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「共感力」がコミュニケーションの質を劇的に変える理由

今村佳未 投稿者:今村佳未 カテゴリー:コラムコーチング
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「共感力」がコミュニケーションの質を劇的に変える理由

「共感力」と聞いてどんな能力やスキルをイメージしますか?

仕事でもプライベートにおいても、共感力は、良質なコミュニケーションの基盤となるスキルの一つと考えられています。

支持されるリーダーシップの主流は、トップダウン型から「共感」や「支援」を軸とするサーバント型にシフトしています。多様性や創造性が重要視される現代において、「共感力」は必須のビジネススキルであるとも言えるのではないでしょうか。

そして、共感力は、コーチにとってもクライアントとの関係を築く上で大変重要な要素であり、コーチの共感力が低ければ、コーチングに期待される効果を充分に発揮することが困難になるでしょう。

一方で、共感力について学ぶ機会は、現状ではあまり多いとは言えません。

そこで、本コラムでは共感力が何故それほど重要なのか、そして共感力を高める方法について紹介していきます。

そもそも「共感力」とは・・・

そもそも「共感力」とは・・・

「共感」とは、辞書を見てみると次のように記されています。

「他人の体験する感情や心的状態、あるいは人の主張などを、自分も全く同じように感じたり理解したりすること」(参照:広辞苑)

この言葉の意味から考えると、「共感力」とは、他者の考えや意見にその通りだと感じたり、喜怒哀楽といった感情に寄り添うことができる力、と言えます。一般的な「共感力」の説明では、このように、「共感をする人」の行為として説明がされていることが多いようです。

しかし、実際に「共感」がうまれる際には必ずプロセスがあり、時間軸が生じます。そして、そこには「共感される人」と「共感する人」の関わりがあり、両者の共鳴で「共感」が実現しているのです。

すなわち「共感」とは、単に「共感する人」だけの行為では成り立たず、両者の間でのコミュニケーションにより生まれているのです。

「共感コミュニケーション」をコーチングの基盤の一つにしているMBCC® では、「MBCC®の共感コミュニケーション」について下記のように定義をしています。

目の前にいる相手に寄り添う気持ちで注意を向けながら、自分に起きる反応や現れてくる思考にも気づき、相手に対する理解と互いの共有領域を拡げていくコミュニケーション。

MBCC®HP内「共感コミュニケーション」より抜粋

「共感」は心理学の場面でも頻繁に登場しており、カウンセリングなどにおいても有効な技術の一つとされています。臨床心理学者の杉原保史氏(京都大学カウンセリングセンター講師・教授)は、著書の中で「共感」についてこう表現しています。

共感は、個人の境界線を越えてあなたと私の間に響き合う心の現象、つまり、「人と人とが関わり合い、互いに影響し合うプロセス」のことなのです。ですから共感は、ただ相手とぴったり同じ気持ちになることを指すわけではありません。むしろ、互いの心の響き合いを感じながら関わっていくプロセスであり、それを促進していくための注意の向け方や表現のあり方などを指すものなのです。

プロカウンセラーの共感の技術より抜粋

「共感力」によるメリット

「共感力」によるメリット

自分の話すことに対し充分な傾聴をしてもらえる。否定せずに自分の思いや考えを受け止めてもらえる。更には、聞き手の関わりにより、自分でも気づいていなかった気持ちや考えに気づく。このような「共感」のプロセスは、どんな効果につながるのでしょうか。

信頼関係が構築されやすくなる

聞き手がオープンな姿勢で完全に傾聴することで、話し手の気持ちや考えに寄り添った会話がうまれてきます。人間は誰しも「承認欲求」を持っているため、自分の話をそのまま受け止めてもらい、決して否定されることはなく、さらに理解を深めていくような言葉や態度で関わってもらえるプロセスは、安心して本音を話したくなる場となります。話し手は本音を語り、聞き手とともに理解を広げていくことで、安心して自己開示ができる「安全な場所」となります。そして、このプロセスを両者が共有することで、両者の間には信頼関係が築きやすくなります。

円滑なコミュニケーションがうまれる

信頼関係があり、安心して本音で話せる関係の中では、より核心にせまった会話が自然とできるものです。これはプライベートでもビジネスの場でも同じだと考えられています。

家庭内であれば、夫婦間の絆が深まることや、親子間の考え方などのギャップを埋めるような働きにもなるでしょう。

仕事においては、上司と部下、あるいは社内全体のコミュニケーションがスムーズになることや、顧客や取引先との関係にも良い影響をもたらすことが期待できます。

本音で話せることによって、部下が抱えている課題や問題を早くキャッチできるでしょう。また顧客ニーズをより正確に把握できるなどの恩恵も期待できます。

対立の解消や苦手な人への歩み寄りの第一歩となる

対立している立場の人や、苦手意識のある人への共感は、難しいケースであることは間違いありません。しかし、共感力の活用を通して、新たな視点がうまれ、新しい関わり方や歩み寄りの対話につなげることができる可能性が見出せるかもしれません。もちろん、いきなり共感できるわけではありませんので、まずは相手の立場になって考えてみることで、その突破口が開かれることがあります。

相手の置かれている状況やこれまでの環境、時代背景など、知っている情報を総動員して相手の立場に立ってみる。もし可能であれば、相手になりきって物事を考え、更には自分を見てみる。

すると、自分が必要以上に苦手意識を持っていたことに気づくかもしれません。もしくは、相手の言動について理解できる部分が出てくるかもしれません。冷静になって相手の目線で考えることで、対立していた自分の感情が少しは緩和されるかもしれません。

共感だけで全てが解決するわけではありませんが、共感力の活用を日ごろから意識することで、自分の感情や思い込みに変化が生じることは充分期待できるのではないでしょうか。

私達は意見が対立する相手と本当に歩み寄れるのか?

アメリカでは次のような実験が行われました。

二極化した2016年のアメリカ大統領選挙の直後に、アラバマに住むトランプ支持者25名とカリフォルニアに住むクリントン支持者25名の両者をフェイスブック・グループに集め、意見交換をしていくプロジェクトです。そして、両者が対話を始めるスタートポイントとして、こんな問いかけがされたそうです。

アラバマのトランプ支持者には「カリフォルニアのクリントン支持者が皆さんにどんなイメージを持っているでしょうか?」

カリフォルニアのクリントン支持者には、「アラバマのトランプ支持者が皆さんにどんなイメージを持っているでしょうか?」

この質問の意図について、プロジェクトの発足者であるジャーナリストのイブ・パールマン(Eve Pearlman)氏は次のように述べていました。

全ての会話の最初にこのような質問をして、自分たちが抱くステレオタイプを自覚し共有してみると、どちらの側の人々も自分たちが短絡的で時に意地の悪い風刺画的なイメージを持っていると分かり、真の対話はそこからプロセスが始まります。

Eve Pearlman: How to lead a conversation between people who disagree (意見の対立する者同士の会話をリードする方法)| TED Talkより抜粋

 

「共感」がコーチングに与える影響

「共感」がコーチングに与える影響

コーチングの場面では、限られた時間内でクライアントとの信頼関係を築き、オープンに何でも話せる安心安全な場づくりをすることが求められています。

コーチが共感的なコミュニケーションスキルを高め、適切に管理しながら活用していくことで、クライアントとの共通理解を広げることができます。その結果として、再現性のある安心安全な「場づくり」や信頼関係の構築につなげていける可能性が高まります。

また、コーチからの共感的なアプローチを通してクライアントが自己理解を深め、自己認識をアップデートすることも期待できます。そして、本来のコーチングの目的の一つでもある「行動促進」がクライアントから湧き出るようなことも起こり得るのです。前述した臨床心理学者の杉原保史氏は、著書の中で下記のようにも述べています。

共感は受容とセットで論じられることが多いですが、変化促進のパートナーでもあります。共感こそ、変化を促進する最大の力なのです。
そもそも、共感できないような相手に、うまく変化を生み出せるものでしょうか?その可能性は低いでしょう。“共感してもらえた”という体験が、それ自体で変化をもたらすこともあります。それだけ共感には変化促進力があるのです。

プロカウンセラーの共感の技術より抜粋

コーチが共感スキルを高め、必要な場面で活用していくことは、コーチングにおける特定の技法にだけ偏るのではなく、状況や目的によってコーチングを常に「最適化」していくことを助けてくれるのです。

「共感力」を高める方法

「共感力」を高める方法

共感力は、トレーニングをすることで高めていけるスキルです。育った環境や経験、性格なども影響していると考えられているため、自然と訓練されている部分も確かにあるでしょう。しかし、コーチやカウンセラー、またはリーダーなど、人の話を聴くことを専門職としている人は、共感力を高めるためのトレーニングを積むことで、そのスキルを高めています。

共感力を高める方法には、様々なアプローチがありますが、個人的に取り組んでいけることとして下記のような方法があります。これは沢山あるアプローチの一部ですが、下記を心掛けるだけでも、話し手は随分と話しやすく、共感によるメリットが活きてくるのではないでしょうか。

良い聴き手になる

他者の話を注意深く聴くことは共感力を高める基盤となります。人は充分に聴いてもらったと感じる時に、より大きな満足感や信頼感、そして相手との繋がりを感じると言われています。職場では話を聴いてもらえていると感じる従業員は一般的にバーンアウトしにくく、話を聴く上司をより好意的に感じるそうです。

TED-Ed “4things all great listeners know”(優れたリスナーが全員知っている4つのこと)では、良い聴き手になるためのヒントを分かりやすく紹介しています。下記がそのポイントです。

  1. 会話を妨げるものを取り除き、聴く環境を整える。特に携帯電話などの電子機器を遠くにおく(又は視界に入らないようにする)、テレビを消す、など。
  2. 話をさえぎらないで聴き、口を挟む場合は自然な「間」が起こるまで待つ。質問は、自分の好奇心の為の質問ではなく、話し手の為になる、自由に回答できる質問をする。(例:「次に何が起こりましたか?」「あなたはどう感じましたか?」)
  3. 聴いたことを要約して、聴き逃したことが無いかを尋ねることで理解度を示す。ポイントは、次に何を言おうかを考えながら聞くのではなく、今この瞬間に集中して聴く。もし聴き逃したことがありそうだったら尋ねる。確認は理解しようとしていることを示すことでもある。
  4. 沈黙を恐れない。考える時間を少し取ることは話し手が自分の話を振り返る手助けにもなる。

意見が合わない相手や好意を持てない相手には、なかなか集中力や注意力が向けられないこともありますが、そのような状況では、心を開いて傾聴する努力の効果が最も表れるのかもしれません。

心理的リアクタンス理論によると、強制的に相手の気持ちを変えようとすれば相手は自分の考え方をより守ろうとするそうです。しかし最近の研究では質の高い傾聴が、主観で決めつけない心理的に安全な環境をつくり出し開かれた心を育むと述べられています。

相手の立場になって考えてみる

「もし私が彼(彼女)の立場だったらどう感じるだろうか?」と考えてみるだけでも、視野や感覚が変わるものです。これにより、自分の思い込みや相手との価値観の違いなどに気づく可能性が高まります。

ありのままに「感じる」

相手に共感をするプロセスは、思考をめぐらせて一生懸命に考えるプロセスではありません。

相手の言動をありのまま「感じる」には、意識を相手に集中させて観察する必要があります。同時に自分自身にも注意を向けて、ありのまま「感じる」ことで、この瞬間に起こっていることを初めて味わうことができるものです。普段からリラックスして自分が「感じる」ことに注意を向ける練習をすることで、会話の中で「感じる」ことのアンテナも高まっていくでしょう。

私たちは、一瞬、一瞬のこの今の現実を生き、感じています。にもかかわらず、「感じていること」にまったく注意を払わず、「考えること」に没頭し、アタマの中に作り出された観念の世界の中で生きていることが実に多いのです。
「共感」には「感」という字が入っています。共感するには、まず「感じる」ことが必要です。より正確に言うと、「感じていることに注意を向ける」ことが必要です。

プロカウンセラーの共感の技術より抜粋

共感できない場合は、そのまま受け止めて「理解」する

「共感」は、良質なコミュニケーションにおいて大切な要素である一方で、共感できることが「良く」て、共感できないことが「悪い」というものではないことを、必ず念頭に置いておきましょう。

実際に全ての人に「共感できる」という人はなかなかいないのではないでしょうか?

他者の苦しみに対する過剰な共感により、「共感疲労」を生じてしまうこともあります。これは、他者の苦しみや困難を理解し、共感することによって生じる心理的な疲れや疲労症状を指しています。共感疲労は、特に医療従事者、心理療法士、介護職、非営利団体のスタッフ、救急隊員など、他者の苦しみやトラウマに日常的に接する職業や状況でよく見られると言われています。

私達は、全ての人に共感する必要はありませんし、共感しないことが非情なことでもありません。

共感した方が良い場面で、意識的に発動できるような自己管理力も合わせ持つことが大切です。

共感が難しいと思うような場面では、「共感できない」ことを受け入れましょう。そして、「共感できない理由」などを考えてみることで、共感できない相手との価値観の違いを発見したり、自分の意見や軸というものを改めて見出す機会にもなるでしょう。共感力を高めていくうえでは、自己管理やセルフケアも大切なことなのです。

MBCC®の共感コミュニケーション

MBCCの共感コミュニケーション

MBCC®では、コーチングや職場での1on1、そして普段のコミュニケーションにも活かせる「共感コミュニケーションを、より実践的に学ぶことのできる講座(MBCC®共感コミュニケーター®認定講座)、を開催しております。共感コミュニケーションは、MBCC®のプロコース147時間のエッセンスを“職場での円滑なコミュニケーション”のために凝縮したものです。

MBCC®共感コミュニケーター®認定講座では、大切なエッセンスをシンプルな手順で繰り返し練習することで、誰でも共感コミュニケーションを実践し高めていくことができます。練習の場面では、トレーナーや一緒に受講する仲間からの率直なフィードバックを受け、自分の課題がより明確になり、取り組むべきことが分かることで、効率良く学習を進めていくことができます。

良質なコミュニケーションの「原点」

良質なコミュニケーションの「原点」

職場やプライベートにおいて「この人だったら分かってくれる」、「この人だったら信頼して何でも話せる」という関係が築けたら、既に多くの人をサポートできる存在になれているのではないでしょうか。また、価値観の異なる人同士が、互いに分かり合おうと歩み寄ることができたなら・・・人間がつくり出した多くの問題を、良い方向に軌道修正していく「原点」となるかもしれません。

良質な人と人とのつながりを築く「共感」という原石を、より多くの人が磨いていけば、利他的な発想も増え、社会が常に軌道修正していけるような「大きな力」を感じています。

MBCC®リサーチ担当 今村佳未

 

共感コミュニケーター®️認定講座

 

<参考文献・書籍>