Mindfulness Based Coach Camp 典生人語

コーチングを受けることで結果を出すには(1)

吉田典生 投稿者:吉田典生 カテゴリー:典生人語

コーチングを受けることで結果を出すには(1)

コーチングは何に対して効果的で、どんな結果をもたらすものなのか。どういう人がコーチングを通して成果を出しやすいのか。

これはコーチングを受けることに関心がある人だけではなく、コーチを目指す人にも重要な論点です。コーチングを含むあらゆる手法は万能ではなく、手法というものは状況や目的によって選択され、最適化されなければならないからです(本質行動学において強調される方法の原理

 それを前提にして、ここではコーチングを受けることによって成功するための大事な視点を整理していきたいと思います。

 まずはグローバルの調査から。

コーチングの成果はどこに現れているか

コーチングの成果

今年春に発表された国際コーチング連盟の調査によると、コーチングを受けることで得たポジティブインパクトのトップ3は以下のとおりです。

  • <コミュ二ケーションスキルの向上>
  • <自己肯定感/自己信頼感の向上>

※以下2項目は同率

  • <ワークライフバランスの改善> <生産性の向上> 

さらに、ウェルビーイングの向上、個人とチームのパフォーマンス最適化、プロフェッショナルなキャリアの拡大、ビジネスのマネジメント戦略の前進、新しいプロフェッショナルとしての役割の前進・・・とつづきます。

またコミュニケーションスキルの向上は、コーチングを受ける理由としても1位に挙がっています。

ただしこれらの要素は実際には相互に関連しており、コーチングを受けながら好循環が生まれてくるものだと思われます。

その一方で、コーチングを受けるにあたって自分自身のコミュニケーション傾向や課題を意識しておくことは、たとえ他に優先したいテーマがある場合でも、念頭に置いておく価値があります。

なぜならコーチとの会話はクライアントの可能性を切り拓くことに向けてデザインされており、そこには職場や家庭での日常的な会話とは異なるプロセスがあるからです。

そのためクライアントは継続的なコーチングから、コーチの聴き方や質問のしかたなどを経験的に学習することができます。そして知らないうちに、自分のコミュニケーションスタイルに反映されていくことも期待できるのです。

これは他にコーチングを受ける明確な理由があったとしても、合わせてコミュニケーションの改善や開発を意識しておくことで促進されます。

「自分のコーチがいつもしている聴き方、話し方、接し方」を意識してコーチングの場にいることで、脳は大切な学習として認識するからです。

コンサルティングやカウンセリングとの違いを認識する

コンサルティングやカウンセリングとの違い

コーチングを学んでいる人にとっては自明のことですが、それ以外の圧倒的多数の人にとって類似する専門職との違いは線引きが容易ではありません。

たとえばキャリアコンサルティングとキャリアコーチングの違いは何か。私たちがICFのプロフェッショナルコーチングと他の対人支援を区別する場合、コンサルティングにはコンサルタントの知識やノウハウの提供が前提にあると理解します。コーチもそれらを提供することが皆無ではありませんが、コンサルティングサービスではそれが重要な価値となります。

一方、キャリアコーチングにおけるコーチの役割は、クライアントが主体的に自分の価値観や方向性を探り、行動戦略を立てていくプロセスを管理、支援することです。助言やフィードバックもしますが、コンサルタントのように独自のノウハウやツールで正解に導くことはしません。

どちらが良い悪いではなく、自分の状況に合わせて選択するべきものです。たとえば就職活動をしたことがない人が、これからどうやって仕事を見つけようかという場合。通常は雇用動向や求職、求人の仕組み、必要な手続きや事前準備など、さまざまな基礎知識を持つ必要があるでしょう。

このような基本がないままでコーチングを受けるよりも、足りない知識やノウハウを補ってくれるコンサルティングが優先されるかもしれません。

ただし何をしたいかわからない、自分の将来像が曖昧といった場合、コンサルタントからノウハウを伝授されるだけでは結果につなげるのは難しいと思います。いったい自分は何者なのか、何者になっていきたいのか、これからどんな人生を歩んでいきたいのか。そういったことを自己探索しながら導き出していくのは、コーチングのプロセスです。

あるいは、働きながら次の目標に向けて必要な資格を取得するための学習をつづける、転職先を絞り込むために思考を整理するといったこともキャリアコーチングのテーマになります。

心身のダメージが心配なときはコーチング受けることは慎重に

カウンセリングも幅広く使われる言葉ですが、専門職としてのコーチングとの違いを理解する上では、一つの明確な線引きがあります。それはカウンセリングが過去の問題に焦点を当てるのに対し、コーチングは未来の目標や可能性に焦点を当てるという違いです。

ただしこれは複雑に入り混じってくるグラデーションのようなものであることは、ぜひ押さえておいてください。特にコーチングでは未来志向の対話を続ける過程において、障害になっていることを発見し対処することは珍しくないどころか重要な局面です。

それでも基本的な区別として、カウンセリング(あるいはセラピー)は心身のケアに重きを置くものであり、コーチングはそれらを包含しながらもアクションを促進するものだと線引きしておくことは、コーチングを受けることを選択するためにも重要です。

身の回りでじっくり話を聴いてくれる人がいなくて、最近は意欲も湧かず疲弊しているとします。休みたくても人手不足で休めず、寝床に入ってもいろいろなことが脳裏をよぎって眠れない。判断力も低下しているような気がするし、急に強い感情がこみ上げてくることがある。

こんな状況では建設的な行動を促進することよりも、まず自分の状態を客観的に確認した上で障害を洗い出すことが優先されるでしょう。

カウンセリングやセラピーを受けることが十分に認知されていない日本社会では、「コーチング」といったほうが気軽に利用できる側面があります。しかしここは注意が必要です。

プロフェッショナルコーチはクライアント候補者がコーチングに適した状態か否かを見極めて適切な助言をすることを訓練されますが、経験の浅いコーチや単にコーチと名乗っているだけで専門的な学習をつんでいないコーチだと、その判断は難しいと思います。

したがってコーチングを受けることを検討しているけれど、その背景に自分の心身の厳しい状況がある場合、慎重にコーチの経験や実績を確認してください。国際コーチング連盟の認定は必要最低限と理解しておけばいいでしょう。

また心療内科に通っている場合や、そうした選択肢も検討するような状況であれば、まずそちらを優先することをお勧めします。

 メンタリングやトレーニングとの違いを認識する

メンタリングやトレーニングとの違いを認識する

コーチングにも私たちMBCC®が実施しているメンターコーチングというものがあり、ここにはメンタリングの考え方が反映されています。

メンタリングとは通常、同じ分野の経験を持つ人が後進の相談相手となって指南し、助言することです。そこには相談を求める人が自ら考えて行動を起こしていくためのコーチング的な関わりも含まれますが、やはり純粋なコーチングよりは導き手としての経験に価値が置かれると考えられます。

ちなみにMBCC®におけるメンターコーチングは、国際コーチング連盟の学習指針に沿ったスキルトレーニングの一環であり、コーチングの学習を補強する1on1または集団での継続的な取り組みです。

もしも特定分野の知識や経験にもとづく助言がほしい、といったようなニーズが明確にある場合は、コーチングというよりはメンタリングが有効かもしれません。少なくともそのような可能性を視野に入れて、コーチやメンターを探すとよいでしょう。

あなたが必要とする領域の知識や経験を持たないコーチは、ピンポイントで適切な助言をするのには適していません。他方、仮にぴったりの経験を備えたメンターに巡り合えたとして、この変動の激しい時代に過去の経験がそのまま役立つかは未知数です。したがって単に答えを提示するような(これが正解だ!といった姿勢で)メンタリングにも、リスクがあることも理解しておくべきでしょう。

トレーニングとコーチングの効果的な融合とは

トレーニングとコーチングの効果的な融合とは

トレーニングとは特定の知識やスキルを修得するための訓練、研修です。基本的には一つの到達地点を目指して、そのために必要な要素を身につけていくものと考えられます。

私たちMBCC®でも本講座(入門コース SSU、基礎コース エッセンシャルズ、応用コース チェンジメーカー)の指導を担当する者をトレーナーと呼んでいます。これはコーチングの実践者になるために共通して必要な要素を網羅的に学び、一定水準に達するために体系化された学習を提供していくからです。

このように共通の目的をもって同じフォーマットで学んでいくのがトレーニングで、一方のコーチングの場合は目的も手法も個別化されます。  

たとえばあなたが会社を親から引き継ぐことになっている2世だとします。もしも現在の事業についての知識、財務その他経営者として必須の基礎知識が不十分だったら、トレーニング(学習)を積む必要があるのは当然です。コーチングはそれと並行して行われるか、事業継承者としての最低限の準備ができた上で行われるのが妥当です。

どういう立場で何に取り組むためのコーチング関係か

メンターコーチング

経営者などビジネスのトップマネジメント層を対象にしたコーチングをエグゼクティブコーチングと呼びます。エグゼクティブコーチングでは具体的にどんなテーマを扱うにせよ、「組織を率いるトップマネジメント」という立場を前提にコーチングの関係を結ぶことになります。

しかし多くのコーチング関係においては、当初からそこまでコーチングを受ける立場が明確になっていません。新しい人生のチャンスを探している自分であり、家族を守らねばならない自分でもあり、職場のチームリーダーとして忙しい日々を送っている自分でもある、というように。

そこでコーチングを受けることの可能性を最大化するために、自分という存在の複数性を意識しておくことを提案します。コーチングを受けるのは自分なのだけど、どこにアイデンティティを置くかによって選択するテーマは違い、コーチングを通して現れてくる気づきや行動も違ってきます。

十分に経験を積んだプロフェッショナルコーチは、あなたが多様な”WHO”であることに好奇心をもって関わるはずです。ですからコーチングを受ける過程で自分の複数性に気づくこともコーチングの大きな価値の一つなのですが、あらかじめ自分がそこを意識しておけば、扱うテーマの選択や切り換えに役立ちます。

いまあなたがコーチングを受けることに自己投資するとしたら、それは企業の管理職としての自分が主なのか、もっと広げて自分と自分の人生そのものを扱いたいのか。あるいは家庭生活における自分の在り方に目を向けたいのか。

これらごく基本的な複数性だけではなく、できればもっと微細なキャラクター、パーソナリティにもアンテナを立ててください。強引な自分、マニアックな自分、特定の人に忖度する自分、実はのんびりしたい自分……。いろいろな自分が潜んでいませんか。

難しく考える必要はありません。ほんの少しでも自分を洞察する練習をしておくと、コーチというパートナーを得たときには気づきの瞬発力が違ってきます。なぜならプロフェッショナルコーチはふつうの会話ではなかなか得られない視点から、あなたに働きかけてくるからです。

このように常に複数性を意識して継続的なコーチングに臨むことで、間違いなく気づきが喚起されやすくなります。プロフェッショナルコーチはそのようなクライアントをみて「コーチャビリティが高い」(コーチングを受ける能力が高い)と言うでしょう。

今回はコーチングを受けることで結果を出すための基本事項から、少し抽象度の高い大切なポイントまでふれてきました。

次回は継続的なコーチングの過程で、どのように成果を加速させていくかを取り上げていきたいと思います。

MBCCファウンダー 吉田典生