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コーチングが気候変動に対してできること ~マーケッターが教える「気候変動を効果的に伝える3つの戦略」より~

今村佳未 投稿者:今村佳未 カテゴリー:コラムコーチング

マーケティングのノウハウを気候変動の問題に活用する、John Marshal(ジョン・マーシャル氏)Ted Talk気候変動を効果的に伝える3つの戦略は、複雑な気候変動の問題を、たちまち“自分事”にしてしまいます。まるでマジックのように、気候変動が私の問題に変わるのです。

 その話を聴いていたら、コーチングのスキルも活用できるという勇気が湧いてきました。

今回はそんなお話です。

 では、そもそも気候変動とは・・・。まず簡単に背景を押さえておきましょう。

地球の危機 – 今どうなっているの?

大気汚染

地球温暖化は、二酸化炭素やメタンなど温室効果ガスの排出量の増加が主要因であり、それが気候変動をもたらしています。国連IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、地球温暖化の原因は人間の活動であることを初めて断定した報告書を昨年公表しています。

さらに温暖化は、従来の科学者の予測を大きく上回る勢いで進んでいます。このまま何も施策を打たなければ、温室効果ガスの排出が加速します。そして2100年の平均気温は、産業革命前に比べ2.6℃~4.8℃上昇すると予想されています。

この気温上昇は、人類の生存を脅かす壊滅的な影響をもたらします。そこで2015年、産業革命前に比べ平均気温の「2℃上昇を十分に下回り、できるかぎり1.5℃に抑えることに努力する」という、パリ協定が締結されました。これが現在の温暖化対策のベースとなっています。
2050年に世界全体で温室効果ガスの排出量をネットゼロ(排出と吸収を相殺してゼロ)にすることで、66%の確率で1.5℃上昇にとどめられると想定されています。しかし平均気温の上昇は、累積排出量(長期間にわたり大気中や海中などに留まった温室効果ガスの量)に比例するため、2030年に2010年比で45%削減が必須とされています。
これらの数字から、人類は極めて危機的な状況に置かれていることは一目瞭然です。

コーチングを気候問題に適用するためのヒント

MBCCでは、コーチやリーダーとして気候変動を学び、どう行動にうつしていけるかを探るCoaching for Climate Crisis を来月(2022年2月)よりスタートします。

完全な答えが無い人類の課題である気候候変動に「私」がどう関わっていけるかを、様々な立場から一緒に探り、この時代に必要なアップデートされた行動を見つけ出していきます。

これからご紹介するJohn Marshall(ジョン・マーシャル)氏の気候変動を効果的に伝える3つの戦略は、難しい問題を分かりやすい言葉で伝えることに重きを置いています。伝えることで本当に伝えたいことが「伝わる」ようになる。

これはリーダーシップの影響力そのもので、プロフェッショナルコーチにとっても重要なスキル。そしてコーチングを通して、クライアントの対人関係やマネジメントを支援する際のテーマになることも多いです。

では、コーチングと気候変動を結びつけてくれる「伝え方3つのコツ」に入りましょう

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伝える相手の気持ちを考える~効果的なポイント3つ

気候危機は人類史上最大の脅威の一つであるのにも関わらず、まだ十分な行動を起こすまで人々の関心が高まっているとはいえません。

では、どのようにアプローチしたら多くの人々が本気になり、行動を引き出すことができるのか。マーシャル氏は、「優先すべきことは『問題の説明』ではなく『情報を受けとめる人の気持ち』を考えること」だと強調します。

マーケティングの専門家であるマーシャル氏は、気候変動をより多くの人に理解し関心を持ってもらうために、コンセプトやメッセージ、イメージや用語を考え抜き、何百万の人にテストを実施しました。ここがマーケッターたる所以ですね。

そして、その結果から効果的なポイントをシンプルに3つにまとめています。

ポイント1:誰にも理解できる“ふつうの言葉”を使う

気候変動の問題に通じていない人には、例えばカーボンニュートラル、ネットゼロといった専門用語を使っても深刻に聞こえません。人に届く言葉は、それを聞いて何が思い浮かぶのか、直感的にイメージができて理解しやすい言葉ほど、メッセージが腹落ちし、関心が持てるようになります。

マーシャル氏が難しい英語の説明を平易な英語に置き換えているように、私たちが気候変動を分かりやすく日本語で話すとしたら、こんな説明はいかがでしょうか?

温暖化イメージ

「夏の暑い夜、冬用の布団をかけて寝たら、暑すぎて寝られないですよね。それなのに、布団を更に重ね、2枚・3枚と増えていったら・・・寝ている人は体温が上がり続け、そのままでは熱中症になってしまいます。実は、地球も同じ状況で熱中症にかかり始めているのです。

熱中症は、軽度のうちに適切な対応をすれば症状は改善しますが、放置し重度になると命を落とすケースもある大変怖い症状です。

地球がどんどんと厚い布団に覆われると、太陽で暖められた地球の熱が宇宙に逃げることができなくなり、地球の気温がどんどんと上がっていきます。気温が上がるのを止めるには、地球のまわりの布団を適切な厚さにする必要があります。

実際には、この布団と同じ役割をしているのが温室効果ガスで、CO₂(二酸化炭素)が代表的なガスです。大気中に増えすぎたCO₂を減らさない限り、地球の熱中症を改善する方法はありません。」

ポイント2:自分の生活に及ぶ問題を話す

効果的なメッセージには、気候変動が他人事ではないことを伝える力があります。
「将来ではなく、今の生活のために」
「世界ではなく、私達の地域社会のために」
「必ずしも環境保護ではなく、自分の価値観のために」
「人類の末裔ではなく、我が子のために」

実例その1:フロリダで次の①②のメッセージを数千人に提示したところ、その反応に大きな差が出た。
① 「気候変動を止めるため、ゼロエミッションを実現しよう」
② 「うちの浸水を止めてください!」
結果は、②の方が4倍以上、興味を惹きました。目の前の浸水被害は、地球温暖化問題よりずっと差し迫った問題なのです。

実例その2:「優秀な女性気候科学者に気候変動について質問すれば、科学的な質問には何でも答えてくれるでしょう。しかし、あえて研究を続ける理由を尋ねてみると、娘や息子のことを語ってくれました。我が子のために世界を安全で健康で楽しいものにしたいと答えたのです。

他の親御さん達にこの話をしたところ、世界各地の気温のグラフを見ていたときよりも、気候変動についてずっと真剣に考え始めるようになりました。子供達のためにより良い世界を作ろうと人生をかけている親の姿を見れば、どの親も共感できるのでしょう。私(マーシャル氏)も同感です。」

ポイント3:自分と同じような人が真剣になっている問題だと示す

殆どの人は自分が環境保護主義者だとは考えていず、気候変動は「主義者」だけの問題だと思っています。しかし、人間は社会的動物のため、その「考え方」には属する社会が影響してきます。自分と共通項のある人から発生られるメッセージはより身近に感じられ、なまりや出身が似ている人から発せられたものは、効果が10倍以上にもなるそうです。

「人々に対して説明するのではなく、人々を問題に引き込むことが重要です」

思いがけず上手く伝えた実例“フロリダマン”

地球の環境

北フロリダに住む彼は、ワニを連れてビールを買いにコンビニに行くという小さな違法行為を起こしました。気候変動の問題を伝える意図はなかったようですが、ネット広告に登場して自分なりのやり方で自分の生活に関する気候変動への不安を話すと、フロリダの保守的な若い男性の間で気候変動への関心が急増しました。

もしも、あなたが“フロリダマン”になるならば、たとえばコーチングが得意とする「視点を変える質問」も活かせるでしょう。

「もしも、超大型台風によりあなたの住む家が一夜にして無くなってしまったら?」
「もしも、北極海の氷河が溶けつづけ、あなたの故郷が海に沈んでしまったら?」
「もしも、あなたの子供達が、酷い水不足で毎日の飲み水に困ってしまったら?」

想像するだけでぞっとするような自然災害が、気候変動により起こるかもしれないと言われています。
既に多くの国や企業、団体で気候変動への対策を始めていますが、それが私自身の問題になり、私自身の目標になり、私自身に行動になってこそ、はじめて本当の力が現れます。

世界中の組織で、組織の問題に対して一人一人が取り組む力を引き出すのに、コーチングが活用されています。地球を一つの組織として、私たち全員がその構成員だと考えれば、気候変動についても同じことが言えます。

コーチングのインパクトを高める

人々の団結

2020年、MBCCが加盟する国際コーチング連盟(ICF)は、他の国際的なコーチング、メンタリング、コーチング心理学、スーパービジョンに関する10の専門機関とともに、気候変動問題に対処するための共同声明を発表しました。

その序文には次のような一節があります。

コーチング、メンタリング、コーチング心理学、スーパービジョンは、人間の可能性を開発し、自分の行動に責任を持ち、自分の貢献に責任を持てるよう意識を育むことに関連している。

もとよりコーチングは、ただ単に特定の課題を解決し、目標を達成することを支援する仕事ではないことが、このメッセージから読み取れます。

人類共通の危機を、一部の科学者や国、環境保護主義者だけに頼っていては手遅れになってしまうでしょう。いち早く、より多くの人が自分事として関心を持ち行動を変えていく為に、今こそコーチングの価値が問われようとしています。

【補足】

ジョン・マーシャル氏は、もともとマーケティング業界で活躍していましたが、現在は培ったマーケティングスキルを気候変動に対処するために使用することに多くの時間を捧げています。

「私の仕事は気候変動を皆に理解してもらうことです」と話すマーシャル氏は、米国を代表するクリエイティブ、分析、メディアの各機関を結集して気候変動に関する会話を変える、非営利団体Potential Energy Coalitionの創設者兼CEOです。

MBCCリサーチ担当 今村佳未