世界で一番怖いもの

Vol.156(2025年10月20日配信)

コーチングセッションの中で、コーチがクライアントの話を理解するために、(クライアントの話を明確にしていると信じている場合も含めて)クライアントには自明の事象を説明させてしまうことがあります。

このことをフィードバックすると「わからないと認めると無能だと思われそうで怖い」とお返事いただくことがあります。
その方のビジネスや日常環境、あるいはご本人にとっての評価軸として「相手の話を理解できるかどうかで有能・無能が判断される」ということが背景にあるのであれば、

  • コーチングではそのような評価軸はないこと
  • むしろ「知らないことに対しても、快適に対応している」というICF(国際コーチング連盟)のコア・コンピテンシーがあり、わからないことをわからないと認識して活用できる方がコーチとして有能であるかもしれないこと

を納得していただき、評価軸を増やしてもらえば解決すると考えていました。
ところが多くの場合、これが一向に解決しないのです。

わからないものをわからないままにしておくのは確かに勇気がいります。
解決したい欲求に抗う行為であり、ネガティブ・ケイパビリティ(不確実なものや未解決のものを受容する能力)が必要です。

そんなことを考えていた先日、全く別の場である先輩薬剤師が言ったのです。

「人は『よくわからないもの』が一番怖いんだよ」と。
「柳かお化けかわからないのは、お化けだってわかるより怖いんだよ。お化けだってわかれば対処できるから」と。

ある薬局相談事例の検討の場だったのですが、その先輩薬剤師は「考え得る最も大きなトラブルは何か」「その時どう対応するのか」「その対応は誰ができるか」等の質問を場に投げかけてディスカッションを行ったあと、「経験があり、対応方法を知っていて、それを実行できる人ばかりじゃないからね」と断ったうえで、上記の発言をしたのです。

・・・お化けに対処できるかはともかくとして。
「よくわからないものが怖い」のは、対処方法がわからない、自分の身に危害や損失が発生するかもしれないという恐怖でもあるんだな、ということを理解しました。

だからこそ、人は「よくわからないもの」に遭遇したとき、「わかる」の領域に持っていこうとしたり、無意識に防衛的に(時に攻撃的にすら)なったりするのかもしれません。
お化けと柳で言うなら、柳やお化けに必要以上の防衛をしてしまう状態ですね。

冒頭のコーチが理解できるまでクライアントに説明させてしまう問題に戻りましょう。
「わからない」を受け入れ、ネガティブ・ケイパビリティを鍛えることはもちろん一番大事です。
一方、「わからないことへの対処方法を持っておく」ことも、助けになるのかもしれない、と思いました。

もちろんそのためには、「今、自分が『わからない』状態である」ことに気づく必要がありますし、「わからないことへの怖さ」が自分にどんな影響を及ぼしているかに気づく必要があります。

やっぱり「知らないことに対しても、快適に対応している」というコア・コンピテンシーは奥が深いなと改めて感じた次第です。


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