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コーチングが深まる!ネガティブ感情とセルフアウェアネスの活用法

今村佳未 投稿者:今村佳未 カテゴリー:コラムコーチング

コーチングが深まる!ネガティブ感情とセルフアウェアネスの活用法

コーチングとは、クライアントのゴール達成に向けたコーチとクライアントによる対話であり、そのパートナーシップです。そして、そこには未来へのポジティブな姿勢が凝縮されています。

 一方で、コーチングで扱うテーマや、コーチング中のクライアントやコーチの感情は、ポジティブなものもあればネガティブなものも当然あります。

クライアントにとってのネガティブな感情は、探求の手がかりになることが多く、コーチングにおいてとても重要なものです。では、対話をリードし管理しているコーチのネガティブな感情については、どうでしょうか?無視をされ、横に押しやられてはいないでしょうか?

本コラムでは、コーチのセルフアウェアネスの重要性と感情の整え方、そして、コーチが直観を活かしていく方法について模索します。別の言い方をすれば、ネガティブな感情も含めたコーチの感情と気づきをコーチングセッションにおいて有効に活用していく方法について掘り下げていきたいと思います。 

ネガティブ感情に「気づき」、「受け入れる」

ネガティブ感情に「気づき」、「受け入れる」

人間なら誰しも持つネガティブな感情ですが、ネガティブな感情が湧いている時には一般的には不快感を伴います。その為、多くの人にとってネガティブな感情はマイナスなイメージがあり、出来れば避けたいと思うことは、当たり前かもしれません。

しかし、最初に断言しておきたいことは、ネガティブ感情を含む全ての感情は人間にとって自然で必要であること。そして、特定の感情を封じ込めるのではなく、全ての感情に気づき、受け入れることの方が、はるかに自分らしい可能性を広げることにつながる大切なポイントであるということです。

そこで、まずは一般的に「厄介」と思われがちなネガティブ感情について理解し、どんな対処ができるのか確認しておきたいと思います。

人の思考の8割は「ネガティブ」なもの

2005 年、国立科学財団は、平均的な人は 1 日に 12,000 ~ 60,000 回の思考を行っていることを示す記事を発表しました。そのうち 80% はネガティブな思考であり、95% は前日とまったく同じ反復思考です。
In 2005, the National Science Foundation published an article showing that the average person has between 12,000 and 60,000 thoughts per day. Of those, 80% are negative and 95% are exactly the same repetitive thoughts as the day before.
To Have What You Want, You Must Give-Up What’s Holding You Backより抜粋、2018年9月 Mission.org掲載

驚くべきことに、人の思考の8割がネガティブなものであり、9割以上が前日と同じ内容の繰り返しだというのです。

いつも笑顔で幸せそうに見える「あの人」にも、成功者と呼ばれる「あの人」にも、ベテランコーチにもネガティブ感情は存在するのです。では、多くの人ができれば避けたいと思うネガティブ感情は、どうして存在するのでしょうか?

ネガティブ感情の肯定的な役割

ネガティブ感情の肯定的な役割

人間のネガティブな感情は、人間が生き残るために必要であった重要な感情だと考えられています。

例えば、「怒り」の感情は、自分の身体や心を守るための「防衛感情」とも言われており、大切なものを守るためのエネルギーとなります。

また、「不安」な感情は、危険を察知しているからこそ起こります。これにより、リスクを避けるために事前の心構えとして、準備をしたり、慎重な行動をとることができるようになります。

上記の他、「嫉妬」は自己改善へと駆り立てる強い動機づけになり、「恥ずかしさ」や「罪悪感」は融和の精神を育て、協力を促すことにつながると言われています。ある研究によると、ネガティブな感情には、より「粘り強くなる」、「記憶力が向上する」、「丁重さと礼儀正しさが増す」などの、効用もあることが分かったそうです。

あなたは人間であり、あらゆることを感じることができるようになっているのです。充実した人間らしい人生を送るためには、人間の感情を完全に経験する必要があります。ポジティブなこともネガティブなことも、良いことも悪いことも、厳しいように聞こえるかもしれませんが両方です。悪い感情を感じなければ、良い感情も半分くらいしか感じられないでしょう。あらゆる種類の感情を感じることは、あなたが完全に生きていて、何が起こっているのかを気にかけていることの証なのです。

You are human, and you are meant to feel everything. In order to live a full, human life, you need the full experience of human emotions. Both the positive and the negative, both the good and the bad, as tough as that may sound. Without the bad, the good wouldn’t feel half as good as it does. Feeling all kinds of emotions shows that you are fully alive and that you care about what’s going on.  
The Positive Role of Negative Emotions(ネガティブな感情のポジティブな役割) より抜粋、2022年11月Psychology Today掲載 

もちろん、ネガティブ感情のデメリットもあります。

例えば、コントロールできない程の「怒りの感情」により、人間関係を悪化させてしまう。また、ネガティブ感情を抱え続けることが、ストレスになり、鬱や体調不良をひき起こす可能性もあります。

ネガティブ感情は誰にでもある感情だから、人の思考の8割はネガティブだから、諦めて放置すれば良いのかと言えば、決してそうでありません。 

ネガティブ感情と共に進む

ネガティブ感情と共に進む

感情の敏捷性(エモーショナル・アジリティ)を提唱した心理学者、スーザン・デイビット博士は、ネガティブな感情との付き合い方について、「EA ハーバード流こころのマネジメント―予測不能の人生を思い通りに生きる方法」の中で「4つのステップ」を紹介しています。ここでは、簡単な紹介となりますが、より理解を深めるためには、是非書籍でも確認して頂きたいと思います。

ステップ1「向き合う」・・・自分の考えや感情、行動に対して、好奇心と優しさをもって積極的に向き合う。

ステップ2「距離を置く」・・・自分の考えと感情に向き合ったら、次は少し離れて観察し、それらをありのままの姿で受け止める~ただの考えや感情として。(中略)一歩離れて広い視野をもつことは、いわば自分を多様な可能性に満ちたチェス盤ととらえるようなものだ。盤の上で決められた動きしかできない一つの駒として見るのではなく。

ステップ3「理由を考えながら歩む」・・・感情とそれを抱く自分の間に空間をつくると、長期的な視点での自分の価値観や大きな目標といった本当に大切なことに集中できるようになる。そして、目的地に到達するために、それらの感情をどうとらえるのか、新たなアプローチがあるのか、などの新しい視点を得ながら歩んでいきます。

ステップ4「前進する」・・・自分を変えるために崇高な目標に向かい大きな変化を試みるよりも、もっと日常的な小さなことを工夫して、毎日少しでもいいから成長を続けることにシフトする。新しいことや難しいことに挑戦してつまずくのは素晴らしいことであり、生涯にわたって挑戦と成長の感覚をもち続けることが、扱いづらいネガティブ感情を、エネルギーや独創性、洞察力の源泉に変えられるように。

ネガティブ感情との良好な関係づくりは一夜にしてできるものではありません。

コーチが、日頃から自分自身のネガティブ感情に気づき、向き合い、共に前進していくことを体現してこそ、コーチングセッション中に起こるコーチ自身のネガティブ感情にも対処し、活かしていくことができるようになるのではないでしょうか。

セルフアウェアネスをコーチングに活かす

セルフアウェアネスをコーチングに活かす

下記は、国際コーチング連盟(ICF)が定めるコア・コンピテンシー(核となる能力要件)の一部です。

自身の認識と直観を活用してクライアントに恩恵をもたらしている
Uses awareness of self and one’s intuition to benefit clients

感情を整える能力を開発し、維持している
Develops and maintains the ability to regulate one’s emotions

セッションに備え、精神的及び感情的な準備をしている
Mentally and emotionally prepares for sessions

ICFコア・コンピテンシーは、ICF本部会員と非会員の両方を含む世界中の1,300人以上のコーチから収集されたエビデンスに基づいてつくられており、今日のコーチング専門職で使用されているスキルとアプローチについての理解を深めるために開発されたものです。

コア・コンピテンシーは、コーチとして満たすべき軸であり、どれも等しく重要で、優劣はないと説明がされています。

上記に抜粋した「認識と直観を活用してクライアントに恩恵をもたらす」、「感情を整える能力を開発する」、「精神的及び感情的な準備をする」を実践するために、土台となるスキルは、言うまでもなく自己認識の力、セルフアウェアネスだと考えます。

自己認識の解像度が高く、今のこの瞬間の感情を細やかなレベルで客観的に言語化できればできるほど、偶発的ではなく再現性があり、意図的に感情を整え、直観を活用できるのではないでしょうか。

言葉にすれば簡単ですが、これは容易にできるものではなく、生涯に渡って探求していくテーマかもしれません。また、目に見えないスキルだからこそ、開発するためには意識的に取り組む必要もあります。そこで、いくつかの視点で、セルフアウェアネスの鍛え方、そして、活かし方について探ってみたいと思います。

自己認識(セルフアウェアネス)を日常的に鍛えておく

自己認識(セルフアウェアネス)を日常的に鍛えておく

 セルフアウェアネスの鍛え方ついては、吉田典生(MBCC®創設者・CEO)のコラム「メタスキルとしての自己認識(セルフ・アウェアネス)」 の中で5つの方法(①フィードバックを受ける、②リフレクション、③継続的に学ぶ姿勢、④マインドフルネスの実践、⑤アセスメントを受ける)が紹介されています。他にも、自己認識(セルフアウェアネス)をキーワードにする書籍も沢山あり、知識としてのインプットは、様々な方法で可能です。

それよりも、セルフアウェアネスを開発していくうえでの難しさは、「継続的に日常生活を通して鍛えていくこと」ではないでしょうか。毎日のようにフィードバックを受けたり、瞑想を通してマインドフルネスの実践ができる人は少ないはずです。それらの時間ももちろん大切ですが、コーチがコーチングセッション中に「自身の認識と直観を活用」するための練習場所がどこかと言えば、その多くは日常的な場面の中です。

逆に言えば、プライベートやビジネスシーンでのコミュニケーションにおいて、日常的に①~⑤を実践していれば、あえてコーチングセッションの為だけに準備をする必要もなくなるメタスキルだとも言えます。

深い経験から培われる直観

「直観」は魔法ではない!誰もが持つ力

「直観」(intuition)は西洋哲学においては、単なる思いつきとしての「閃き」とは区別する見方があります。十分に経験を積んだ領域で、血肉となった知識や論理的な推論を介さずに直接ふっと湧いてきます。

たとえば将棋で名人クラスの棋士が、どこからあんな打ち手が出てくるのだろうと周囲を驚かせるような場面。そこには本質を即座にとらえる直観が働いているという研究もあります。コーチングにおいても、そんな直観の活用を通して可能性が拡がります。

これに対し、「直感(inspiration)」は、単なる閃きであり論理的には説明がつかないものですので、混同しないよう補足しておきます。

脳科学的な研究においても、「直観」は大脳皮質の活動(思考や推理、運動の指令など)であり、「直感」は大脳基底核の活動(運動の制御など)であると区別されています。

クライアントの話を聴いているコーチが「それ、違わないか?」と感じたとします。その時、コーチが自身に起きている反応に気づくことでニュートラルに戻るきっかけがつかめます。反対に「それ、違わないか?」という感覚に対する明晰さが足りないと、違和感を客体化せずにクライアントと関わり続けることになります。
2つの可能性を想像してみると、その後の会話の流れは大きく変わってくるのでは・・・ 吉田典生、MBCC®CEO

自分の内側(経験・知識・価値観など)が整理され、さらに統合されて言語化できる程、直観力を上手くアウトプットし、リソースとして使うことができます。また、経験や知識などが幅広い方がプラスになることも多く、好奇心を持ち続け、自分の世界を広げていくことも大切な要素です。

「質問」や「フィードバック」の質と明瞭さが高まる

「質問」や「フィードバック」の質と明瞭さが高まる

エグゼクティブ・コーチであり、20年にわたりアジアをはじめ世界中の非営利団体や個人を指導してきたトレーナーでもあるダニエル・アイトス氏(PCC)は、クライアントのエモーショナル・インテリジェンス・ソフトスキルのギャップを埋め、影響力のある領域でトップに立てるよう支援することに情熱を注いでいます。ICF(国際コーチング連盟)のHPに掲載された彼のコラムThe Emotionally Attuned Coach(感情的に調和したコーチ) の一部を下記に抜粋します。

(記事冒頭)コーチとして、私たちは機械ではありません。私は、人工知能 (AI) が、コーチングというパートナーシップを通じて、ある人間が他の人間と関わる力を超えることはできないと信じています。しかし、コーチングにおいて人間としての姿勢を示すには、自分の感情、思考、直観に対する認識が継続的に成長する必要があります。私たちは常に学ばなければなりません。
(中略)私たちが自分自身の感情的な認識を明確にすることができれば、この強力で重要なデータをクライアントに利益をもたらすために使用できるようになります。感情的なデータを精査することで思考が研ぎ澄まされ、自分自身をコントロールし続けることができます。
(記事末尾) “知識は学ぶ人によって創造されるものであり、教師によって与えられるものではない” という、ことわざがあります。私たちのコーチングを受けるクライアントは、何かを学び、再発見し、解き明かそうと取り組んでおり、そのためには、それについて考え、自分のやり方を「感じる」ことが必要です。コーチとして、私たちは彼らがまだ知らないことを教えるのではなく、多くの場合、彼らが思い出したいこと、思い出す必要のあることを思い出させるための相談台を提供しています。 セッション全体を通して、私たち自身が感情やメンタルを調整することで、クライアントに送り返す音の質と明瞭さが向上するのです。
The Emotionally Attuned Coach(感情的に調和したコーチ) より抜粋

コーチやコーチングを学んだ方であれば、「感情を整える能力」や「セルフアウェアネス」、「直観を活用」する能力は既に必ず持っています。ゼロから開発するわけではありません。しかし、コーチであれば、現状に甘んじることなく、好奇心を持って継続的に自分の内側を整え、開発し、再現性を持って直観をリソースとして使うスキルを高めていこうとする姿勢こそが、忘れてはならないビギナーズマインドの一つなのではないでしょうか。

MBCCリサーチ担当 今村佳未

 

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