Mindfulness Based Coach Camp 典生人語

バックキャストには覚悟がいる

吉田典生 投稿者:吉田典生 カテゴリー:典生人語

バックキャストには覚悟がいる

1960年代のうちに人類を月に送る。JFKが宣言したとき、周囲は冷ややかでした。誰もそんなことが実現するとは思っていなかったようです。

しかし1969720日、ニール・アームストロングとバズ・オルドリンが月面に降りたのはご承知のとおり。

バックキャストとフォアキャスト

ゴールを決めて、そこに到達するための方法やスモールステップを逆算する。これがバックキャストの発想です。これに対して、目の前にある課題を一つひとつクリアしていくのがフォアキャスト。こちらは積み上げ型の思考で、パーパス(究極の目的)やビジョン(究極の目的に沿った大きなゴール)より、積み上げたところにある現実的な目標に焦点を当てます。

SDGsの17のゴールも、バックキャストの発想にもとづいています。バックキャストで描くゴールとは、そこに到達した後、組織や社会が以前とは全く違う様相になっているような、変容をもたらすゴールです。

バックキャストとは?到達ゴールを設定する

ゴールを設定するバックキャスト

身近なビジネスの事例にもバックキャストは活かされています。たとえばトヨタのハイブリッドカーとして開発された初代プリウスは、1997年に国内外で発売を開始しました。

そのきっかけは当時の奥田社長が「97年にハイブリッド専用の量産車を発売する」と号令をかけたことです。当初、トヨタのエンジニア陣は不可能、必要ない、という反応だったそう。

しかし今となってみれば、自動車の電動化を促す変容が、ここから始まったと言えるのではないでしょうか。

バックキャストの前提は、「そのゴールに到達するために、すべてのリソースを注ぎ込む」ことです。できそうにないから帳尻合わせで目標を下げる、といったことは許されません。できることに合わせて目標を立てるのがフォアキャストなら、やるべきことに合わせて方法を見つけ出すのがバックキャストです。

どちらが良い悪いではなく、いま組織において、社会において、あるいは国として、直面する課題に対して、どちらの発想が妥当かを判断することが重要。バックキャストとフォアキャストでは、リーダーの選び方、組織の作り方、リソースの揃え方がまったく違ってきます。

その意味では、SDGsの学習デザインに携わっている私自身、企業や社会でのSDGsへの取り組みにおいて、まだそこが十分に理解されていないと感じています。

バックキャストに必要な覚悟

5年先、10年先、もっと先のことだけがバックキャストの対象になるわけではありません。日本の総理大臣が「1日に100万件のワクチン接種」を実現し、7月末までに高齢者の接種を終えることを目標に掲げていますね。

複数の医療関係者の声を聞くかぎり、これは医療提供の仕組みや法体系、さらには既得権にも大きなメスを入れないと、達成は困難な高いゴール設定のようです。既に露呈している予約のトラブル解消、現場での液剤注入や受付のオペレーションの円滑化にも、スキルとチームワーク、人的リソースの大量投入が不可欠です。

1日に100万件」は、バックキャストだと思います。

ふだん私と比較的に意見の合う某テレビ番組のコメンテーターが、首相が高いゴールを掲げたことを評価していました(ふだん、この人は私と同じように首相に批判的です)。しかしこのことについて、私は違う意見をもっています。

バックキャストには覚悟がいります。それを実現させるためには、それ以外の多くのことを諦め、一つのことに力を結集させなければなりません。これまで続いている他の施策を取りやめ、プロジェクトを停止し、予算を組み替え、適材適所で人事を練り直し、場合によっては抵抗勢力を一掃しなくてはなりません。

このようなアクションなしに成功したバックキャストは、おそらくないだろうと思います。

首相の掲げる「1日100万件」に、その覚悟があるようには見えません。ならば単なる絵にかいた餅で、現場は理想のゴールどころか、へたをすると目の前の目標すら見誤ってしまうかもしれません。

コーチングで明らかにする「ゴール」と「現在地」、その「ギャップ」

バックキャストかフォアキャストかにかかわらず、コーチングでは「ゴール」と「現在地」を精査し、その間にあるギャップを徹底的に見える化します。ここがゆるいと、効果的な行動戦略を導き出すことはできません。

1日に100万件は極めて難しい」と現場は知っているはずなのに、意思決定者には現実が届いていないようです。人の話を聴かない、一人で決めてしまう・・・。企業が迷走してダメになっていくときと同じ構図を、国民として、このまま放置しているわけにはいかないと思うのですが。

2021.5.22

MBCCファウンダー 吉田典生