Mindfulness Based Coach Camp 典生人語

少ない労力で成果を得るリトリーバル学習

吉田典生 投稿者:吉田典生 カテゴリー:典生人語

少ない労力で成果を得るリトリーバル学習

せっかく学んでも大事なことを忘れてしまう人へ

もっと学びたいけど時間が足りない。

どうすれば学んだことをもっと覚えていられるだろう。

忙しい社会人の学びを実りあるものにしていくために、教育現場での効果が報告されているリトリーバル学習を紹介します。

リトリーバル(retrieval)の意味について辞書を引くと、「回収」「想起」「検索」「回復」「挽回」など様々な意味が出てきます。ここでは“学んだこと(記憶)をたどり、思い返すことで記憶を取り戻す”というニュアンスで使われます。

学ぶときは講義を聞くとかテキストを読むといった学習に集中し、必要最低限しかメモは取らないようにします。人間の脳がシングルタスク仕様であることにマッチした学び方とえいます。

そして少し時間をおいてから、後述するような方法で記憶したことを取り出していきます。ここではアウトプットというシングルタスクに専念します。

スタンフォード大学オンラインハイスクールの星友啓校長は、このアプローチを教育に取り入れています。

こちらUCサンディエゴ心理学部のウェブサイトに掲載されているリトリーバル学習についての解説です。

これらアカデミアでの実践や研究を参考にしながら、リトリーバル学習について私たち社会人が何をどのように実践できるか、どんなことが期待できるかをみていきましょう。

学んだ内容を人に教えると自分の学習が深まる

学んだ内容を人に教えると自分の学習が深まる

私がリトリーバル学習についての解説を読み、思い出したのがピーター・ドラッカー博士の言葉です。

「人に教えることほど、勉強になることはない」

(No one learns as much about a subject as one who is forced to teach it.)

これは学んだら教える、また学んで教える・・・を繰り返して、知が蓄積されていくことを強調した言葉です。誰かに教えるという行為を脳の働きからみれば、伝える、書き出すなどの行為も共通するアウトプットとして括ることができます。これらはみなリトリーバル学習の手段になります。

私はコーチングを学び始めた20数年前、メディアの世界で仕事をしていました。そのため学んでいることを記事にしたり、人に伝える機会が多くありました。また学んでいたトレーニング機関からクラスリーダーと呼ばれるクラスの進行役を依頼され、これが最も価値のある学びになりました。ドラッカーが言ったように、教える(伝える)立場になることで自分がいちばん効果的に学べることを人生で初めて実感できる経験でした。

いざ人に教えよう(伝えよう)となると、自分の頭にインプットできていると思っていたことが、スムーズに出てこないという経験をします。それによって、分かったつもりのことがじつは十分に理解できていなかったことに気づきます。そしてふたたびテキストを読み、メンターコーチや他の指導者に確認して再度インプットをしました。

こうした過程で、最初に学んだときに解釈を間違えていたことに気づくこともありました。また浅かった理解が深まることで、さらに学習内容に対する興味が湧いてくることもありました。そして、知らないことへの関心がさらに開かれていったのです。

試験に強くなる学習法を仕事のスキルアップに活かす

学習効果に関する認知科学の研究で、リトリーバル学習は最も効果的に記憶を定着させることが数々の論文で報告されています。

前述したように私がやっていたのは人に教える(伝える)ことでしたが、UCサンディエゴ心理学部の記事では、次のようなアプローチが紹介されています。

  • 学んだことを、少し時間をおいてから紙に書き出してみる
  • 自分で練習問題をつくってみる
  • 講義のスライドにカバーをかけて思い出して口にしてみる

これらの方法は試験本番の際、自分の頭の中から必要な情報を取り出せるよう、関連情報を記憶できる可能性を高めるとされます。

教科書を繰り返し読む、録画された講義を聞き直すといった他の方法に比べ、学習記憶の定着率が高いことがデータで示されています。

このようなリトリーバル学習の研究と実践は主にはアカデミアの世界で行われていますが、社会人教育全般や企業内での学習にも取り入れることができそうです。

たとえば講座やワークショップのクロージングでは、それぞれの感想や気づきを共有することが多いですよね。その場合、感想として話せることは、短期記憶を“検索する”というほど脳に負荷をかけないでしょう。気づいたことを話してみましょう・・・でも、同じようなものではないでしょうか。

それに対して“誰かに教えてください”という課題にしたらどうでしょう。その講座で学んだことのエッセンスを初めて聞く人に伝えるとなると、間違いなく全く立ち位置が変わります。これは前述のとおり私も経験しているし、トレーナー候補者のトレーニングでも繰り返し経験しています。

じつは先日、うちの講座でこれを試してみました。最後のふりかえりの際、「今日ここで学んだ内容に興味をもっている人を想定して、講師になったつもりで内容を簡単に伝えてください」と投げかけてみたのです。

これをやってみて、もう一つ前段があったほうがよいことに気づきました。

それは少し時間をとって、「伝える側の人になる」マインドセットをすることです。ここから短期記憶の検察が始まる、と考えた方がいいように思いました。今までずっとインプットする側だったこと、講座のパターンに慣れていることが障害になり、こちらが意図したことを反映させ切れていないと感じたからです。

ありきたりな“ふりかえりの時間”を改革する

こんど試してみようと思っているのは、学習のパートを決めて該当するスライドを割り当て、各自が講師としてレクチャーする方法です。まずスライドをみながら何をどう伝えるかを各自が考えて書き出し、それをもとにスライド順に一定分量で担当を分けてリレー方式で進めます。

これは教科書を使いながら進めるような講義形式の学習には適していませんが(けっきょく教科書を読み直す復習に近いので)、実習の多い私たちの講座のようなスタイルには向いていると思います。最近の企業研修は参加型が多いので、同じように当てはめられるケースが結構あるのではないでしょうか。

ありきたりな“ふりかえりの時間”を改革する

次に、レクチャーをしてみて思うようにできなかったところを確認します。そして事後課題として、記憶の曖昧だったところを復習した上でもういちど誰かにレクチャーする…できればこれを何度か繰り返す、別のパートでも同じことをする、といったアプローチを取り入れることを想定しています。

講座全体のボリュームやスケジュールによってカスタマイズする必要はありますが、押さえておきたいポイントは共通です。

  • インプットのときはインプットに専念する
  • アウトプットのときはアウトプットに専念する
  • ここでは「教える」「伝える」というアプローチを想定しているが、講座のスタイルや内容に合わせてアウトプットの方法を工夫すればよい。
  • 何度も繰り返す

またここでは講座のクロージングから始めるデザインを考えていますが、事後課題として提示するのもありでしょう。あるいは事後課題の準備の部分だけを講座の最後に行うのもいいと思います。

アカデミアにおけるリトリーバル学習と違い、社会人の学びでは試験の点数によって成果がわかるとはかぎりません。むしろそれは少数で、定着させた記憶を何に活用するかが重要になります。

そこまでを見据えたリトリーバル学習は、これから探求していきたい未開拓の領域です。これは継続的に私たちMBCC® の実証研究テーマとして取り組み、またご紹介していくことにします。

MBCCファウンダー 吉田典生