ゲスト:鶴見樹里氏(エグゼクティブコーチ、EMCC日本アンバサダー)ホスト:吉田典生(MBCCファウンダー)

倫理は道徳とどう違うのか。道徳的な人は倫理的と言える? 法律を守っていたら倫理を遵守していることになる?

そんな投げかけからセミナーを始めました。

今回のゲストは、EMCC(欧州メンタリング&コーチング評議会)の日本アンバサダーで、アジア太平洋地域の社会的責任への取り組みリードを務める鶴見樹里さん。

21年間、英国で弁護士として活動した後、日本で企業経営、現在はエグゼクティブコーチ、チームコーチとして活動されています。

かねてから私が気になっていたのは、日本におけるコーチング教育(学習)における倫理(Ethics)が、スキルの添え物のようになっていないか?ということでした。

倫理規定の書面に書いてあることを読んで翻訳された意味を理解し、頭に入れておく。それで事足りていると思っていたら、これは大きな間違いです。本セミナーでは、倫理とは何かという“そもそも論”から議論をスタートしました。

道徳との違い、法律との違い、社会や地域における慣習との違い・・・。

それらは相互に影響を及ぼしあいながらも、異なる源泉、異なる拘束性をもっています。

とりわけ個々人の内面に根差している道徳観と、専門領域ごとに理性的に構築されている倫理の違い、両者の位置関係を見つめ直すことは、コーチングにおける倫理的な実践を考える有意義な出発点となりました。

世界的にみるとコーチング教育者や研究者、実践者の間で、倫理を再考しアップデートすることへの関心が高まっています。もともとこれが今回の連続セミナー企画の背景にもあるわけですが、では、なぜ今コーチングの倫理が注目されているのか。

私たちは3つの観点から、倫理とコーチング実践の間にある緊張関係を提示して議論を進めました。

AIとデジタル変容:コーチングの分野にも生成AIが浸透しつつあります。クライアントやその他ステークホルダーの機密保護、AIコーチによる予期せぬ誘のリスクなど、この問題は多方面から議論する必要があります。

グローバル化と脱植民地化:西洋の文化から体系化されてきたプロフェッショナルコーチングは、社会的背景が大きく異なる多様な文化圏においても整合的なのか。コーチングが世界全体に広がってきた今、それが強く問われています。個人主義に依拠する社会でのコーチとクライアントの関係構築と、集団主義の色彩が強い社会における関係構築。その違いに対する繊細さを持たずに「コーチングの普遍性」を信じることのリスク。いま私たちは世界を覆う地政学的なリスクもふまえて、この専門職を取り巻く世界の複雑性に向き合う必要があります。

産業化・商業化:コーチングの市場拡大は、コーチングに期待する成果の幅を広げています。たとえばメンタルヘルスに関わるテーマへの需要も増えており、セラピーやカウンセリングとの境界線が曖昧になる可能性があります。またビジネス機会の拡大は競争激化と表裏一体なので、過度な商業主義による誇大広告などの危惧も増しているといえるでしょう。

本セミナーの後半では、ICFのcode of ethicsとEMCCなど12団体が共有するGCoE(グローバル倫理規定)の構成や書きぶりを比較しながら、それぞれが何を伝えているのか、力点の置き方はどう違い、何が共通しているのかを議論しました。

もっとも分かりやすい違いは、ICFの倫理規定が対象者(ICFプロフェッショナル)との契約事項になっているのに対し、GCoEは署名団体および団体内の対象者に向けた倫理的な在り方と実践のガイダンスになっていることです。

ICFは提示することを「するべき」「してはいけない」といった規範で明示するトーンが明確で、行動を揃えていくことに重きを置いているようにもみえます。

一方のGCoEは、そもそも倫理とは何であり、どこから来ているものなのかという源泉に目を向け、規定への署名者たちが探求し続ける成熟化への過程を重視しているようにもみえます。

しかしこれらは二項対立的にとらえるものではなく、専門職や業界としての健全性や今後の発展に向けた、相互に補い合えるアプローチでもあろうと私は受け取っています。

セミナーの最後に小グループでのディスカッションを行い、それぞれの気づきやこれからの実践に活かしたいことを共有しました。

また本セミナーとは別に、コーチング倫理フォーラムにおける各国・地域別の倫理学習サークルの立ち上げについてご案内しました。

日本語で深く実践的にコーチングの倫理について語り合う画期的な場にしていきたいと思っています。ぜひみなさんのご参加をお待ちしています。

詳細はこちら

そもそも倫理とは、コーチングの倫理とは、なぜいま倫理を問うのか。

外すことのできない前提を押さえたところで、4月24日の第2回のセミナーに進みます。

これからご参加を希望する方は、第1回のアーカイブを含めて購入可能です。ぜひ、プロフェッショナルコーチングやメンター、スーパーバイザーの倫理的な実践の教育をリードするWendy-Ann Smith氏を迎えたセミナーへのご参加をお待ちしています。

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