照:変化を起こすためには、最初に全員を説得しなくてもよい 抵抗を乗り越えるための戦略 | イノベーション|DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー)
『道』
此の道を行けば どうなるのかと 危ぶむなかれ
危ぶめば 道はなし
ふみ出せば その一足が 道となる その一足が 道である
わからなくても 歩いて行け 行けば わかるよ
清沢哲夫(宗教家・哲学者)
「私」には何ができるのか?自分事化して考えよう
地球と人類が取り返しのつかない状況になる前に「私には何ができるのか?」を考え、自分事化しない限り本気で行動はできないでしょう。それは、コーチもクライアントも同じです。
もう一度聞きます。
「この問題(SDGs)に最もインパクトをもたらせる、あなたの行動は?」
このお題に、あなたはなんて答えますか?
MBCCリサーチ担当 今村佳未
<参考文献・書籍・ウェブサイト>
- SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標 )
- IPCC(気候変動に関する政府間パネル)
- IPCC報告書AR6発表「2035年までに世界全体で60%削減必要」
- IDGs(Inner Development Goals)
- IDGsのフレームワーク
- 朝日新聞デジタル 2019年1月22日掲載記事/「裕福26人の資産」=「38億人分」 なお広がる格差
- 地球の気温上昇、2027年までに1.5度超える見込み=世界気象機関 – BBCニュース
- 日本だけが世界と逆の動き、なぜ?気候危機への意識、1万8千人対象調査(井出留美) – 個人 – Yahoo!ニュース
- IDGs 変容する組織
- CCA(Climate Coach Alliance)
- 若者の「エコ不安」とは。地球の未来への不安を和らげるために、私たちができること
- 変化を起こすためには、最初に全員を説得しなくてもよい 抵抗を乗り越えるための戦略 | イノベーション|DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー