リーダーの感情的知性(EQ)が部下の気持ちを軽くする
春は進学・就職・異動や転勤などで環境変化が多い季節です。
知らないうちに気を張っている方も多く、ゴールデンウィークの連休で気持ちが緩むと、連休明けに「なんとなくやる気が出ない」「ポジティブに考えられない」「朝になると憂鬱」などの気持ちの落ち込みが起こることは珍しくはありません。
一般的には「五月病」と呼ばれており、一度は聞かれたことがあるでしょう。
もちろん5月だけではなく、仕事のストレスやプレッシャー、バーンアウト(燃え尽き症候群)、プライベートでの悲しい出来事などのタイミングで気分が沈む、そんな経験は大小の違いはあっても殆どの方が経験しているのではないでしょうか。
部下が感情的に不安定な時、リーダーであれば部下の気持ちが「軽くなる会話」をしたいと思うはずです。
しかし、実際には、適切な言葉をかけるのは案外難しいものです。部下を気遣う気持ちがあっても、上手く伝えられず、部下の気持ちがさらに「重くなってしまう」。そんなケースも頻繁に起こっています。
では、気持ちが「軽くなる会話」と「重くなる会話」の違いはどこにあるのでしょうか?
上司の感情的知性=EI(EQ)がもたらす組織の感情的ウェルビーイング
全米の約15,000人を対象にした調査によると、部下の感情を読み取り、承認し、ありのままの感情を受け止め、熱意を引き出し、自分自身の感情を上手にコントロールすることができる「EQの高い上司」が、より幸福で創造的、そしてより成長の機会を感じることができる部下を生み出していることがわかりました。
米国イェール大学感情知能センターの研究員であるゾラナ・イヴチェヴィッチ(Zorana Ivcevic)氏は次のように述べています。「上司に感情的な知性があると表現するか否かで、部下の仕事の捉え方に劇的な違いが見られました。」
2017年に実施されたQualtricsの調査では、感情的知性のある上司を持つ部下は、ストレスを感じるよりも3倍も多く幸せであることが分かりました。一方、感情的な知性を示さない上司を持つ部下は、イライラしている、ストレスを感じている、さらには怒っていると答えることが最も多い結果となりました。
また、感情的知性の低い上司のもとでは、仕事に関する主な感情の70%がネガティブなものでした。反対に、感情的知性の高い上司を持つ部下は、仕事について表現する言葉の65%近くが肯定的でした。
(参考文献:EMOTIONALLY INTELLIGENT BOSSES CAN BRING OUT YOUR CREATIVITY “感情的に知的な上司はあなたの創造性を引き出すことができます” )
リーダーのEQが組織にもたらす利点は、様々な研究結果を見れば一目瞭然です。部下のモチベーションが高く、幸福感を感じる部下が多く、より創造的な仕事をしている組織を作ることに欠かせないリーダーのEQは、リーダー自身にとっても大きな利点をもたらし、リーダーシップに欠かせない生涯役立つスキルになるでしょう。
相手の感情を「切り捨てる言葉」と「支える言葉」とは?
「感情的知性を示しましょう」と言われても、具体的にどうしたら良いのか。実際には、糸口を見つけるのも難しいものかもしれません。
「心の痛みを打ち明けられた時、リーダーはどのような言葉をかけるべきか」(※以下「リーダーがかけるべき言葉」 Harvard Business Review、2022年3月掲載)では、感情の問題に対してどんな言葉が部下の気持ちを切り捨て、どんな言葉が部下の気持ちを支えるのか、良く見られるパターンを紹介しています。
沈んだ感情と向き合う難しい場面で「かけるべき言葉のレパートリー」を増やしていくことは、感情的知性を育み表現していく為に、大きな一歩になると考えます。
感情を切り捨てる言葉
リーダーが部下の感情を切り捨てるような言葉を使い、部下がサポートされていないと感じている時、2つのケースが良く見られます。
➀リーダーが部下をサポートしたいとは思っているが、適切な言い方では無いケース
部下は共感してもらえたと感じることは出来ず、中には存在価値を否定されたかのように感じてしまう残念なケースも起こることがある。
②リーダーが職場に感情を持ち込むべきではないと考えているケース
そもそも仕事上での部下の感情を重視していないため、気持ちをサポートするような言葉が出てこない。しかし、感情が仕事の成果やモチベーションに大きな影響を与えているという事実を理解しないままでいると、事態は悪化していくことが多い。
- 切り捨てるような言い回し:
「いやいや、そんなに心配することはないでしょう」
「あなたには素晴らしい仕事(or家族,それ以外の物)があるのだから、悲しむことはありません」
- 極小化:
「あなただけではなく、みんな同じような経験をしています」
「何も心配することはありません」
- 否定:
「いや、もっとひどい場合だってありますよ。私なんて・・・」
「それは贅沢な悩みです」
- 解決策の提示:
「そんな心配はしないで、とにかくやりましょう」
「必要な休暇を取ってください」
- 有害なポジティブ(ポジティブな視点は必要でも、それだけだと逆効果となる場合がある):
「もっと酷いケースもあるから、いい方だと思いましょう」
「ここから学べることもきっとあります」
感情を支える言葉
あなたが感情的に落ち込んでいるとき、どんな言葉が心に響き支えになりましたか?
多くの人が「気持ちが楽になった」と感じる、6つのパターンを見てみましょう。決して難しいことではありませんが、普段使っていないパターンがあれば、積極的に取り入れてみましょう。共感やサポートをする気持ちと合わせ、しっかり「言葉」で伝えることは効果的です。
- 相手の経験を肯定する
まずは部下の感情的な問題を受容し、気持ちに寄り添いましょう。気持ちを受け入れてもらえることで、見てくれている、信じてくれている、と感じてもらえるでしょう。
「それは大変でしたね」
「そんな状況だと確かに辛いですよね」
- 理解しようと努める
部下と話をする機会をつくり、好奇心を持って聞いてみましょう。そのことで、気にかけてくれている、サポートしようとしてくれていることが伝わります。
「このことについて、どう思っていますか」
「もっと詳しく聞かせてもらえますか」
- 感情的・身体的なサポートを導く
真剣に気にかけてくれていると感じるのと同時に、感情的に話している気持ちの高ぶりを落ち着かせ、少しずつ改善策に目を向けていくきっかけにもなる問いかけです。
「私にどんなサポートが出来そうですか」
「何が助けになりますか」
- 具体的なサポートを申し出る
どんなサポートが必要なのかも、選択肢としてあるのかも分からない。または、言い出せないようなケースに効果的です。
「〇〇をすることは助けになりそうですか」
「またこの件について会話しましょうか」
- 解決策を提示するのではなく、視点を提供する
自分の経験や成功例を「自分は何が最善かを知っている」と思い込んで話すと、相手のニーズを極小化しサポートされていないと感じさせてしまう可能性があります。同じような経験談が安心につながることもありますが、逆効果になってしまうケースがあることを心に留めておきましょう。そんな時は、こんな言い方をしてみるのもいいでしょう。
「私が同様の経験をした際に役立ったことをお話したら、助けになりそうでしょうか?」
- 相手の感情や状況を認め、感謝を表す
部下が困難な感情を打ち明けてくれたことに感謝を伝えることで、双方にとって大切な時間であることや安心感が高まります。
「大変な時に、正直に話してくれてありがとう。何かあればいつでもまた話しましょう。」
どんなリーダーで在りたいですか?
リーダーが何でもかんでも解決することはできません。部下の感情的な問題を抱え込む必要もありません。中にはメンタルヘルスの問題で退職していく部下も、仕事に馴染めず転職していく部下も出るかもしれません。
しかし、部下が安心して感情を打ち明けられるような心理的安全性の高い上司になることは可能です。
そして、感情的に問題を抱えているときこそ、上司からの心理的サポートが部下の存在価値を高め、結果的に帰属意識にもつながります。帰属意識はモチベーションや生産性など、健全な組織作りに大切な要素です。
部下が感情的な問題で困っているとき、あなたはどんなリーダーで在りたいですか?そして、そう在るために、何から取り組んでいきますか?
MBCCリサーチ担当 今村佳未
出典 (今回は主に下記の記事を参考にまとめています)