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自信がない人の「勇気」を引き出すコーチング

今村佳未 投稿者:今村佳未 カテゴリー:コラムコーチング

自信がない人の「勇気」を引き出すコーチング

コーチングで一歩踏み出す「勇気」を見つける

新しい海を発見したいのなら、まずは岸を離れる勇気が必要です。
If you want to discover new oceans, you must first have the courage to leave shore.
ウィンストン・チャーチル(Winston Churchill)

「成長したい」
「目標を達成したい」
「夢を実現したい」
そう願ってはいても、なかなか新しいことに踏み出せない経験はありませんか?

「まだ準備ができていないから」
「経験が足りないから」
「失敗したらどうしよう・・・」
そんな内なる声が聞こえ自信を無くしてしまう。目標に向けた行動が進まないケースは、コーチであれば目にしたことがあるはずです。コーチ自信もそんな体験をしているかもしれません。

この「自信が持てない」傾向は、特に女性に強く、キャリアにおいては「昇進」を望まない理由の一つにもなっています。実際に、こんな研究結果もあります。

コーネル大学とワシントン州立大学の心理学者が行った研究によると、女性は男性に比べて、自信を喪失しやすいという。別の研究では、男性は自分が求人の採用条件の6割を満たしていれば応募するのに対し、女性はすべての条件を満たしていないと応募しない場合が多いことも示されている。
( 「自信がなくても勇気を出して行動すれば、キャリアの成功に近づける」より抜粋、以下「勇気を出してキャリアの成功に近づける」、Harvard Business Review、 2023年2月23日掲載)

もちろん女性に限らず、男性にとっても珍しい話ではありません。
しかし、コーチングでは、いかにこのパターンを崩し安全地帯と呼ばれる「コンフォートゾーン」から出て目標達成に向けた「行動」にシフトできるのかが試されるところになります。

そこで本コラムでは、コンフォートゾーンとその外の世界を理解した上で、一歩踏み出す「怖さ」を抱えながらも「勇気」を出し行動する方法を、コーチとしての視点も含め探求していきたいと思います。

「コンフォートゾーン」とは?

コンフォートゾーンとは「安心できる居心地の良い領域」のことです。

コンフォートゾーンとは「安心できる居心地の良い領域」のことです。

私達は、生きている中で、心地よい状態と心地わるい状態を無意識的に記憶しています。そして、自分の経験を通して安心して過ごせる「コンフォートゾーン」が作られていきます。その範囲内にいれば「心の安全」が保たれ、ストレスや危険を感じない場所であることから、安定したパフォーマンスが発揮できる環境とも言えます。

しかし、人間が成長するためには、この安全と感じている「コンフォートゾーン」から抜け出す必要があるといわれています。そこで、葛藤が起こります。
「成長はしたい。だけど、コンフォートゾーンから出るのが怖い・・・」

コーチングにおいて、クライアントがコンフォートゾーンを出ることの「怖さ」を抱えているのであれば、この感情を取り扱わないまま、ただ行動計画ばかりを進めても失敗に終わる可能性が高まります。もちろん、だからと言って、誰しも同じ「怖さ」を感じているわけではありません。目の前のクライアントが、そもそも「怖さ」や「自信の無さ」を抱えているのか。抱えているのであればどんな「怖さ」なのか、丁寧に個別対応すべき重要なシーンの一つと言えます。

「コンフォートゾーン」の外の領域を理解する

コンフォートゾーンとその外の領域(図)

では、コンフォートゾーンの外の世界は「怖い」だけなのでしょうか?
もちろん、そんなことはありません。

コンフォートゾーンの外側にある、「怖れの領域(Fear Zone)」一時的な領域です。
「怖れの領域」にいながらも行動を続け、経験を積むことで「学びの領域(Learning Zone)」に入ります。学びの領域にいると、コンフォートゾーンが少しずつ広がっていきます。そして、その先には、目標達成の領域でもある「成長の領域(Growth Zone)」があります。
「怖れの領域」の先には「学びの領域」と「成長の領域」があることを知っておくだけでも、コンフォートゾーンから出るモチベーションとなり、「勇気」を引き出すことにもつながるのではないでしょうか。

人間の性質上、「怖れの領域」があることは、とても自然なことです。ですから、コンフォートゾーンから出られない自分を責める必要はありません。それよりも、一歩踏み出すことを躊躇している自分に気づき、一旦はありのままの自分を受け止めてみることをお勧めします。
コーチングで言うならば、「現状把握」ということになります。クライアントが立っている現在地の解像度を上げることで、より適切なスモールステップ(小さな一歩)の設定がしやすくなります。
まさに、コーチとクライアントのパートナーシップにより、クライアントが充分な自己探求をすることで、成長の領域までのロードマップが描かれていくのです。

<各領域の傾向>
怖れの領域(Fear Zone)
・緊張や不安などで居心地が悪くストレスを感じる。
・コンフォートゾーンに戻るための言い訳を探す。(実際に戻ってしまうこともある)
・(自信が無いため)周りの意見に影響を受けやすい。

学びの領域(Learning Zone)
・「学び」や「経験」が得られる領域であり「自信」が感じられるようになる。
・環境に慣れ、徐々にコンフォートゾーンが広がる。

成長の領域(Growth Zone)
・目標の達成、夢の実現。
・自信や目的意識があり、次の目標を設定する。
・このゾーンまで達成できないケースも大いにある。

「コンフォートゾーン」から踏み出すためにできること

コンフォートゾーンから踏み出し、「恐れの領域」でチャレンジ

それではコンフォートゾーンから踏み出し、「恐れの領域」でチャレンジするためには、どんな方法があるでしょうか?目標達成に向けた勇気ある一歩を踏み出すためのヒントをいくつかご紹介します。

①「自信をつけてから・・・」ではなく「勇気」を強めて行動する
もう少し自信をつけてから新しい環境に踏み出していきたいと思う方は多いはずです。
しかし、実は「自信がある」状態にするのには、とても時間がかかる、もしくは永遠にやってこないこともあります。

勇気とキャリアの成功」では、「自信」ではなく「勇気」を強めることの重要性を紹介しています。勇気をふるい行動を起こすことで、欲しかった自信がついてくる。

この逆転の発想を持ってみることは大きな鍵となりそうです。なぜなら、実際にキャリアで成功している女性の多くがこの順番でチャレンジをして前に進んでいるからです。

筆者の経験からは、キャリアで成功を収めている女性は、不安や疑念の中で「自分は準備ができているのか」と疑念を抱きつつも、勇気を奮って行動を起こし、前に進んでいる。
「私たち女性は往々にして、前に進むには、準備が100%整っていなくてはならないと思いがちです。しかし、50%あるいは75%準備ができていれば、思い切って飛び込んでみる。とにかく、やってみるしかないのです」と、ボストン市の女性地位向上局でエグゼクティブディレクターを務めたミーガン・コステロは述べている。

(「勇気を出してキャリアの成功に近づける」より抜粋)

②「小さな勇気」を重ねてコンフォートゾーンを広げる
日々の様々な場面で、「小さな勇気」を出して自分をコンフォートゾーンの外に押し出してみる。この地道な努力が、コンフォートゾーンの外に出る訓練となり、勇敢なマインドセットを育むことにつながるのです。どんなに小さなことでもいいので、いつもの日常に変化を起こす練習を重ねてみましょう。徐々にコンフォートゾーンが広がり、自分で決めて行動することに自信がうまれていきます。

<「小さな勇気」の例>
(仕事)会議でなかなか発言できない場合
チームミーティングなど、会議の中でもハードルの低い集まりの中で一言でも発言する。「意見」が難しければ、「感想」を伝えるなど、発言の中でもハードルの低いものから挑戦してみる。出来たことをノートなどに記録して、小さな勇気を可視化して定期的に振りかえる。

仕事以外の場でも、勇気を奮い起こす練習をする
・興味はあるが未経験の習い事を始める
・近所の人を見かけたら自分から挨拶をしてみる
・SNS発信をしてみる
・いつもは読まない分野の本を読む
・初めての場所(旅行先・レストラン・いつもは通らない道など)に行く

上記の他、「コンフォートゾーン」を広げるために試してみるべき10のこと(Forbes Japan,2016年12月4日掲載)に掲載のアイデアも参考になるかもしれません。自分にとって勇気を出さないと難しい、でも少しの勇気で実現可能なことからスタートしてみましょう。勇気を出す度に、「勇気の筋肉」が鍛えられて、「自信」という副産物を受け取ることができるのです。

コーチングで自己認識を高め「適切な一歩」を見つける

コーチングで自己認識を高め「適切な一歩」を見つける

クライアントがコンフォートゾーンを出る際、「適切な一歩」を踏めるか否かは、成功の大きな要因になります。最初の一歩は大きすぎても、小さすぎても失敗の危険性が高まります。

大きすぎる一歩を踏んでしまうと、パニックゾーンに陥ってしまうことがあります。パニックゾーンでは大きなストレスを抱えているため、挫折やトラウマ、病気などをひき起こし潰れてしまう危険性が高まるのです。
一方、最初の一歩が小さすぎると、実際にはコンフォートゾーンから出ていないこともあり、結果的に目標達成に近づいていない可能性がうまれてしまいます。

クライアントは、自己探求を通して、勇気を出してコンフォートゾーンの外に出るための「適切な一歩」を見つけていく必要があります。そして、その際に鍵となるのが「自己認識力」です。等身大の自分の姿が分かれば分かるほど、今の自分にとっての適切なステップの大きさが想像しやすくなります。

その際に鍵となるのが「自己認識力」です

Positive Psychology.com に掲載のHow to Leave Your Comfort Zone and Enter Your ‘Growth Zone’(コンフォートゾーンを出て「成長のゾーン」に入る方法) では、下記二つの「問い」が行動変容に不可欠な自己認識力にプラスになると紹介しています。

・各ゾーンの大きさは?(How big are their zones?) 

あらゆる人生の領域において、私達のゾーン(領域)の大きさは様々です。コンフォートゾーンから離れるには、その外側の限界を理解する必要があります。同様に、自分のパニックゾーンがどこにあるのかを直感的に理解する必要があります。そして、その中間に位置する課題に挑戦することは、自分を成長させ学習につながるのです。
(原文:Across every life domain, everyone’s zones vary in size. To leave your comfort zone, you must appreciate its outer limits. Similarly, you must develop an intuitive sense of where your panic zone lies. Taking on challenges that lie somewhere in between will stretch you, leading to growth and learning.)

・強みは何ですか?(What are their strengths?)

個人の強みを理解し、それを活かすことは非常に役立ちます。大多数の人は、人生の少なくとも一つの分野でコンフォートゾーンを離れた経験があり、通常、この経験から多くの洞察を得ることができます。
(原文:Understanding and capitalizing on personal strengths can be of great use. Most people have experienced leaving the comfort zone in at least one area of life, and there are usually plenty of insights to be uncovered from this experience.)

クライアントの「勇気」を後押しする

クライアントの「勇気」を後押しする

コーチであれば、コンフォートゾーンとその外の領域、そして目の前のクライアントにとっての適切なステップがある、ということを理解しアプローチすることは大切です。そして、決して急ぎ過ぎず、確実に一歩ずつ進む後押しができることで、クライアントの「勇気」の筋肉が鍛えられていくのです。

このメカニズムを理解すると、「クライアントの可能性を信じる」という少し抽象的な表現が、とても具体的なものへと変わるのではないでしょうか。

動かないことが疑いと恐れを生み出す。行動は自信と勇気を生み出す。もしあなたが恐れを克服したいと思うなら、家の中で座って考えたりしてはいけない。外に出て、忙しくするのだ。

Inaction breeds doubt and fear. Action breeds confidence and courage. If you want to conquer fear, do not sit home and think about it. Go out and get busy.

デール・カーネギー(Dale Carnegie)

MBCCリサーチ担当 今村佳未

<参考文献>