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コーチングの学びを劇的に変えるメタスキル「好奇心」の力

今村佳未 投稿者:今村佳未 カテゴリー:コラムコーチング

コーチングの学びを劇的に変える「好奇心」の力

好奇心が持つ普遍的なパワー

I have no special talents. I am only passionately curious.”(僕には特別な才能があるわけじゃない。好奇心がとても強いだけだ。) Albert Einstein(アルベルト・アインシュタイン) 

 

 好奇心が研究の主な原動力でした。」 吉野 彰(ノーベル化学賞受賞者) 

 

 We keep moving forward, opening new doors, and doing new things, because we’re curious and curiosity keeps leading us down new paths.”(私たちは常に前進し、新しい扉を開き、新しいことを行っています。なぜなら、私たちは好奇心が強く、好奇心が私たちを新しい道へと導いてくれるからです。) 

Walt Disney(ウォルト・ディズニー) 

 

好奇心」にまつわる名言は世界中で誕生してきました。 

それらの名言が語り継がれる理由は、時代や場所を超えた「普遍的」で巨大な「パワー」が存在する証なのだと思います。 

功績を残した偉人の言葉だけではなく、教育やビジネスなど、より身近なシーンでも「好奇心」の重要性を聞いたことがあるのではないでしょうか?コーチングにおいても「好奇心」は非常に重要なメタスキルの一つと言われています。 

では、どうして「好奇心」がコーチングや学び、そしてビジネスや人生にとってそれほど重要なのか? 

何となく分かっているようでもロジカルに説明しようとすると結構難しいものです。 

本コラムでは、好奇心の重要性について、好奇心を持って一歩踏み込んでみたいと思います。 

 

「好奇心」はコーチングの何に役立つの?メタスキルが重要な理由 

「好奇心」はコーチングの何に役立つの?メタスキルが重要な理由

コーチングに限らず、「好奇心」は生きる上でのメタスキルと言われていますが、いきなりメタスキルと言われてもイメージしづらいかもしれません。そこで、まずは「好奇心」の位置づけと役割を整理してみます。 

ここではコーチングという専門職の領域に求められるスキルの観点から、便宜上「コーチング特有のスキル」「コーチングを十分に機能させるためのスキル」「スキルの基盤となるメタスキル」に分けて分類してみました。(重複するスキルももちろんありますが、ここでは頭を整理する目的なので細かい点は割愛して分類しています。) 

 

<コーチングにおける代表的なスキル> 

コーチングを行うための専門特化した能力

  • コーチングの対話構造を理解し活用する(ゴール設定・現状把握・行動計画などのプロセス把握と管理)
  • コーチングとは何かの理解(職業倫理の理解と実践)
  • 質問、傾聴、フィードバック等の個別スキルの理解と実践
  • 契約や業務管理などに関わるコーチング職特有の知識と技能

 

コーチングを行うための専門性を支えるより広範囲な能力

  • さまざまな状況に応じたコミュニケーション(コーチングで強調されること以外の要素も理解し実践できる)
  • 目的意識/目標設定
  • 主体的な行動
  • 発散思考/収束思考(多様な観点から広く考える、計画づくりや行動に向けて焦点化する)

 

③上記➀と②の基盤となるメタスキル

  • 好奇心
  • 自己認識力
  • 自己管理力
  • (他者の視点を理解し適応する、気持ちを汲み取る)
  • レジリエンス(心身の状態へのマインドフルな気づきにもとづく自己受容、自律的に回復させる力) 

 

「好奇心」を含むメタスキルは、①と②のスキルの能力を養い、そのスキルを発揮していくための潤滑油のような役割と言えるのではないでしょうか。言い換えれば、メタスキルが乏しいと、①と②の両方で、スキルの伸び悩みや不安定さを抱えていくことになります。 

 

例えば、コーチがどんなに多くの質問リストを準備したとしても、「好奇心」が発動されなければ、目の前のクライアントがこの瞬間に探求できるような「質問」が何なのかが分からないでしょう。 

また、クライアントの様子を「好奇心」を持って観察することで、言葉だけではなく表情や声のトーンなどの非言語への気づきも増えてくるでしょう。 

「好奇心」は探求へのモチベーションに直結します。コーチが好奇心を持ってセッションを行うことは個別対応の大前提ですが、クライアントにとっても「好奇心」を持つこと、又は何に「好奇心」を抱くのかが分かることは、大きな一歩となります。まさに、「好奇心」は未知の領域への「扉」を開ける鍵と言えそうです。 

 

どちらも大切!「拡散的好奇心」と「知的好奇心」がコーチングに与える影響  

どちらも大切!「拡散的好奇心」と「知的好奇心」がコーチングに与える影響

人間が太古からうまれ持つ「好奇心」は、人間の活動の全域に影響を与え続けてきたのにもかかわらず、好奇心についての研究の歴史はまだまだ浅いものです。心理学の分野では1950年代頃から理論や研究が発表され始めたそうです。 

「好奇心」についての名著『子供は40000回質問をする』(イアン・レズリー著)には、好奇心についての研究や理論が初心者にも分かりやすく解説されています。好奇心が教育や人生において何故重要なのか、専門的な理論と具体的な事象を結び付けることで、自分のケースと重ね合わせ自分事として理解しやすい、お勧めの一冊です。 

この書籍の中で「拡散的好奇心」と「知的好奇心」の二つの好奇心が登場します。この二つ以外にも理論上分類された好奇心はありますが、まずは代表的なこの二つの好奇心を理解することで、無形で流動的な「好奇心」への理解が進むのではないでしょうか。 

 

〇拡散的好奇心・・・特定の目標を定めずに、いろいろな新しい事や情報に興味・関心をもち、より知りたいと求める気持ち 

 

“好奇心のはじまりは知りたいという心のうずきとして現れる。私たちは生まれて間もない頃から知らないものを理解したいという強い欲求を抱いている。1964年のある調査では、赤ちゃんは生後二カ月の時点で、さまざまな図柄を見せられるとふだん見慣れない形に惹かれることが明らかになった。親なら誰もが知っていることだが、子どもは触ってはいけないものに手を触れ、ドアが開いていれば外へ駆けだし、土くれを口に入れずにはいられない。心理学者はこんなふうに目新しいものすべてに惹きつけられることを「拡散的好奇心」と呼ぶ。 

これは大人になると、新しいものや次なるものへの飽くなき欲求として現れる。現代の社会は拡散的好奇心を刺激するようにできている。ツイート、見出し、広告、ブログ、スマートフォンのアプリなど、どれも満足したかと思うとすぐに物足りなくなり、私たちは満足を得ることにかつてないほど性急になっている。(中略) 

拡散的好奇心は、好奇心への第一歩だ。私たちが未知なるものへと目を開くきっかけとなり、新たな経験を求め、それまで縁のなかった人々に出会うことを後押ししてくれる。ただし、知ることへの欲求をふくらませて成熟させない限り、何の洞察も得られないまま興味の対象を次々と替えるだけで、エネルギーと時間を無駄にしかねない。束縛のない好奇心は素晴らしい。しかし、方向性をもたない好奇心は不毛だ。“(『子供は40000回質問をする』より抜粋) 

拡散的好奇心

 

〇知的好奇心・・・特定の対象に対して興味や関心を抱いた上で「もっと深く知りたい」と思う気持ち 

 

“拡散的好奇心がうまく導かれ、知識と理解を求める意欲へと変われば私たちの糧になる。このように意識的に訓練をしなければ身につかない奥深い好奇心こそが「知的好奇心」であり、本書の主要なテーマである。

知的好奇心は個人にとって、魂の糧となる満足と喜びをもたらしてくれるだろう。組織や国家にとっては、独創的な才能にたっぷりとエネルギーを注いでイノベーションを誘引し、いわば鉛にすぎない拡散的好奇心を黄金にかえる触媒となるだろう。火星に探査機を飛ばすには遥か彼方の惑星に到達したいという強い欲求が原動力になるが、カメラを載せた探査機を駆使して火星の姿に迫ろうとするなら、問題解決への尽きることのない執着心が伴わなければならない。”(『子供は40000回質問をする』より抜粋)

知的好奇心

赤ちゃんが目に入るもの全てに興味を持つ様子や、幼児が毎日頻繁に質問をする様子は、拡散的好奇心そのものです。子どもたちは、まだ見ぬ世界を知りたい、理解したいという本能的な好奇心から、大人にとっては当たり前で疑問に思わないような視点で質問を繰り返し続けています。 

拡散的好奇心により興味が湧いた世界を、もっと知りたいと探求していく気持ちが知的好奇心です。 

例えば、子どもが野外で遊んでいる時に拡散的好奇心により興味をもった「昆虫」がいたとすれば、家に帰り昆虫図鑑を開き、どんなことを知ることができるのかワクワクしながらページをめくる気持ちが知的好奇心です。 

 

では、この二つの好奇心(拡散的好奇心と知的好奇心)は、コーチングにおいてはどんな働きをもたらしてくれるのでしょうか? 

コーチがコーチングの学びを続け成長していくモチベーションにもなるのが知的好奇心だと考えます。もっと深くコーチングを理解したい、より良いセッションはどうやって提供できるのか?という探求心があるからこそ、学び続けることができるのではないでしょうか。知的好奇心による探求によって得た知識は、コーチングセッションで実践されることで活かされていきます。 

また、コーチングセッションでは、コーチもクライアントも拡散的好奇心をもち、固定観念や前提を手放し、新しい世界を自由に探求していくことがとても大切です。そんな好奇心からうまれる「問い」は、時にはクライアントが目を背けてきたもののベールをはがすかもしれません。しかし、新たな視点や持っていた思い込み、まさに真実に気づき、自己発見を促していく力の一つが拡散的好奇心ではないでしょうか。 

 

コーチングの力の源泉「好奇心」と「問う力」 

コーチングの力の源泉「好奇心」と「問う力」

「問いを持った部族は生き残ったが 答えを持った部族は滅びた」(ネイティブアメリカンの言葉) 

 

「好奇心」を武器にするのが「問い」であり、「問う」ことで更に「好奇心」が駆り立てられる。「好奇心」と「問い」がセットになると、とてつもない原動力がうまれ、新たな可能性へと導いてくれるのです。 

 

“質問をすることは、好奇心への入り口であり、学習への無限の道を築くことです” Right Question Institute 掲載のリソースより抜粋) 

 

長年、リーダーシップやキャリア支援のコーチとして活躍するナタリー・ジョビティ氏も、ICF(国際コーチング連盟)掲載のコラムの中で、好奇心がコーチの「秘密兵器」であることを語っています。ジョビティ氏は、コーチが好奇心のマインドセットで「質問」をしていくことが、クライアントの探求への鍵となることを強調しています。 

 

“コーチのトレーニングを受けていた時、質問は情報収集のためではなく、好奇心のマインドセットでするように教えてもらいました。好奇心のマインドセットによって、私はクライアントを夢中で観察し、コーチングの会話を、洞察、学習、発見が育まれる道と見なすことができました。 

一方、情報収集型の質問では、私は専門家として、知識人として、会話を方向づけ、推奨事項を考え出す役割を担ってしまうのです。これはコーチングではありません。  

私は好奇心をもって、クライアントの内なる知恵を探り、その人しか思いつかないような解決策を明らかにするよう、クライアントを誘うのです。この発見のプロセスこそが、コーチングの力であり、素晴らしさなのです。“(2022年9月ICFコラムCuriosity: The Secret Weapon of Great Coaches and Leaders ⦅好奇心:優れたコーチとリーダーの秘密兵器⦆” より抜粋) 

 

「好奇心」の育て方 

「好奇心」の育て方

人間の好奇心にアップダウンはつきものです。その時々の環境やライフステージなど、様々な要因で好奇心が見え隠れするかもしれませんが、コーチやコーチングを学んでいる人ならば、好奇心を持ち続け、高めていきたいと思うはずです。そこで、好奇心を見つけ育てることに役立つ方法を二つご紹介します。 

大きい書店(または図書館)に行く 

書店に入ったら、よく行く特定のコーナーだけではなく、いつもは行かないようなコーナーにも足を踏み入れて本を眺めてみます。そして、たとえ今は目の前の本を読む利点が何なのかは分からなかったとしても、ちょっと気になる本、純粋に読んでみたいな、と惹かれた本を読んでみます。 

 

“経済学者のジョン・メイナード・ケインズは、書店を訪れたときの心構えを指南している。 

書店は鉄道の切符売り場のように、はっきりとした目的をもって訪れる場所ではない。なかば夢見心地でぼんやりと立ち寄り、そこにあるものに心をゆだね、感化されるべきである。書店をめぐり、好奇心のおもむくままにページをめくることは午後の楽しみになるだろう。“(『子供は40000回質問をする』より抜粋) 

 

ジャーナリストの故立花隆氏もまた、ビジネスに生かす好奇心の鍛え方2014年10月PRESIDENT Online掲載)の中で、好奇心を鍛えるために、巨大書店で売り場全体を歩き回り、気になる本を数冊買ってみることを勧めています。 

 

いつもとは違うことをする 

新しい体験をすることで、何かしらの新しい情報が入ってきます。そして、新しい情報が入れば自然と「問い」もうまれます。 

それは日常の些細なことでいいのです。例えば、いつもとは違う道を歩いてみれば、はじめての風景に出会えます。そこでは、どんな発見があり、どんな感情がうまれてくるのでしょうか。 

または、スーパーに行った際に、いつもは買わない野菜を買ってみることもできます。どんなレシピで食べたら美味しいのか?と考えるかもしれません。 

新しい情報は、何の役にも立たないように感じることもあるかもしれません。しかし、こうした体験や問いは、好奇心の種まきです。そこから何を得られるか?よりも、違いを楽しみ、湧いてくる好奇心を大切にすることの方が、好奇心を育てることに繋がっていきます。 

 好奇心は他人との比較ではなく、一人一人のオーダーメイド。リターンを考えずに、好奇心の赴くままにやってみることが重要であると、脳科学者の茂木健一郎氏も話されていました。 

 

「好奇心」に対する好奇心を持ち続ける

人生のあらゆる場面でプラスの影響を与えている好奇心ですが、多くの場合は無意識的に発動しています。しかし、好奇心に関する知識を取り入れ、意識的に育もうとすることで、アンテナの感度がより高まります。 

 

今の自分にはどんな好奇心があるのだろうか? 

忘れている好奇心は何か? 

扉の向こうに未知の世界があるとすれば、それはどんな扉なのか? 

 

「好奇心」というアンテナを意識しながらコーチングの学びを続けることで、学びの速度や深さは大きく変わるでしょう。そして、コーチが好奇心を高め探求し続けることは、クライアントの探求をサポートする力にも繋がっていくのではないでしょうか。 

MBCCリサーチ担当 今村佳未

 

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<参考文献>