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コーチング学習を“学びの科学”で加速させる

今村佳未 投稿者:今村佳未 カテゴリー:コラムコーチング

コーチング学習を“学びの科学”で加速させる

コーチングの学習が進まない理由は

もし、学習速度と成果が倍になるようなコーチングの学び方があるとしたら・・・

もし、同じ時間を使い、より多くの知識を記憶し、実践的なコーチングスキルを体得できるとしたら・・・

学びの過程と成果はどう変化し、その先には、どんな未来がつくり出されるのでしょうか?

「学んだことが頭に残らない」

「学びの時間が足りない」

「いつのまにか学びが目的になっている」

「今から新しいことが学べるのか?」

「昔から同じ方法で学習している」

「学んではいるけど、成長しているのかイマイチ実感が湧かない」

 

「学習法」に関するノウハウを伝える書籍が多いことからも、同じような課題を抱えている人がとても多いことが分かります。コーチングを学ぶ場面でも、このような声を聞くことがよくあります。

「人生100年時代」そして変化の激しい現代では特に、社会人になってからも学び続けるか否かで、単にスキルだけではなく、人間としての成長にも大きな差が出てくると言われています。

“変化の時代には、学ぶ者が地上を制し、学ぶことをやめた者は、自分の力を発揮できる世界がもはや存在しないことに気づく。”(エリック・ホッファー、アメリカの哲学者)

 

ICF(国際コーチング連盟)の倫理規定にも、ICF認定のコーチは「継続的な成長に責任を持つこと」が明記されています。もちろん、ICFだけではなく、プロフェッショナルコーチとして成果を上げているコーチ達は、継続的な学習を続けているでしょう。

本コラムでは、非常に研究の進んだ「学びの科学」からマインドセットの重要性と効果的に学ぶ方法について、コーチングの学びにも役立つものをピックアップしてご紹介していきます。MBCCでの講座でも、それらのエッセンスが散りばめられており、MBCC受講生であれば、お馴染みの方法もあるかもしれません。

もし、あなたが「学ぶこと」について何かしらの課題をお持ちであれば、この機会に一度立ち止まり、自分の「学び」について改めて戦略を練ってみてはいかがでしょうか?

 

コーチングの学習効果を高めるマインドセット

コーチングの学習効果を高めるマインドセット

もともと心理学の専門用語であった「マインドセット」という言葉は、今ではビジネスや人材育成、教育の場面でもよく耳にするようになりました。

マインドセットとは「人間の行動の根幹をなしている思考や物事の見方」のことで、一言でいえば、「考え方の癖」とも言えます。うまれ持った性格や育った環境、時代背景などが影響しますが、後天的な影響で大きく変化もします。言い換えれば、望むマインドセットを手に入れることは可能であり、より「成果」や「結果」を出していくためのマインドセットに近づいていくこともできます。

日常の様々な場面で影響を及ぼしているマインドセットですが、「学習」の場面でも大いにインパクトを与えています。ここでは、学習者でもあるコーチとして高めたい二つのマインドセットについておさえておきたいと思います。

 

 ①なぜコーチングを身につけたいのか?「学び」のパーパスを探求する

「パーパス(Purpose)」という言葉ですが、最近では企業の営業戦略やブランディングなどでよく使われています。企業の「存在意義」を宣言しており、何の為に社会に存在したいのかを表しています。

一例ですが、ソニー(Sony)のパーパスは「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」です。

パーパスに表される存在意義は、先行き不透明な社会の中で進むべき方向を示してくれる羅針盤のような存在です。羅針盤があることで、行き当たりばったりではなく、意図を持って選択するべき道を選ぶことができます。そして、たとえゴールまでの道のりが長くても、信じて進み続ける原動力ともなっていきます。

このパーパスですが、個人にとっても同じく人生の羅針盤となります。

さらに「コーチングの学び」にあてはめて考えるとすれば、「コーチとしてのパーパス(社会での存在意義)」を考え決意することで、進むべき方向性(例えば、何を目指し、そのために誰から何を学び、どんなステップを踏むのか、など)がよりクリアに見えてきます。

パーパスが明確である程、意図をもって進む道を選択することが出来るのはないでしょうか?

①	なぜコーチングを身につけたいのか?「学び」のパーパスを探求する

しかし、パーパスの探求は案外難しいものです。そんな時は、次のような問いに答えてみることでヒントを得られるかもしれません。

 「なぜコーチングを学ぶのか?」

「学んだ知識やスキルを、どういかしたいのか?」

「コーチとしてどんな価値をうみだしたいのか?」

「コーチとしてのやりがいや楽しさを感じるのはどんな時か?」

「どんなコーチになりたいのか?その理由は?」

頭の中でなんとなく考えるのではなく、しっかりと言語化することが大切です。(その理由は、本コラムの終盤 ③「ジャーナリング」で言語化するに記載しています。)

個人のパーパスに不正解はないと思いますが、自分自身が腹落ちして、しっくりきているか、という点は大切なポイントだと考えます。

ぜひマインドフルネスの力もかりて、好奇心を持ち「私のパーパス」を探求してみてください。

 

➁コーチングの学びは難しい⇒奥が深いから楽しい、「成長マインド」と「成長の4段階」

コーチングに限らず、何かを学び、ある程度のレベルに達するには時間がかかるものです。

なかなか成果を感じられなかったり、学んだスキルを実践に活かせなかったり、失敗したり・・・

「私はダメだな・・・」「まだまだだな・・・」と落ち込むことはよくある話かもしれません。

しかし、「成長マインド(能力は努力やトレーニングで開発できると信じている思考)」を持っているかどうかで、その後のストーリーが大きく変わります。既に数多くの研究で、成長マインドを持っている人は忍耐強く成績やパフォーマンスが上がっていくことが明らかになっています。

スタンフォード大学発の世界的ベストセラー「マインドセット」の著者キャロル・S・ドゥエック氏によるTEDトーク(The power of believing that you can improve⦅伸びると信じることの力⦆)では、とても分かりやすく「成長マインド」の研究について知ることができます。(日本語翻訳付きです。未見の方は必見です!)

ドゥエック氏の話の中で紹介された、「脳のしくみ」を子供達に教えた研究はとても興味深いものでした。

何か新しいことや 難しいことを学習しようとコンフォートゾーン(脳が慣れ親しんだ現状)を 押しのける度に脳内のニューロンが 新しく強い結合を作ることができる。そうすると君達の頭がもっと良くなっていくよ。」と脳の働きを子供達に教えたそうです。すると、事前に「脳のしくみ」を教えたられた生徒達は急に成績が伸び、教えられなかった生徒達は、中学進級で勉強が難しくなると学校の成績が低下し続けたそうです。

「成長マインド」に加えて「成長の4段階」についても知っておくことで、成長をより認識しやすくなります。それは、下記のような4つのステージで成長の階段を登っていくという考え方です。

 

ステージ1:無意識/無能(知らないしできない)

ステージ2:有意識/無能(知っているけどできない)

ステージ3:有意識/有能(意識していればできる)

ステージ4:無意識/有能(考えなくてもできる)

 

「車の運転」に例えてみると・・・

ステージ1:運転について認識していない(考えることもない)し運転もできない

ステージ2:運転の仕方を頭では理解しているけれど、まだ実際には運転はできない

ステージ3:運転の仕方を意識しながらなら運転ができる(まだ慣れていなけど運転できる)

ステージ4:意識しなくても運転できる(自然に運転できる)

 

「成長マインド」に「成長の4段階」の視点も取り入れることで、現在の自分が成長のどの段階にいて次に何を目指せばよいのか、よりクリアに見えてきます。少しずつでも前進している感覚は「継続力」や「やり抜く力」にもプラスになります。

そして、コーチの立場では、クライアントの可能性を信じるマインドにも通じていく、とても大切な視点だと考えます。

脳の仕組みを理解した「学びの科学」を取り入れる

脳の仕組みを理解した「学びの科学」を取り入れる

科学的なエビデンスを伴う学習方法は、書店に行けばずらりと並んでいます。

しかし、実はそれらの「勉強法」よりも、その奥に潜む「学びに関する脳科学の知識」を身につける方が成績もパフォーマンスも上がると、スタンフォード大学オンラインハイスクール校長の星友啓(ほし ともひろ)氏は、著書「脳科学が明かした! 結果が出る最強の勉強法」の中で説明されています。

ここでは、知っておいて損はない、今後ますます研究が進みそうな脳科学ベースの学習ストラテジーを3つの切り口でご紹介します。 

 

➀コーチングの短期記憶を長期記憶へ移動させるには? 「リトリーバル」と「スペーシング」で記憶を定着化する

記憶の定着とは、脳が短期記憶を長期記憶に変換するプロセスです。短期記憶は、メモリー時間と容量がかなり制限されており、人間の短期記憶ではたったの30秒程しか覚えておくことができないそうです。そのため、何かを記憶しておきたい場合は、脳内で長期記憶に移す作業が必要になります。

 

アイオワ州立大学の心理学教授であるカーペンター氏は、学習に関する 100 年以上の研究を調査したNature Reviews Psychologyの論文の筆頭著者です。カーペンター氏は、2 TRICKS WILL HELP YOU LEARN AND REMEMBER NEW STUFF(新しいことを学び、覚えるのに役立つ 2つのトリック)Futurity 202210月掲載、以下 2 つのトリックの中で、リトリーバル(retrievalスペーシング(spacing2つのテクニックを組み合わせて練習した人が、情報を記憶できる可能性が最も高いと主張しています。

 

リトリーバルについては、MBCCファウンダーの吉田典生のコラム【リトリーバル学習】少ない労力で成果を得る方法 でも紹介しています。簡単に言うと、学んだことを思い出し、使ってみることです。その際、テキストやノートなどを見直すのではなく、自分の頭だけを使って関連した記憶を思い出すことがコツになるそうです。「テスト作成」や「人に教える」方法はとても有効なリトリーバル学習と考えられています。

そして、学習してからリトリーバルするまで、ある程度の時間をあけることをスペーシングといいます。

試験前夜に詰め込む「一夜漬け」とは正反対の方法です。

「ある研究では、3 週間にわたって手術のトレーニングを繰り返し受けた医学生は、同じトレーニングを 1 日にすべて受けた医学生と比較して、2 週間後と 1 年後のテストで、より良い成績とスピードを示した。」 2 つのトリックより抜粋)

 

前述した書籍「脳科学が明かした! 結果が出る最強の勉強法」にも、短期集中での学習よりもスペーシングを使った学習の方が、長期的な学びの定着において、あきらかに効果があることを示す別の研究が紹介されています。

 

②コーチングの学習が深まるのは停滞したとき~「失敗」は絶好のチャンス!

 

「私は実験において失敗など一度たりともしていない。これでは電球は光らないという発見を、いままでに20,000回してきたのだ。」(トーマス・エジソン)

 

リトリーバルとスペーシングを組み合わせて学習をしても、記憶の定着に失敗することもあるでしょう。間隔をあけてリトリーバルする際に、思い出せなかったり、間違えてしまったり。そんな時は、落ち込む必要は一切ありません。脳は間違えた時に一番効果的に学ぶようにできているそうです。だとすれば、失敗は学習において「学びのチャンス」と言えます。

ただし、どうやらそれは「成長マインド」を持っていれば、との前提があるようです。

前述したドゥエック氏のTEDトークの中でも話されていた点ですが、成長マインドがあると間違えや失敗をした際にも脳の活動が活発になるそうです。逆に固定マインド(能力は固定的で開発できないと信じている思考)を持つ人の脳は、失敗しても脳が活性化しないことを研究が示しています。

できれば失敗したくない・・・と思うことは誰にでもあるでしょう。しかし、「失敗」の可能性もあるチャレンジをし続けることで、限界を押し上げていけるのではないでしょうか。

③コーチングを学んだ後の学び~「ジャーナリング」で言語化する

「リトリーバル」と「スペーシング」で記憶を定着化する

“思考するというと、多くの人は頭のなかで考えることをイメージすると思います。でも、ただ頭のなかで考えているだけでは、じつは多くの場合、思考は同じところをぐるぐると回っているだけで、いつまでたってもまとまりません。そのようにぼんやりしたものは、思考とは言えないのです。

思考についてもいろいろなとらえ方があると思いますが、「文字化されたものこそが思考」というのが私の考えになります。“(考えを現実化するには「文字化」が欠かせない。結果を出せる思考習慣の身につけ方より抜粋、STUDY HACKER(スタディーハッカー)20227月掲載

 

ジャーナリングがメタ認知(自分自身を客観的に認知する能力)にもおいても効果的であり、メタ認知を上げることが学習においても効果的だということが分かっています。

そこでおすすめなのが、学習の振り返りをする学習ジャーナルです。

学んだスキルや知識は何か?効果のあったことは?勉強法に改善点はないのか?など、学習と成長を振り返ることのできるポイントを決めておき、ジャーナリングをします。タイミングは、なるべく記憶が鮮明な学習直後か少なくてもその日のうちがいいでしょう。

これを、コーチング学習の柱の一つ「練習セッション」に応用するならば、例えば、下記のような点について振り返り、言語化してみることもできます。

➀コーチングセッションからの学びは何か?

②使ったスキルと効果は?

③コーチとしての課題にどう取り組めたのか?

④良かった点・改善点は何か?

⑤次回への課題・チャレンジしたいことは?

本コラムに記載した内容は、「脳科学と学習」の膨大な研究のほんの一部です。

「脳のメカニズム」を知っていくことだけでも、学習効果が上がることが示されているのですから、研究者達からのプレゼントを、好奇心をもって開け続けていきたいものです。

新しい情報を取り入れ、知識や視点をアップデートしていく柔軟性を持ち続けることこそが「成長マインド」にも通じる、学習を効果的に続けていく大きなヒントかもしれませんね。

MBCCリサーチ担当 今村佳未

 

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◆参考文献

コンテンツ: 2 TRICKS WILL HELP YOU LEARN AND REMEMBER NEW STUFF2つのトリックで新しいことを学び、記憶することができる)

How To Study Using The Spaced Practice Method(間隔練習法を使った勉強法)

短期的な記憶を長期的な記憶に変える「コンソリデーション」の仕組み

キャロル・S・ドゥエックTEDトーク(The power of believing that you can improve⦅伸びると信じることの力⦆