コーチが効果的なキャリアを支援するための13の質問
「5年後にどうなっていたいですか?」
「そこに向けてのキャリアプランはどうなっていますか?」
自分のキャリアについてコーチングを受けたことのある人は、コーチからそのような質問をされた経験があるかもしれません。
クライアントのキャリアを支援するコーチは、このような質問をさまざまな相手にしているかもしれません。
変化が激しく先行きも不透明なVUCA(ブーカ)時代。「人生100年時代」と聞き、約75%もの人が「仕事・キャリア」に不安を感じているそうです。(参照:マイナビニュース 2022/06/13)
コーチングを受ける側としてもコーチングを提供する側としても、これからの時代、キャリア開発はますます重要なテーマとなってくるでしょう。
今回はコーチが効果的なキャリアコーチングを提供していくには?ということを念頭に置き、HBRに掲載された記事からコーチ自身のキャリア構築にも役立つ視点をご紹介します。
さらに、ポジティブ心理学の専門家が提唱する、キャリアコーチングに有効な13のパワフルクエスチョンを取り上げていきます。
多角的な視点でキャリアを考え、「今」取り組むべきことの「焦点」を見極める
やるべきことに「焦点」を合わせ備えておくことで、不安というモヤモヤする「霧」の中から抜け出すことができます。
「自分のキャリアを見失わないために優先事項を見極める」(※以下「優先事項を見極める」、Harvard Business Review、2022年1月掲載)では、ニハール・チャーヤ(Nihar Chhaya)氏が、キャリアが不安定な時期にこそできる4つのポイントを紹介しています。
チャーヤ氏は、フォーチュン500企業で人材育成部門のトップを務めたのち、パートナーエグゼク(PartnerExec)の社長となりました。そして、アメリカン航空やコカ・コーラなど、数多くのグローバル企業でリーダー達が優れた成果を上げるためのサポートをしています。
自分のキャリアに対する気持ちや目標、望みは、世の中の状況と同じく変化するものです。
現在のあなたのステージに合った、あなたの望むキャリアを、チャーヤ氏が厳選した4つのポイントから掘り下げてみましょう。そして立場を変えて、ここから得られることをキャリアコーチとしての対人支援に活かしてください。
➀不安定な時期を利用して、長期的なキャリアプランを練る
キャリアが安定していて満足度も高いときは、深く内省してキャリアを考えることは迫られてはいないため、最大限の可能性を見出すことができないこともあります。
一方、キャリアが危機的状況にある時(会社の倒産、解雇、職場環境が悪く退職した時など)は、冷静な決断ができない、本望ではない決断をしてしまうなど、本領発揮できないことがよく起こります。
キャリアを考えると不安な気持ちもあるが、まだ選択肢や投資する時間がある。そんな時こそ長期的なキャリア開発に真剣に取り組んでおくチャンスです。まずはしっかりと内省し、現在のご自身を充分に理解することからスタートしましょう。
<内省する際の質問例>
- 「現在の仕事で満足できていない理由は?」
- 「いつまでにどんな変化があると嬉しいのか?」(短期・中期・長期のそれぞれで)
- 「現在と理想のギャップを埋めるた為にできることは?」(短期・中期・長期のそれぞれ)
- 「そのためのリソース(能力・スキル・強み・経験・人脈など)は?」
- 「仕事に充分な満足感を感じた時、今とは何が変わりますか?」
②自分が何をすべきかではなく、どうあるべきかを明らかにする
“最近の調査では、パンデミックをきっかけに人生のパーパスを考えたという従業員が3分の2に上り、従業員の70%は自分のパーパスは仕事によって定義されるとしている。”
(「優先事項を見極める」より抜粋)
日本での調査でも、コロナ禍での転職検討理由の上位は、「会社のパーパス(目的)や仕事の意味にシフト」しており(株式会社リクルート2021年調査結果より)、より自分の「価値観」や「人生観」に合う職場を求めている傾向が読み取れます。
- 「どんな職場や仕事であっても、あなたが最も大切にしたいことは何ですか?」
- 「どうしてそれが重要なのですか?」
- 「もっとも大切なことを疎かにしたら、どうなりますか?」
「どうあるべきか」に正解はありません。あなた自身が満たされる「ありかた」を見つけ毎日思い出すことが、日々のモチベーションとなり、他者への影響力にもなっていくでしょう。
③結果ではなくプロセスに焦点を当てれば情熱が生まれる
結果はコントロールできないこともあります。しかし、プロセスの一つ一つは、より確実性を生み出しやすく、コントロール感も得やすい為、プロセス自体に焦点を当てることで情熱が生まれます。
例えば、「リーダーシップを発揮して、風通しのよいチームをつくりたい」という目標に対し、プラスの影響力を与える行動をいくつか決めます。「率先して挨拶を毎日する」、「チームメンバー全員との1on1を実施する」、「デスクをフリーアドレス制にする」、「四半期に1回チームビルディングを取り入れる」などです。
そして、その日の感情に関わらず決めた行動を実行していくことを目標にします。
このように最終ゴールに近づくためのプロセスを明確にしておくことで、目標達成に繋がるプロセスを実行していると捉えやすくなります。
懸命に仕事をしていても、人間関係や想定外の出来事などに不満が積もる時期もあるでしょう。けれども、どんな時もプロセスに集中することで、より結果も出しやすく一貫性を持つことができます。
結果的に、自己効力感(自己効力感 – Wikipedia )やレジリエンス力が高まり、そのこと自体がキャリアを歩む上での頼れるリソースともなります。
④ラーニングアジリティを身につけ将来の変化の先を行く
「ラーニングアジリティ」(学習機敏性)とは、環境・経験・目の前で起こっている出来事などから、何を学ぶべきかを的確に判断し、スピーディに学び、学びを行動に反映させていくことです。
“ラーニングアジリティが高い人は、適応力があり、好奇心を持ち続け、内省的で、防御的な態度を最小限に抑え、深く根付いたメンタルモデルを捨て去り、よりパーパスに意識を向けたメンタルモデルをつくることで、キャリアを管理している。”
(「優先事項を見極める」より抜粋」)
「優先事項を見極める」では、ラーニングアジリティを高めていくために、1日10分程度のジャーナリングを紹介しています。
<ジャーナリングのテーマ例>
- 「今日、私は純粋な好奇心を持っていたか」
- 「今日、私は自分の視点に固執して防御的になっていなかったか」
- 「今日、何か新しいことを学んだか、過去の自分の信念を疑問視したか」
※注:これらをオープンエンドの質問に変換してもいいと思います。
(例)
「私の好奇心は、今日どこで発揮されただろう」
「私が防御的になったのは、今日のどんな場面だっただろう」
「今日、新たに学んだことは」
『学ぶ心さえあれば、万物すべてこれわが師である。』松下幸之助
(松下電器産業 ⦅現 パナソニック⦆ 創業者)
キャリアを考える際に役立つ「13の質問」
効果的に自分のキャリアに対する考えを深堀りしていくために13の質問 (オランダでポジティブ心理学のリソースを提供しているPositivePsychology.com のサイト内より)にも答えてみてください。頭の中で考えるだけではなく、紙に書き出してみることをおすすめします。
ここでは、「実現可能か?」「常識的か?」「まわりの人はどう思うのか?」などの本音を制限するような前提は持たず、素のあなたから出てくることを優先して下さい。
これら13の質問に対する答えを、あなた自身が腹落ちする言葉で「言語化」していくことが、より深いレベルでご身と繋がる機会をつくります。
13の質問 (日本語訳)
- 情熱を感じることは何ですか?
(What are you passionate about?) - どのように貢献したいですか?
(How do you want to contribute?) - 何を学びたいのですか?
(What do you want to learn?) - 組織はあなたをどれくらい必要としていますか?
(How much does the organization need you?) - あなたは組織をどの程度必要としていますか?
(How much do you need the organization?) - キャリアをスタートさせた当初のビジョンは何でしたか?それはどのように変化しましたか?
(What was your original vision when you started your career? How has it changed?) - 現在の仕事のどのような点が、あなたのビジョンに直接関係していますか?
(What aspects of your current job directly relate to your vision?) - 5年後、あなたはどうなっていたいですか?
(What would you like to be doing in five years?) - その中で今できることは何ですか?
(What part of that could you do now?) - 5年後にその役割を果たせるように、どのように計画し準備しますか?
(How do you plan and prepare so that you can be in that role in five years?) - あなたの一番の強みは何だと思いますか?
(What would you say are your best strengths?) - 今の役割の中で、それをどのように活かしていますか?
(How are you using them in your current role?) - どうしたら、自分の強みを生かす度合いを高められますか?
(How could you increase how much you are using your strengths?)
あなたらしいオーダーメイドのキャリア構築
チャーヤ氏の4つのポイントと13の質問 に答えてみて、どんな発見がありましたか?
更にあなたらしいキャリアプランを練る為に、こんな視点で考えてみることも役立つかもしれません。
- 「5年後、どうなっていたいか?」という将来像と「現在のあなた」のギャップを埋めるためには、どんなことができそうですか?
- そのためのリソースは何ですか?
- 5年後に目標達成ができたご自身から、現在の自分にアドバイスをするとしたら?
- 5年後のキャリアプランが実現したことを想像してみてください。今と、何が変わっていますか?
- そして、そこから更に5年後の理想的な将来像は?
人生100年時代、そしてVUCA時代には、個々のニーズに合ったオーダーメイドのキャリア開発が、やりがいや充実感を感じるキャリアへの近道だと考えます。
充実感や納得感のあるキャリア開発において、コーチングは今後ますます価値ある有用な選択肢になると思います。
コーチの伴走があれば、一人では気付けない盲点の発見や可能性を最大限引き出しながら、あなたの望むキャリアに近づいていくことができるでしょう。プロのコーチも(いやプロのコーチだからこそ)自分にコーチをつけることは世界の常識です。
さあ、あなたにとっての優先事項はみつかりましたか?今のあなたにとって、最優先事項と思うことから取り組んでみてはいかがでしょうか?
『最も大切なことは、最も大切なことを、最も大切にすることである』
スティーブン・R・コヴィー(「7つの習慣」著者)
MBCCリサーチ担当 今村佳未