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コーチングの対話が脳を鍛える~脳科学から考えるコーチング~

今村佳未 投稿者:今村佳未 カテゴリー:コラムコーチング

コーチングの対話が脳を鍛える~脳科学から考えるコーチング~

コーチングとは、個人やチームのポジティブな変化を目的とした継続的な対話であり、それを支える関係性やプロセスを意味しています。

この一連のプロセスを脳科学的な観点からみると、クライアントの脳は、コーチングによる対話や自己探求が刺激となり活性化します。そして、コーチングにより引き出された新たな行動やマインドセットなどにより脳が継続的に鍛えられると、脳内に新たな神経回路がつくられ、新しい行動やマインドセットが習慣化されていくのです。

本コラムでは、コーチングの対話が脳をどのように鍛え、クライアントのマインドや行動に影響を与えているのか、科学的な側面を理解することでコーチングへの理解を深めてみたいと思います。

脳の底力・・・神経可塑性について理解しよう!

脳の底力・・・神経可塑性について理解しよう!

人間の感情、思考、行動などを司る「脳」には、約1000億個の神経細胞(ニューロン)があり、それぞれが数千~1万個くらいのシナプス(ニューロンを繋ぐ要)によってお互いに結び付けられていると言われています。シナプスによるニューロン間の結び付きは、土の中に張りめぐらされた大木の根のように非常に複雑に絡み合っています。そして、情報を伝える側のニューロンから放出された神経伝達物質が、シナプスを介して受け取る側のニューロンに渡ることで情報が伝達されていくのです。

昔は、年齢とともに記憶力や学習力などが衰えるとされていた脳ですが、脳科学研究が進んだことで、何歳になっても新しい経験や学習、環境などによりシナプスの結びつきに変化を起こし、鍛えることができるということが解明されています。

このように脳が刺激(新しい経験や学習など)に応じて、構造的・機能的に再構成される能力のことを「神経可塑性(かそせい)」と呼びます。脳が刺激を受け柔軟に変更し活性化している状態とも言えます。

ある認知力を測る研究では、言語力や空間推論力などにおいて20代よりも高齢者の方が高いテスト結果であったことが報告されています。脳の一部の機能については、加齢により一般的には衰える傾向があるにしても、個人差がとても大きく、最新の脳科学研究では、加齢と脳の衰えは決してイコールではないと考えられております。脳は何歳になっても鍛えることのできる「底力」を備えているのです。

脳内には、ニューロンと呼ばれる神経細胞がシナプスを介してつながっていて、電子回路のようなネットワークをつくって情報を伝達しています。

電子回路と大きく違うのは、このニューロン同士を接続するシナプスは、その人がさまざまなことを経験したり学習したりすることで、それを記憶し、変化するということ。ニューロンから受け取った情報をそのまま流すのではなく、シナプスを大きくしたり小さくしたりすることで、情報の伝わりやすさを操作しているのです。このシナプスの変化を、「シナプスの可塑性」といいます。

医学博士に聞く、記憶力・学習力アップに影響する脳機能「シナプス可塑性」とは?|LINK@TOYO|東洋大学 より抜粋

脳の神経可塑性という事実は、何歳になっても変化・成長できるという人間の「柔軟性」や「可能性」を証明してくれています。これは、クライアントの可能性を後押しするコーチにとっても大変心強い科学的エビデンスの一つです。

「もう歳だから~」、「今更~できない」という発想は、人間のマインドセットから生まれたものです。コーチングの場面であれば、その奥に潜む本心や本質に迫ることで、クライアントの変化の扉を少しずつ開放できる可能性が充分存在するのです。

 

コーチングは脳にどんな刺激をもたらすのか?

コーチングは脳にどんな刺激をもたらすのか?

コーチング中の対話や内省が、脳にどんな刺激をもたらして活性化を促していると考えることができるのか?どんな時に脳内で新しいシナプスの結び付きが誕生しているのだろうか?

これは、もちろん研究中の分野でもあるため完全に解明されているわけではありませんが、コーチングの効果という観点から考えることで、その関係性が見えてきます。

下記に、代表的なコーチングの効果と脳の変化の可能性について考えてみました。

 

コーチングの効果その1:言語化・内省などによる自己認識力や洞察力の向上

コーチングの効果その1:言語化・内省などによる自己認識力や洞察力の向上思考や感情を言葉によって表現することを「言語化」と言い、考えや行動などを深くかえりみることを「内省」と言います。両者ともコーチングのプロセスでは欠かせないものであり、自己認識力や洞察力の向上などの効果があります。

コーチングでは、「モヤモヤしている」「何となく・・・」などという曖昧な表現で、上手く言語化できない思考や感情を探求する場面が頻繁にあります。コーチとの対話により新たな視点で考えることや、注意を向けて内省することにより、「モヤモヤ」や「何となく」の解像度が上がり、言葉で説明ができるようになります。そして、そこから更に洞察が深まることが良く起こります。

このコーチングのパターンからは、「言語化」や「内省」による一連のプロセスを通して、脳内に新しい思考回路が形成されていくことが期待できるかもしれません

コーチングの効果その2:認知の再構築による思考の柔軟性や問題解決力の向上

コーチングの効果その2:認知の再構築による思考の柔軟性や問題解決力の向上

コーチングでは、制限的な信念や否定的な思考パターンなどを取り扱うことがよくあります。

それは、クライアントが持つ考え方の癖であり、無意識的に持っていることも多く、多かれ少なかれ誰もが持っています。一見、ネガティブに見える考え方の癖であっても、クライアントにとって必要であったからこそ、身に付いた考え方なのかもしれません。しかし、現在のクライアントが望むゴール達成や成功においてブレーキをかけているものであれば、手放すか修正が必要になります。

認知の再構築を行うためには、行動にブレーキをかけているような信念や思考パターンを認識することからスタートします。コーチングでは自分のとらわれに気づき、クライアントの準備状況をみながら、適切なタイミングで信念体系を更新していきます。

またクライアントが無理なく取り組める小さな目標設定や行動を通して、結果的に信念体系が再構築されることもあります

他にもパターンはありますが、いずれにしても、コーチングのアプローチにより新しい視点がうまれることで、より柔軟な思考力が発揮され、マインドセットの変化や問題を解決していく能力が強化されるのです。それによって目の前にある目標に向かう推進力だけではなく、将来の出来事や新たな目標に対処する基盤が次第に形成されていきます。

コーチングの効果その3:目標達成による自己効力感の向上

コーチングの効果その3:目標達成による自己効力感の向上

コーチングでは、最終ゴールまでの道のりに小さなマイルストーン(目標)を設定していくため、前進していることが実感しやすいプロセスでもあります。この小さな目標達成や最終ゴールの達成による成功体験は、自信を高め、自己評価も上げるため、自己効力感が向上します

自己効力感とは、自分で目標や課題を達成する能力を自らが持っているという信念のことです。

そのメリットとして、モチベーションの高い状態を保ち続けることや、チャレンジ精神が芽生えること、失敗した時に立ち直る力であるレジリエンスを引き出すなどが考えられます。

ゴールや目標を達成した時、脳内では神経伝達物質ドーパミンが放出されていると考えられています。このドーパミンの分泌により、嬉しさや喜びなどの「幸福感」を感じ、次のステップへの「モチベーション」が湧いてくるのです。また、ドーパミンは、目標達成した時だけではなく、ワクワクする最終ゴールを描いたとき、小さな目標を設定した時、そして目標達成に向かって努力をしている時にも放出されモチベーションを高める作用があるそうです。まさにコーチングプロセスは、より多くのドーパミンが放出される可能性がとても高いと言えるのです。 

マインドフルネスが脳に与える影響

マインドフルネスが脳に与える影響

マインドフルネスとは「今この瞬間に注意を留めること、それによって生まれてくる明晰な気づきの状態」を表します。

マインドフルネスを培うための瞑想などの実践は、ストレスの緩和や集中力を高めるなどの効果が研究で数多く報告されていることから、ビジネス界やスポーツ界でも注目されて、現在では広く一般的に広まっています。瞑想アプリやマインドフルネスに関連する情報や動画などはとても手に入れやすくなり、一人でも試すことができます。

マインドフルネスの歴史や実践法については、マインドフルネスの実践者に聞いた「習慣化」のコツに記載していますので、是非参考にしてみてください。

コーチングにおいては、コーチもクライアントもマインドフルな状態でいることで、本来コーチングのアプローチが持っている可能性を十分に発揮することができると考えます。

MBCC®におけるマインドフルコーチング®の核は、コーチ自身の自己認識力と自己管理力を、マインドフルネスを通して培い、コーチングの基盤としていることです。

コーチの自己認識力と自己管理力がクライアントの状態にも影響を与え、クライアントのマインドフルネス(言い換えればオープンな心で内省し、大切なことを探究するコンディション)を生み出すことを助けます。

コーチとクライアントのマインドフルネスな関係性が、さまざまなコーチング技法を状況に応じて最適化し、必要な実践をすること、不必要なスキルは手放すことにつながります。
MBCC®HP内「マインドフルコーチング®とは」

さて、本題に戻りますが、マインドフルネスによる様々な表向きの効果の裏では、脳内でどんな科学的変化が起きているのでしょうか?

マインドフルネスによる脳の変化

マインドフルネスによる脳の変化

MRIを使った研究では、マインドフルネスを続けた人は、左海馬や側頭頭頂接合部において灰白質(かいはくしつ)の密度が増加したという研究報告があります。

海馬は、感情コントロール、空間認知、学習、記憶の保存を担当しており、鬱(うつ)やPTSD(心的外傷後ストレス障害)の人では小さくなっていることが知られている部位です。

側頭頭頂接合部は、頭頂葉が側頭領域と接する脳の領域で、思いやりや共感に関わっている部位と言われています。

マインドフルネスの実践により、脳が変化したことで、結果的に集中力の向上や感情のバランス、共感力などに影響を及ぼしているのではないかとも考えられています。

「呼吸瞑想」の効果

「呼吸瞑想」の効果

マインドフルネスの実践において「呼吸瞑想」は代表的な方法の一つです。

人間が日々無意識的に行っている「呼吸」に意識を向けあるがままの自然な呼吸を観察していきます心身の落ち着きとともに現れる「ゆっくりとした呼吸」が、自律神経を整え、心理面や大脳の柔軟性を高める作用があるという研究報告もあります。自律神経が乱れると、ドーパミン、セロトニン、オキシトシンなどの神経伝達物質の分泌量も下がるため、脳内のバランスを保つためにも自律神経を整えることは重要なのです。

コーチングへの理解を深める科学的事実

コーチングへの理解を深める科学的事実

コーチングプロセスに大きな影響をもたらす神経伝達物質のドーパミンは、前述したように、報酬(目標達成)の実現だけではなく、報酬の予測をした時や努力をしている時にも同様に増加することが分かっています。

これは、もちろんコーチングに限らず、日々の気持ちにも表れています。

一例として、クリスマスや旅行などのイベントを楽しみにしている時、実現した時だけではなく、イベントを待ちわびている時にもワクワク感や嬉しさなどの幸福感を感じることがあります。読者の皆さんにもそんな経験があるのではないでしょうか?

このような人間の反応やパターンを科学的に理解することは、クライアントの感情や行動を理解し、目標達成への後押しをする上で役立っていくでしょう。

コーチング中は、様々な人生の喜怒哀楽の連続です。人間の感情や行動と、その裏で起こっていることの科学的な裏付けを理解することは、別の視点でクライアントを理解する材料にもなります。

コーチとして、脳科学への理解を深めることで、コーチングアプローチを見直し高めるきっかけにもなるのではないでしょうか?

学びとは、つまり人生の中で理解したと思っていたことを新しい形で突然、理解し直すことである。~ドリス・メイ・レッシング(2007年にノーベル文学賞を受賞したイギリス人作家)

That is what learning is. You suddenly understand something you’ve understood all your life, but in a new way. ― Doris May Lessing

 

MBCCリサーチ担当 今村佳未

 

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