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コーチングは「人間味あふれるリーダーシップ」を磨く

今村佳未 投稿者:今村佳未 カテゴリー:コラムコーチング

コーチングは「人間味あふれるリーダーシップ」を磨く

「理想的なリーダー」と聞いて、どんな人が思い浮かびますか?

そして、その理由を考えたことはありますか?

 リーダーに求めたいことは、時代とともに変化しています。

しかし、今、この時代にリーダーに求められていることと、長年のイメージが染みついたヒーロー的なリーダー像には、どうやらギャップがあるようです。

理想的なリーダーと聞くと、どんなことも解決に導いてくれる強くて勇気あるヒーローや英雄的なイメージを抱く傾向がありませんか。しかし、今は「より人間味のあるリーダー」が求められていることが最近の研究やリサーチが表しているのです。

 では、「人間味のあるリーダー」とはどんなリーダーなのでしょうか?

本コラムでは、変化が激しく複雑さが増しているこのVUCA時代に、多くの人がリーダーに真に求めていることを、いくつかの研究やリサーチを元に紹介していきます。

 いくつかの異なる視点による研究を合わせてみることで、リーダーにとっては、自分の目指す方向性を改めて考えるきっかけになるかもしれません。もしくは、少し肩の力を抜いて自分らしいリーダーシップをより発揮できるような気づきが得られるかもしれません。

 コーチングの場面でもリーダー(又はリーダーシップ)の「在り方」や「コミュニケーション」に関連するテーマはとても多いものです。これらの研究結果を理解しておくことは、コーチにとっては、コーチングにおけるリソースの一つになるのではないでしょうか。

また、コーチも人間味を大切にすることで、さらに力を発揮していける。そんな可能性を刺激してくれるようなリサーチです。

リーダーに最も求められている「敬意」とは?

リーダーに最も求められている「敬意」とは?

「職場の無礼さ」の研究に20年を捧げたクリスティーン・ポラス(Christine Porath)氏は、人々がリーダーに一番求めているものは何かを明らかにする為、世界各地の社会人2万人にアンケートを送りデータを集めました。

そして、その結果は、「認められること」でも「感謝されること」でもなく、シンプルに「敬意」であったと、TED Talk (同僚に敬意を持って接すると業績が上がるのはなぜか – Christine Porath) の中で話しています。

ジョージタウン大学マクドノー・スクール・オブ・ビジネス准教授のポラス氏は、活気的で繁栄する職場を作ることを目的とし、グーグル、ピクサー、国連、世界銀行、国際通貨基金、アメリカ労働省・財務省・司法省・国家安全保障局などで講演やコンサルティング活動を行っています。

また、CNNBBC、「タイム」「ウォール・ストリート・ジャーナル」「フィナンシャル・タイムズ」「フォーブス」など、世界中の1500を超えるメディアでも取り上げられている、とても注目されている研究者の一人です。

 15分程のTED Talk(日本語訳有り)ですので、是非、ストーリーの全容を聴いて頂きたいのですが、下記に、要点をリストアップしてみました。

 

  • どんな人間でありたいか。シンプルな問いですが、この問いほど社会での成功の鍵を握るものはありません。他者を尊重することにより、その人は自分には価値があり大事にされている、話を聞いてもらえているという実感を与えられるのか。。それとも自分が取るに足りず侮辱され、疎外されていると感じさせてしまうか。それは全て自分がどういう人間であろうとするのかで決まるのです。

 

  • 「無作法」(横柄さや失礼のこと)は、相手のやる気を削ぐということが分かりました。無作法な扱いを受けると、アンケート回答者の66%は以前よりも努力をしなくなり、80%はその出来事を引きずり時間を無駄にし、12%は会社を辞めたのでした。

 

  • シスコはこの調査結果を見て、そのほんの一部を取り上げ控えめに見積もったとしても、「無作法」により年1200万ドル相当の損失を被っていると導き出しました。

 

  • 「無作法」なコミュニケーションは当事者への影響に留まらず、目撃者(一緒に仕事をしている同僚など)の仕事の質も大幅に下げることが分かりました。

 

  • 医療現場で無礼なふるまいをした場に居合わせた医療チームは、診断行為がおろか、利用処置の質まで下がりました。(イスラエルの研究者が実証)主な原因は、無礼な言動に遭遇した医療チームが情報の共有に消極的になり、仲間に協力を求めなくなったためでした。これは医療の場だけでなく、あらゆる業界で起こっていることです。

 

  • 礼儀正しさは報われます。礼儀正しい印象を与える人は、2倍リーダーとしてみられる傾向があり、仕事の質も著しく高いのです。その理由は、重要人物、そして影響力を持つ人物に見られるからです。 主要な特質が2種類入った珍しい組み合わせです。「温かく有能な人」「親しみやすく頭のいい人」。言い方を変えると、礼儀正しさとは他人の意欲を引き出すだけの話ではなく、自分の評価にも関わるのです。

 

  • リサーチからは、有用なフィードバックや学びの機会よりも、敬意を込めた扱いのほうが 重要であるという結果となりました。 敬意を受けていると 感じる人のほうが 健康的で懸命に働き、組織に留まる可能性が高く業務に能動的に携わるのです。

 

  • 礼儀正しさは相手を高めます。その人がさらに貢献しベストの状態で働けるよう促します。無作法は周りの人々のパフォーマンスを蝕んでいきます。無作法が起こっている場にいるだけでも、その人の可能性を奪ってしまいます。私が自分の研究から理解しているのは、人々が礼儀正しく振る舞う環境であるほど生産性や創造性、そして親切度や幸福度や健康度が向上します。

 

他者への「敬意」をより表すような言動を心掛けることは、心構えがあれば、今日からでも実行できることの一つだと思いませんか?

自分のコミュニケーションの細部を振り返り、セルフチェックしてみるだけでも、案外、改善できる言動が見つかるものです。そして、見つかった時は、どんな言動がより「敬意」を表すことができたのかを、具体的に考えてみるといいでしょう。

 

弱さもさらけ出せる現代版の「勇気あるリーダー」

弱さもさらけ出せる現代版の「勇気あるリーダー」

 

“私たちが「リーダーシップ」「勇敢さ」「勇気」などの言葉に抱いている「タフガイ」というイメージ(残念なことに、いずれも極めて男性的だ)は、現代の仕事がどのように進められているかを考えれば、組織にとって時代遅れであり、最適でもなく、時に極めて危険である。”

(「勇気あるリーダーは自分の弱さを素直に認められる」より抜粋、以下「勇気あるリーダー」、 Harvard Business Review 2022 2月掲載)

勇気あるリーダー」の筆者である、バージニア大学ダーデンスクール・オブ・ビジネス教授のディタート氏(James R. Detert)は、現在の環境に適したリーダーシップ像を形成するための出発点を下記3つにまとめています。

 

①勇気あるリーダーは率直さと謙虚さを備えている

正解が一つとは限らない予測困難な問題などに対し、リーダーが「自分にはわからない」と認めることや、「手伝ってほしい」と助けを求めること。また、失敗に対しては「私の失敗です、申し訳ありません」と認め謝罪をすること。そんな率直さや謙虚さを示すリーダーは、弱いリーダーではなく、むしろ「強いリーダー」に見えるものです。

“2000年以上前に哲学者のアリストテレスが言ったように、勇気と無謀は明らかに異なる。集団でハイキングに出かけて、彼らを熊のいる場所に導けば、全員が理由なく襲われるのは目に見えている。それは勇敢な行動ではなく、愚かな行為だ。同様に、自分の恐怖心や専門家の知識が必要な状況を認めたくないばかりに、従業員をさまざまなトラブルに巻き込むことも、勇敢な行動ではなく危険な行為だ。”   

(” 勇気あるリーダー “  より抜粋)

 

②勇気あるリーダーは信念を守ることを第一に考える

真のリーダーシップは人気投票で測れるものではない。それは、リーダーがディフェンシビリティ(持続的競合優位性)を元に決断していることを通し、信頼や敬意を得ることを意味している。時には、一時的に人気を失ったとしても、信念を貫く為には勇気ある行動が必要になるときがある。

“マイケル・ブルームバーグはニューヨーク市長として在任中、この事実をはっきりと認識していた。「私が任期を終えるにあたり(中略)高い支持率を得ていたら、それはすなわち最後の数年間を無駄にしたということだ」と彼は語った。「常に難問に取り組むべきであり、誰も手をつけないような、人気のない課題に挑むべきだ」。物事がうまく進んでいる時は、ブルームバーグによると「自分にとって簡単なコースでスキーをしているようなものである。そのような時はもっと急斜面に移動すべきだ」。”  

(” 勇気あるリーダー “  より抜粋)

 

③勇気あるリーダーは従業員が安全だと感じられる環境の構築に尽力する

仕事においてリスク管理を行うことは大切だが、失敗を恐れるあまりチャレンジが出来ないような環境では、変化や成長は期待できない。

リーダーが健全で強い組織を作りたいのであれば、政治の場ではなく、「心理的安全な環境」を作ることを忘れてはならない。多様な意見や視点は、安全な場があってこそ生かされ、組織の財産となるのです。

“非常に多くの組織で見られるように、従業員が挑戦を躊躇するような正当な理由があるにもかかわらず、彼らに常にチャレンジを求めることは、実際のところ強いリーダーシップではない。しかしながら、「勇気を奮え」と従業員にプレッシャーをかけるリーダーがやっていることは、本質的にそれだ。”  

(” 勇気あるリーダー “  より抜粋)

 

MBAより優先して磨くべき自己認識力

MBAより優先して磨くべき自己認識力

 

“CEOの約40%がMBA取得者であるという研究もあるが、理論一辺倒のリーダーシップは、チームからの信頼を損ない、生産性を低下させることがわかっている。真のリーダーは、理屈でリードするだけでなく、心でもリードしなければならない。そのために必要なのが、自己認識(セルフアウェアネス)である。”(「リーダーにとって自己認識はMBAより役に立つことがある」より抜粋、以下「自己認識はMBAより役に立つ」、 Harvard Business Review 20183月掲載)

 

MBAがリーダーシップに役立たない、と言っているわけではありません。しかし、自己認識の低いままMBA仕込みの理論を軸にしてリーダーシップを発揮するのは難しい、ということは複数の研究結果から読み取れます。

ある研究では、『ビジネスウィーク』誌や『フォーチュン』誌、『フォーブス』誌といった雑誌の表紙を飾ったCEO440人の企業業績を比較した。まず、当該CEOたちを2つのグループに分けた。MBA取得者と非取得者のグループだ。そして最長7年間、CEOたちの業績を追った。すると驚いたことに、MBA取得者グループの業績は非取得者グループよりも大幅に劣っていた。 『ジャーナル・オブ・ビジネス・エシックス』誌に掲載された別の研究では、5000人を超えるCEOの業績を調査して、同様の結論に達した。” (「自己認識はMBAより役に立つより抜粋)

 

自己認識を高めることができた成功例の一つとして、マインドフルネスや自己認識のコーチングの例が自己認識はMBAより役に立つ の中で紹介されています。また、自己認識を強化する3つのステップとして、下記が挙げられていることからも、リーダーにこそマインドフルネスやコーチングによる内省の時間がとても効果的であることが分かります。

 

  • マインドフルネスのエクササイズを実践する
  • 定期的に休憩を取る
  • 他人の言葉にきちんと耳を傾ける

 

どんなシフトチェンジが必要なのかを考えてみる

エグゼクティブコーチのオルテンス・ル・ジャンティ(Hortense le Gentil)氏もまた、「リーダーには英雄的な振る舞いではなく、人間らしさが求められている」(Harvard Business Review, 2021 12月掲載)の中で下記のように述べており、リーダーシップにおける「人間らしさ」の重要性を訴えています。

“現在、あらゆるレベルにおいて、最も有効なリーダーシップに重要なこととは、技術に関する専門知識でもなければ、すべての答えを知っていることでもない。説得力あるビジョンを明確にするだけでなく、人間らしくあること、自分の弱さを見せられること、人とつながれること、そして人々の潜在能力を解き放てることだ。”

 

そして、英雄的なリーダーから人間的なリーダーに変わる為の、3つのステップ(マインドトラップ、マインドシフト、マインドビルド)を紹介しています。(各ステップの詳細は、原文にてご確認ください)

 自分(又はクライアント)に必要なシフトチェンジは何か?

こんな問いを立て、ジャーナリングやコーチングのテーマとして内省を深めてみることもできます。もしくは、他者からフィードバックを受けてみることもできます。現在の自分を更に深く知ることは、自己認識を高めていくことにも繋がります。

 

「人間味」が鍵となる時代

「人間味のあるリーダー」とはどんなリーダーなのでしょうか?

本コラムで紹介した動画や記事は下記にリストアップしています。

リーダーシップにおける「人間味」という言葉の意味するところを、これらのリソースから、より具体的なものとして捉えることができたのではないでしょうか。

そして、これらの研究結果やストーリーは、それぞれの立場・場面でのより心地良いコミュニケーションやリーダーシップの発揮、もしくはコーチングにおけるリソースとして、少なからず肉付けできるものではないかと考えます。

 

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MBCCリサーチ担当 今村佳未