米国に本部があるICF(国際コーチング連盟)より3年早く設立されたメンタリング&コーチング評議会(※1992年設立、本部は英国、登記地はベルギー)が、現在のEMCC(欧州メンタリング&コーチング評議会)のルーツです。
まさに”名は体を表す”で、EMCCの”M”にあたる”メンタリング”が団体の特徴を表しています。私は当初、メンタリングに携わる人とコーチが共に参加している団体なのだと理解していました。しかし実は、そう単純なものではないことがわかってきました。
今回はコーチングとメンタリングの線引きに関する2つの団体の違い、ひいては米国が牽引してきたコーチングと、欧州で影響力をもつコーチングの微妙な違いを取り上げます。これはコーチングの発展経緯を理解するうえでも、またこれからのコーチングを展望するうえでも、とても大切な論点になると考えます。
コーチングとメンタリングの比較
欧米の違いを論じる前に、まずはコーチング教育において押さえておくべき双方(コーチング、メンタリング)の類似点と相違点をみましょう。とはいえ見解が完全に定まっているものではないので、ここではEMCC創設メンバーでもあるProf.David Clutterbuckのコラム(What is the difference between coaching and mentoring?) からの引用をもとに、私が一部わかりにくいところを注釈付きで紹介します。(注~が私の補足)
共通点
〇クライアントの思考の質に焦点を当てる(注:主体的に考え、気づきを促進することを重視)
〇コーチ(メンター)の経験を活かしながら効果的な問いをつくりだす(注:Clutterbuck氏はコーチングにおいてもコーチ固有の経験をリソースとして活用することを是としている)
〇助言は必要な状況においてのみ行う(注:ここでもClutterbuck氏は、コーチからの助言を否定しない。むしろ「コーチングでは助言を絶対にしてはいけない」という過度に厳格な姿勢は、クライアントの不満につながると述べている)
〇クライアントの真の学習の多くは、セッションの間やセッション後、時間をかけた本人のふりかえりから起きる。
相違点
〇メンターはメンティーに対して人の紹介やネットワーク構築を支援してくれる可能性が高い。またメンティーが所属する組織や職業に関する政治性について説明してくれる傾向がある。(注:同じ分野で経験を積んだメンターならばこその人的な手助けや社内事情についてのガイドなどが期待できる、というニュアンスだと思われる)
〇職場におけるラインマネージャーと部下の関係におけるコーチは、よりフィードバックを行う傾向がある(注:日常業務と距離を置いたところに立つメンターよりも、”ラインマネージャーとしての”コーチは業務上の成長に直結する支援を行う)
〇コーチングは特定分野でのパフォーマンスに焦点を当てた短期、または中期の支援であることが多い。
〇メンタリングはコーチングよりも包括的で明確に定義されていない課題に取り組む中長期的な支援であることが多い。
〇コーチングは有料契約となることが多い。(注:それに対してメンタリングは個人的なつながりから提供されることが多い、というニュアンスを含んでいると思われる)
別のコインか、一つのコインの裏表か
米国発のコーチングを”Now this is coaching” と考えている人は、これらの区別に少し違和感をもつかもしれません。コーチも助言する? 曖昧なテーマを探求するコーチングもあると思うけど・・・。むしろメンターなら、もっと助言してもよいのでは? ラインマネージャー(直属の上司)が部下に行うものはコーチングではないでしょ・・・
米国発のICFが主導するコーチングの考え方からみると、ちょっとわかりにくいのです。その背景にあるのは、コーチングをどのようなものとして普及させようとしてきたかについての、欧米の違いがあると私は感じています。
ICFのコーチング教育の中核にあるコンピテンシーモデルは、プロフェッショナルコーチングのみを対象にしています。そしてメンターやスポーツインストラクター、ティーチャーなど社会で混同されがちな職種や役割との区別を強調しています。それによって一般用語としての「コーチ」や「コーチング」と切り離すことで専門職として位置づけ、社会的な信頼を確立することに取り組んできました。
ICFの定義するコーチングが類似する専門職とは別の一枚のコインだとすると、EMCCが定義するコーチングは、メンタリングと表裏一体。一枚のコインです。実際にコーチングとメンタリングのコンピテンシーは、一つのフレームワークにまとめられています。
コーチングとメンタリングがコインの裏表であるということは、コーチ(またはメンター)が、その役割を状況に応じて往来するような実践を意味しています。Clutterbuck氏は「コーチングとメンタリングの違いは固定的なものではなく、関係性と目的の成熟度によって動的に変化する」と語っています。
「上司は部下にコーチングできないのでは」という疑問も、マネジメント業務のなかに時としてコーチングの要素が入ってくるような流動性としてみれば理解できるのではないでしょうか。上司と部下の関係ではコーチングは成立しない(コーチングとは認められない)という米国発(ICF)の考え方は、コーチングを一枚のコインとして区別したものです。
未来のコーチングはどうなるか
前回も述べましたが、ここで優劣を評価するつもりはありません。それは不可能だし、意味のないことだと思っています。20数年この分野で仕事をしてきた立場から言うと、他の何ものでもない一枚のコインとしてコーチングが認知されることは、市場の確立、職業としての発展に重要どころか欠かせない要素だったと思います。
法的規制のない新しい職業が今後も発展していくためには、私たちは何者なのか、私たちが提供できるもの(また、できないもの)が何であるかを、はっきりと伝える姿勢と能力が必要です。その上でコーチングという専門性が、極めて文脈に依存する特性を持っていることも自覚しなくてはなりません。コーチングは区別化された専門性を大切にしなければ発展しないのと同時に、専門性を深めていくほど複雑で曖昧なプロセスに入っていきます。
その意味では、もしかすると米国発のコーチングと欧州発のコーチングもまた、コインの裏表としてコーチングの未来を形成しているのかもしれません。裏と表には間があります。日本家屋にみられる”間”が絶妙な空間を創り出すように、日本から未来のコーチングを生成していけたらいいなと思います。
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質の高いリフレクションを通して、コーチとしての成長と繁栄に向かう協働的なプロセス
コーチングの質を決定づける基礎を徹底習得する
