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コーチング学習に欠かせないリフレクションの習慣

今村佳未 投稿者:今村佳未 カテゴリー:コラムコーチング

コーチング学習に欠かせないリフレクションの習慣

経験を成長に変換する「リフレクション」とは?

経験を成長に変換する「リフレクション」とは?

リフレクションとは経験や学習を未来に活かすこと

経験というのは、莫大なお金に匹敵する価値がある。ただ、ほとんどの人が、その経験を学びに使わない。~ベンジャミン・フランクリン~

同じ「経験」をしても、そこから何を学び、次回どう活かすかで成長の度合いが大きく変わることは言うまでもありません。しかし、私達は実際にどれだけ「経験」を活かしきれているでしょうか?そして、経験からの「学び方」や「活かし方」について、どのくらいその方法を知っているものでしょうか?

自分の言動を含む「経験」について客観的に振り返ることを「リフレクション」(reflection)と言います。コーチングを学ばれている方ならば、「内省」という言葉の方がピンとくるかもしれません。リフレクションは、経験を成長に変換していくために要となる役割をしています。

リフレクションの目的は、あらゆる経験から学び、未来に活かすことです。どのような経験にも、たくさんの「叡智」が詰まっています。経験を客観視することで新たな学びを得て、未来の意志決定と行動に活かしていく。これがリフレクションです。

リフレクション(REFLECTION) 自分とチームの成長を加速させる内省の技術
より抜粋

キャリアや人生を切り開くリフレクション

一般的には、特に教育やビジネスの分野で、その効果が注目されています。

経済産業省が提唱している「⼈⽣100年時代の社会⼈基礎⼒ 」には、「⾃⼰を認識してリフレクションすることで、⾃らのキャリアを切り拓いていく」と記載がされています。世界レベルでみても、リフレクションがVUCA時代に生きる子供達にとって重要な力になることが、OECD(経済協力開発機構)が2003年に掲げた教育指針の中で明記されています。

 そこで本コラムでは、リフレクションの大切なポイントや、いかにリフレクションを実践していくのかに焦点を充てて考えていきたいと思います。

「リフレクション(内省)」と「反省」の違い

リフレクションを意味する「内省」と似たことばで「反省」という言葉があります。似ている点もありますので、その違いについて簡単に比較しておきます。

「反省」とは、自分の考え方や行動を振り返り、良くなかった点を認めて改めようとする行為のことです。今後のために過去を振り返るという意味では「内省」と同じですが、内省は良かった点と良くなかった点をどちらも振り返るのに対し、反省は良くなかった点に重点を置いているところが異なります。

また、内省は客観的に自己観察を行うことを目的としているのに対し、反省は主に振り返りの内容や改善点を周囲に伝えることを目的としています。

心理学が示す成長に必要な「リフレクション」

心理学が示す成長に必要な「リフレクション」

心理学的観点からも、リフレクションが「自己成長(人生においてのポジティブな変化)」に欠かせないことがReflection critical for self-improvement (Psychology Today, 2010918日掲載)に掲載されています。そして、ポジティブに変化していくためには、「ゴール(目標、目指す姿)」と「現在地(現状)」の2つの認識がいかに重要であるのかが述べられています。

 

ゴール達成には正確な現在地(=現状)を把握することが不可欠

現在地(現状)の把握については、分かっているようで実は正確さに欠けていることが多く、そのことが目標達成できない大きな理由の一つとなり得るのです。

人生において、人は多くの目標(例えば、もっと運動する、もっと良い配偶者になる、もっとお金を貯めるなど)を持っています。しかし、目標が実現されないことが多いのは、自己認識が不足しているためです。つまり、自分の現在の行動を監視しなければ(例えば、ジムに行く頻度をトラッキングする)、自分の目標(例えば、週に3回ジムに行く)と実際の行動(例えば、今週は1回しかジムに行かない)の間の相違の際立ちが低いのです。目標達成は、人生における他の事実となんら変わりません。したがって、目標達成の可能性を高めるためには、自分の現在の行動を常に意識し、目標からの乖離をより明確に把握する必要があります。

原文:In life, people have many goals (e.g., exercise more, be a better spouse, save more money). However, goals often go unrealized because people lack self-awareness. That is, without monitoring one’s current behavior (e.g., tracking how often one gets to the gym), the salience of the discrepancy between one’s goal (e.g., hit the gym three times per week) and one’s actual behavior (e.g., only going to the gym once this week) is low. Goal pursuit is no different than any other fact of life: out of sight, out of mind. Thus, to improve our chances of reaching our goals, we must remain aware of our current behavior to have a clearer sense of its departure from our goals.

Reflection critical for self-improvement より抜粋

成長に「自己認識」が重要な理由

ではなぜ、現在地の把握、すなわち「自己認識」がそれほど重要なのでしょうか?

心理学の研究によると、現状と目標との乖離を自覚することで生じるネガティブな感情が、自己改善を促すのに重要であることが示されています。

ネガティブな感情とは、上記の例で言うならば、目標(週に3回ジムに通う)に対して実際の行動(今週は1回しかジムに行かない)を認識することで起こる、例えば自分を責める気持ちやがっかりする気持ちなどのことです。このネガティブな感情が、ゴールに向かうために重要な役割を果たしているというのです。

流れる時間の中で、自分の言動や経験を振り返る「リフレクション」を行うには、意識的に立ち止まることが必要です。一見、時間がかかりそうに思うかもしれませんが、「成長」を意識するのであれば、正確な現在地とゴールとのギャップを認識しながら進む方が、より確実に成長へとつながることになります。

どんな経験を「リフレクション」するべきか

どんな経験を「リフレクション」するべきか

では、数ある経験のうち、どんな「経験」を振り返りの対象とすれば成長に効果的なのでしょうか?

「効果的な振り返り」についての興味深い研究が、Don’t Underestimate the Power of Self-Reflection(内省の力を過少評価しないでください)  202234, Harvard Business Review)に掲載されています。この研究は、442人のエグゼクティブを対象として、どの経験が自分の専門的な成長を最も促し、より良いリーダーになるために最も影響を与えたかを振り返る、というものです。その結果、下記のようなことが分かりました。

 

フォーカスすべき3つのテーマ「驚き」「フラストレーション」「失敗」

  • (研究の)分析結果より、「驚き」「フラストレーション」「失敗」の3つのテーマが浮かび上がってきました。これらのうち、1つまたは複数の感情を含むリフレクションが、リーダーの成長を助ける上で最も価値があることが判明しました。(原文:Three distinct themes arose through their analysis: surprise, frustration, and failure. Reflections that involved one or more or of these sentiments proved to be the most valuable in helping the leaders grow.
  • 「驚き」「フラストレーション」「失敗」。そして「認知」、「感情」、「行動」。あなたの中のこれらの部分は常に動いているため、もし休息する時間を持たずに、そこから学んだことを振り返らなければ、必ずや疲れてしまいます。(原文:Surprise, frustration, and failure. Cognitive, emotional, and behavioral. These parts of you are constantly in motion and if you don’t give them time to rest and reflect upon what you learned from them, you will surely fatigue.)

 

3つのテーマの具体的な例

3つのテーマ「驚き」、「フラストレーション」、「失敗」とは具体的にどんなことで、なぜ成長につながるのかを少し掘り下げてみます。

  • 驚き(surprise)・・・自分の期待を大きく裏切るような出来事(例えば、合理的な要求が却下される、実績のあるサービスのシェアが落ちる、など)が起こった際の「驚き」を意味します。すなわち、期待通りにいかなかったわけですから、判断や思い込みなどのどこかに間違っていたところがあり、振り返り改善すべき点をみつける機会となります。
  • フラストレーション(frustration)・・・飛行機が遅れる、交通渋滞に巻き込まれるなどの時もそうですが、せっかく考えた分析が批判されたときや、現場の現実を理解していないような会社に対して起こるフラストレーションを意味します。リーダーがフラストレーションを感じた瞬間は、改善、変化、革新、さらにはコミュニケーション、問題解決、忍耐といった他のソフトスキルを身につけるための機会でもあり、成長の機会となります。
  • 失敗(failure)・・・プロジェクトの失敗や、新規計画の失敗など。行動としてのミス。間違いは、今後やってはいけないことを示す生きた証拠となります。失敗によって、私たちは「否定的な例」、つまり「誤りによる学習」によって学ぶことができるのです。失敗は一時的なものであるため、学習経験としての価値について多くのことが書かれています。当然ながら、立ち止まって意図的に振り返る時間がなければ、学ぶことはできません。

研究によると、内省の習慣は、並外れたプロフェッショナルと平凡なプロフェッショナルを分けることができるそうです。他のすべてのソフトスキルの土台となるものだと言っても過言ではないでしょう。

原文:Research shows the habit of reflection can separate extraordinary professionals from mediocre ones. We would go so far as to argue that it’s the foundation that all other soft skills grow from.

Don’t Underestimate the Power of Self-Reflection(内省の力を過少評価しないでくださ い)  より抜粋

「リフレクション」の実践

「リフレクション」の実践

コーチングは、リフレクションを行うのにとても有効なシーンの一つです。

しかし、コーチングの一般的な頻度を考えれば、理想的なリフレクションの頻度とマッチしないケースが多いかもしれません。

リフレクションを取り入れて継続的に成長したいのであれば、自分一人でも効果的なリフレクションができるようになり、それを習慣化にしていく方法を模索する必要があります。

 

リフレクションの難しい側面も理解しておく

リフレクションの具体的な方法については、既に沢山のフレームワークや書籍などがあり、ハウツー(How to)に関しての情報は手に入れやすいと思います。しかし、一人で行うリフレクションの難しさは、「経験」の振り返りが、自己の認識力に頼っているところだと言われています。

その為、セルフコーチングには限界があり、コーチとの対話でのコーチングにはなかなか及ばないケースが多いのも事実です。いかに客観的に、そして俯瞰して物事を考えていけるのかが、より効果的な振り返りの鍵となることを理解し、誰にでも思い込みやバイアスが存在することを念頭においておきましょう。

 

「認知の4点セット」で自己認識力を養う

では、どうしたら客観的に、ありのままを振り返ることができるのでしょうか?

その方法はもちろん一つではありませんが、ここでは「リフレクション(REFLECTION) 自分とチームの成長を加速させる内省の技術」に掲載の「認知の4点セット」についてご紹介します。

これは、振り返り対象の経験(又は学習や出来事)に対して、「意見・経験・感情・価値観」を切り分けて言語化しながら振り返るアプローチです。感情や価値観が明らかになると、自分が大切にしていることが見えやすくなり、自己認識もすすんでいきます。

  • 意見:経験についての自分の意見(「考え」「学び」「思ったこと」)を書く。
  • 経験:「意見の背景にある経験」を書く。意見の根拠ともなる。より具体的な場面を思い出す。
  • 感情:その経験について、どんな感情があるのかを書く。感情の特定が難しい場合は、ポジティブとネガティブのどちらの気持ちなのかを手掛かりにしていく。
  • 価値観:意見の背景にある自分のものの見方、判断基準や尺度について書く。

 

取り組みやすいフレームワークを見つける

前述したように、振り返りを行うためのフレームワークは沢山あります。

例えば、①Keep(保つ)、②Discard(破棄)、③Add(追加)の頭文字を取ったKDAという方法があります。その名のとおり、①今後も続けること(上手くいっていることなど)、②手放すこと(今後ややめること)、③今後追加して始めること、を整理する方法です。シンプルなフレームワークですが、今ある不要なものを手放し、新しい行動を取り入れていくために役立つフレームワークです。

他にも、PDCAKPTYWT、経験学習モデルなどもあります。4行日記もその一つで、「事実」「気づき」「教訓」「宣言」の4点を4行に分けて書く方法です。シンプルな方法ですが、日々の振り返りに取り入れやすいのではないでしょうか。

いずれにしても、自分に合った方法や、場面ごとの使い分けなどを発見していくには、頻度を上げて実践していくことが大切です。

 

日々のモヤモヤ感を利用してリフレクションを習慣化する

成長に効果的と言われるリフレクションであれば習慣化していきたいものですが、「習慣化」と聞くとハードルが上がる人もいるかもしれません。習慣化のハードルを下げるには、リフレクションのメリットを実感していくことだと思います。そのためにも、自分の感情にアンテナを張り、ネガティブな感情をキャッチした時には、モヤモヤ感を放置せずにリフレクションを取り入れていくことをお勧めします。

モヤモヤ感やネガティブ感情が強ければ、じっくりと時間をかけて振り返る。ちょっとしたネガティブな感情であれば、4行日記でクイックに振り返る、のように使い分けていくこともできます。

モヤモヤする気持ちを引きずるのではなく、リフレクションをすることで現状を整理し、必要な行動に切り替えていく。ネガティブだった気持ちが未来に向けた原動力に変換される心地良さを体感することが習慣化にもつながるのではないでしょうか。

 

経験から「叡智」を探すリフレクション

経験から「叡智」を探すリフレクション

私自身、リフレクションの効果を実感すればするほど「人生のもっと早い時期に、リフレクションの重要性を理解し、意識して取り組めば良かった・・・」と悔やまれるのが正直なところです。

そこで、本コラムでのリフレクションに関する基本知識や一般的な実践方法に加え、もっとリアルな実践の様子や実践者の声を次号でお伝えしたいと思います。

MBCC®ファウンダーの吉田典生をはじめとする、エムビーシーシー合同会社 のトレーナーやコーチ達が取り入れているリフレクションの様子を大公開しますので、どうぞ次号もお楽しみにお待ちください。

「リフレクション」の効果をより多くの方に知って頂き、リフレクションを少しでも取り入れることで、日々の経験を更なる活躍や成長につなげて頂くことに一助できましたら幸いです。

 MBCC®リサーチ担当 今村佳未

 

<参考文献・書籍>

Harvard Business Review, 202234日掲載)

(Psychology Today, 2010918日掲載)