10万件のデータが示す若手育成に効果的なコーチング
入社シーズンの4月ですね。若手社員の育成に携わっている方も多いのではないでしょうか。今回のコラムでは、10万件以上の若手社員へのコーチング記録から分かった、若手育成に欠かせない会話のエッセンスをご紹介します。
若手社員には、まずはティーチングを重視されている企業や組織も多いと思いますが、並行してコーチングを取り入れることで、成長スピードや意欲向上にとても高い効果が期待できます。
それは、コーチングにより、若手社員の自発的な力を引き出すことで、自ら考え行動を起こす自己改革が起こるからです。受動的になりやすいティーチングが能動的になる、習熟度が深まるといった、相乗効果がうまれるのです。そして、そこで身に着けた自己改革のスキルは、若手社員にとって一生の「宝」となり、組織や企業にとってはまさに「人財」となっていくでしょう。
『私の世代の最も偉大な発見は、人間は心構えを変えることによって、自分の人生を変えることができる、ということである。』ウィリアム・ジェームズ(哲学者・心理学者)
若手社員育成の為、既に様々な取り組みを実施されている企業や組織も多い反面、こんなコメントもよく耳にします・・・
「研修やOJTをしたのに、すぐに辞めてしまう」
「承認欲求が強くて指導し辛い」
「いつまでも言われたことしかやってくれない」
「打たれ弱い」
昨今の新卒者の「早期離職(入社後3年以内の離職)」は3割以上を推移しています。(参照:新規学卒就職者の離職状況を公表します 厚生労働省人材開発統括官 令和3年10月公表)
もちろん、この中には致し方ない理由での離職も含まれていますが、企業にとって将来を担う大切な人材だったケースもあるでしょう。では、どんなコーチングを取り入れるべきなのでしょうか?
若手社員とのコーチングに効果的な4つの会話
「若手社員のコーチングは4つの会話から始めよう」(※以下「4つの会話」 Harvard Business Review、2019年10月掲載)では、10万件を超えるコーチングの会話記録から分かった若手社員が抱え込みやすい悩みを4つのポイントに絞り込み、どんな会話をするべきなのかを紹介しています。若手社員の育成に困っている方はもちろん、部下の育成スキルを磨きたい方は要チェックです。
会話1:レジリエンスを形成する方法
「レジリエンス」とは心理学において困難や脅威に直面している状況に対して、「うまく適応しながら成長する能力」を意味しています。「弾力性」「回復力」「しなやかさ」を意図する言葉ですが、予測困難で変化の激しい近年、教育現場や仕事上での困難や逆境を乗り越え回復する力としてレジリエンスの強化が注目されています。
「若い従業員は否定的な体験をすると、自分を責める傾向がある。その自己批判は大げさなことが多く、自信を失うばかりか、仕事の遂行能力まで奪ってしまいがちだ」(4つの会話より抜粋)
下記ステップ1~4を実施し、レジリエンスを高めることをサポートします。思いやりを持ち、批判的にならないように気をつけましょう。「同情」や「問題を解決する」のではなく、若手社員が学習するのを助け、逆境から回復する力を高める為の会話をします。
ステップ1
若手社員に仕事での困難や脅威などのネガティブに感じている話題を話してもらう。
(例)
「どんなことがあったのですか?」
ステップ2
体験したことを理解するための質問をして、話をよく聞き、相手の言葉を繰り返す。
(例)
「そのことが起こった時、どう感じたのですか?」
「その瞬間、ご自身のことを、どう思いましたか?」
ステップ3
ステップ2の思考から離れ、実際に起きたことを熟考できるような質問をする。
(例)
「そのことは、あなたにとってどのような意味があると思いますか?」
「たった一度の失敗で、期待を失うものでしょうか?」
ステップ4
今後、同じような状況に出会ったとき、別の方法で切り抜けるために、どのような選択肢があるかを考えさせる。
(例)
「次回、同じケースが起こった際、どんなアクションを取りますか?」
「同僚があなたと同じような状況を経験していたら、どんな言葉をかけますか?」
会話2:他者への影響力を持つ方法
「シンガポール経営大学と共同でデータを分析したところ、若手従業員とのコーチングにおける会話の39%は、彼らが人々に影響を与え、ネットワークを築き、望ましい効果を生み出せるよう手助けすることに焦点を当てていた。」(4つの会話より抜粋)
若手社員が人間関係で苦労しているのであれば、別の視点からその状況を見直し、その人物との別の関わり方を発見させることが重要です。間違っても、その苦労に同情したり解決策を自ら提示したりはしないでください。
ステップ1
若手社員に人間関係で悩んでいること、困っていることの状況を具体的に話してもらう。
(例)
「その悩んでいることを象徴するような場面は、いつ、どんな出来事でしたか?」
ステップ2
悩んでいる対象の人物と、これからどんな関係構築をしていきたいのか?どんな影響を与えたいのかを話してもらう。
(例)
「これから、その人とどんな関係を築いていきたいですか?」
「その人にどんな風に思われたいのですか?そして、その理由は?」
ステップ3
別の視点から、その状況を見直し、新しい関係構築につながるような質問をする。
(例)
「その人(悩んでいる対象の人物)の立場にたってみると、どう見えますか?」
「どうしたら、その人の信頼を得ることが出来ると思いますか?」
「どんな行動から変えていきますか?」
同じ思考パターンからは、同じ感情や言動がうまれます。その為、根本的なマインドを変える必要があり、それには「別の視点から物事を見て考える」ことがとても効果的です。
会話3:ジョブクラフティングの方法
「ジョブ・クラフティング(Job Crafting)」とは、仕事への取り組み方や向き合い方を変えることによって、仕事のやりがいを創出していく考え方です。「組織や上司が決めたタスクやルールに忠実に従う」という従来の労働観ではなく、社員一人一人の主体性を重視することで、仕事を生き生きとしたやりがいのあるものに変えていくことを目指しています。(参照:ジョブ・クラフティングとは?4ステップで働きがいを見つけよう!
「この会話のポイントは、従業員が自分にとって何が最も大切かを熟考し、自分の将来について納得できるビジョンを形成できるよう、手助けすることだ。意義ある仕事をすることは、多くの人々にとって重要なことだ。目的意識を感じられないと、人は燃え尽きやすくなってしまう。」(4つの会話より抜粋)
ジョブ・クラフティングは、若手社員だけに限って必要なものではありません。しかし、若手社員は、上司から仕事を指示されたり、単純作業や仕事の一部しか任せられていないことも多々あり、目の前の仕事と「やりがい」を結び付けて考えることが難しいケースが多く見られます。
そんな時は、少し大きな視野で「仕事」に向き合い、彼(彼女)らにとって何が大切で、仕事に何を求めているのかにピントを合わせられるような質問をしてみます。現在の状況・望んでいる状況・そこにたどり着くステップに焦点を分けて会話をすると整理しやすいでしょう。
ステップ1
若手社員に、現在の仕事の状況を話してもらう。
(例)
「現在の仕事について、どう感じていますか?」
「仕事でやりがいを感じるのはどんな時ですか?」
ステップ2
現在の状況がどんな風に変わっていって欲しいと思っているのかを話してもらう。(もし、ここで求めるものが分からない場合は、興味のある方向性や、探求していくことを手助けできるような質問をしてみましょう。)
(例)
「いまの状況がどう変わっていったら良いですか?」
「その目標(ビジョン)が実現したら、どんな気持ちになりますか?」
「目標にしたい人はいますか?その方のどんな所に惹かれるのでしょうか?」
ステップ3
自分が望む方向に進んでいくために、どんな行動をしていけるのかを具体的にする。
(例)
「その望む状況に向かって前進するために、取り組んだら良さそうなことは何ですか?」
「最初に出来そうな小さな一歩はどんな行動ですか?」
会話4:型にはまった思考から抜け出す方法
問題を解決しようとしても行き詰っている時は、諦めたり同じ方法で何度も試したりしているものです。こんな時は、決まった思考回路から抜け出すことのできる、別の視点から問題を考える為の会話が効果的です。現状把握とリソースや戦略を分けて言語化していきます。
ステップ1
若手社員に、どんな問題をどう解決しようとしたのかを話してもらう。
(例)
「今、抱えている問題(課題)はなんですか?」
「その問題をどう解決しようと試みたのですか?」
ステップ2
その問題に対して、どんな感情を持っているのか話してもらう。
(例)
「その問題に取り組んでいる時、どんなことを考えていますか?」
「問題に対して、どんな感情を持っていますか?」
ステップ3
懸念していることを具体的に話してもらう。
(例)
「その問題を解決するのにあたり、最も懸念していることは何ですか?」
「どんな心配をされていますか?」
ステップ4
問題解決の為、どんな別の戦略があるのかを考え出せるような質問をする。
(例)
「問題解決に役立ちそうな、まだ使っていないリソースはありますか?」
「この問題をどう解決出来たら理想的ですか?」
「先輩の〇〇さんだったら、どう解決されるでしょうか?」
4つの会話を読まれていかがでしたか?「これ、全て会話しないといけないの?」なんて思われた方もいるかもしれません。
4つの会話 の最後の一文に「その最初の一歩は、従業員があなたに求めるものを見極め、それにふさわしい会話をすることである」とあるように、必要なのは若手社員が、今どんな状態なのか、どんな気持ちで仕事をしているのかを考え、アプローチすることです。育成担当者は誰にでも先入観や思考の偏りなどのバイアスがあることを充分理解しておく必要があります。
そして、今、この瞬間に意識を向けマインドフルネスの状態で若手社員に向き合う。するとコミュニケーションの合間に見える言動や表情・しぐさなどからのサインをよりキャッチしやすくなり、若手社員が何を抱え込んでいるのかに「気づく」精度が上がっていきます。(MBCCのマインドフルコーチングについてはこちらをご覧ください。)
4つの会話で紹介されたような会話が増えていけば、成長マインドや自己改革のスキルと早期に出会うことができます。しなやかな柔軟性や回復力を持ち、やりがいあるキャリアを歩まれる方が一人でも多く育つことで、組織づくりやリーダー育成にもポジティブな影響を与えていくことが期待できるでしょう。
MBCCリサーチ担当 今村佳未