Mindfulness Based Coach Camp 典生人語

コーチングを受けるのに適したタイミングとは

吉田典生 投稿者:吉田典生 カテゴリー:典生人語

コーチングを受けるのに適したタイミングとは

どんな分野であれ、「それを学びたい」という気持ちが学習を促進します。コーチングを受けるのも「コーチングが必要だ」と思ったときが好機。それは間違いないと思うけど、どういうときにコーチングが効果を発揮する可能性が高いかを知っておくことで、“いまがそのとき”と認識しやすくなるでしょう。

コーチングへの関心が決断に結びつくとき

多くのコーチやクライアントが言及していることや私の経験をふまえて、あなたがコーチングを受けるタイミングを測る目安をご紹介しようと思います。

その前にコーチ側にも知ってほしいことを先にお伝えします。コーチングというサービスは生活必需品ではありませんよね。ですからコーチングとはどういうものかを知っていても、多くの場合、すぐに人はコーチングを受けようとは思いません。

コーチングについて知っていて多少なりとも関心のある人が、これから述べていくような人生のタイミングにさしかかったときに、はじめてコーチを雇うことを考える可能性が出てきます。人は何らかのきっかけがあって従来からの関心と決断が結びつく。これを本質行動学で契機関心相関性といいます。

ではその契機となることの多い典型的なケースをみていきましょう。

コーチングを受ける契機
人生の行き詰まりを感じたとき

コーチングを受ける契機 人生の行き詰まりを感じたとき

仕事や家庭、人間関係、キャリア。充足感を持って生きていくための大切な何かの歯車が狂い、それまでの歩みが止まってしまった。停滞感が自分を覆い、打ち手がみつからない。

そういうときはコーチングを受けることが、新しい道を開いていくための有効な選択肢の一つになります。

それはコーチングを受けることを通して、次のような変化が期待できるからです。

(1)思考をほぐす

悩んでいるときはストレス値が高まります。それが常態化するとストレスホルモンの過剰な分泌によって、近視眼的で衝動的な思考や行動が誘発されやすくなります。コーチはあなたが一人でもがいているのとは異なる視点から、コーチングのプロセスを提供します。
木を見て森を見ず状態だったところに森全体を見渡す機会をもたらしたり、反対に木の根元や葉っぱ一枚にズームインしたり。あなたの思考のパターンを超えることで、凝り固まった思考がほぐれてきます。
これが人生に行き詰まりを感じたとき、コーチングを受けることで期待できる変化のひとつです。

(2)執着を手放す

しかしコーチングを受けることで、必ず思い描いていた成果につながるとはかぎりません。その目標が独りよがりな願望であることに気づくこともあるでしょう。また自分本来の持ち味を発揮できる道が他にあることに気づく場合もあります。
コーチングを受けるにあたって最初に口にした目標をコーチと一緒に吟味し、違う視点から眺めることによって、それを手放していくプロセスが大事な人生の節目になるかもしれません。これもまたコーチングを受けることで期待できる変化のひとつです。

(3)100%味方になってもらう

行き詰まりが辛くない人はいないでしょう。辛いことがわかるから、ふつう仲の良い人や家族、先輩や上司などは、何とかしてあげようという善意から助言やはげましをくれるかもしれません。
しかし大きく深い行き詰まりであるほど、答えにたどり着くのは容易ではないですよね。そんなとき、「〇〇より●●したほうがいい」、「そんなやり方ではダメだ、もっと△△したらどう?」といった評価や判断が先立つ助言は、ときとして苦痛になることもあります。また精神的に厳しい状況に陥ったとき「がんばって」と言われるのは辛いばかりか、深刻なダメージにつながる危険性もあります。
コーチングの関係性を結ぶためのコーチの前提に「100%の味方になる」ということがあります。それは単にコーチングを受ける相手を甘やかすことではなく、あるがままの姿を受容しながら伴走する姿勢です。それがあるからこそ覚悟を問うような質問や率直なフィードバックが力になるのです。

コーチングを受ける契機
トランジション(移行)の準備ができたとき

コーチングを受ける契機 トランジション(移行)の準備ができたとき

仕事や人生にはさまざまなステージがありますよね。たとえば親として、現場を担う営業マンとして、大きな組織の一員として、一つの技術を追求してきた専門家として・・・。
責任感をもって取り組んできたこと、大きなやりがいを持って進んできた道も、いつか節目がやってきます。あなたが所属する組織自体が大きな移行期間に入り、自ずとあなた自身もその渦の中に入っていくこともあります。

こういうときもコーチングを受ける契機となるでしょう。それは移行期にコーチが伴走してくれることで、次のような効果が期待できるからです。

(1)今までの自分を完了させる

人は慣れ親しんだ環境にとどまろうとします。これはパーソナリティがどうであるかといったレベルではなく、生物としての特性に根差した普遍的な事実です。体温を平熱に保つことで生命を維持しようとするように、今までうまく適応してきた世界が自分を守る安全圏だと脳が考えるからです。
これは非常に強力な心理的作用なので、いくら理屈では新たな挑戦をはじめなければならないと理解していても、身体がそのようには動きません。
このタイミングでやってはいけないことをコーチの立場から言うと、今までの足跡を批判し否定することです。~がダメだったからこんな結果になっている・・・だから~に向かって進まなければならない。こういうメッセージやこのような思考は、抵抗や防御反応を強めます。

このようなタイミングでコーチングを受けることの価値は、あなたの今までの足跡を十分に味わい、そこで何を得たのかを再認識することです。そして自分や組織の努力と成果を祝福することです。それによって力強く肯定的なピリオドを打つと、人はようやく次のステージに向けて身体と心と頭が一致してきます。
ひとりで整理整頓するのは大変な足跡を、コーチとともにふりかえってみる。完了形にすることで未来への動機が自ずと現われてくるのです。

(2)コントロールできることに焦点を合わせる

大きな課題に直面したとき、人は「できない」「できる」の二択で物事を判断しがちです。たとえば難しいミッションを与えられている、複雑に要素が絡まり合った状況で多くの判断をしなければならないときを想像してください。「そんなの無理だよ」「できないよ」と、つい言いたくなりませんか。
責任を背負った仕事や人生の当事者として、それは当然のこと。だからこそ客観的な目線をもって関わるコーチがいることで、もっと肩の力を抜いて現実的な思考を促進することができます。
もともとコーチングがはたす役割のひとつに、実効性の高い行動戦略を見出すことがあります。先行きの見通しが立てづらく新しい知識やスキルが十分に備わっていない移行期に、少なくとも自分にできること、ある程度は何とかなりそうなこと。それらを探り小さなステップを刻んでいくことをコーチは支援します。

(3)不安定な移行の旅に寄り添う

仕事でも私生活でもステージが大きく変わっていくときは、あらゆることが流動的です。いくらコーチングを受けているからといって、安心して移行期間を乗り越えて新しい世界にたどり着くことはないでしょう。
とてつもない移行におけるコーチの役割は、コーチングを受けるクライアントの不安を取り除くことではないと私は思います。それはできないといったほうが適切かもしれません。
しかし変化を受け入れて不安を受容することを応援することはできます。こういう時期は誰でも辛いのだ、それを乗り越えた先に未来が待っているのだ、だから一緒に乗り越えていこうという関係性を築くことはできます。そして挑戦に値する目的やビジョンを明確にしていきます。
それはコーチングの関係性の真骨頂、ほんとうの価値といえるような気もします。不安定な
移行期間は、コーチングを受ける絶好機だと思います。

コーチングを受ける契機
特定の行動を変えたいとき

コーチングを受ける契機 特定の行動を変えたいとき

わかってはいるのにやめられない、つい同じ言動を繰り返してしまうなど、これが私の問題だと気づいているのに解決できない。そんなジレンマが生じているときもコーチングを受ける好機です。

わかっているのだから後は自分でやるだけ、そういう場合はコーチングを受けるまでもないと思うかもしれません。しかしわかっているのに変えられないということは、ほんとうにわかっていると言えるのか? そこが問題であり、コーチングを受けることで何かが開けてくる可能性があります。

(1)無意識に“もっと”望んでいることに気づく

〇〇した方がいいと思っているのに、実際には正反対のことをしている。そんな経験はありませんか。
たとえば部下の話を十分に聴こうと思っているのに、気がつくと自分が一方的に話している。焦点をしぼって簡潔に説明しようと心がけているはずが、いつも話しすぎて相手を混乱させてしまう。

「わかっているのに違うことをしている」場合、無意識のレベルに潜んでいるニーズに突き動かされている可能性があります。これを扱っていくのはコーチングでもかなり熟練を要しますが、だからこそひとりで解決することが困難なのは言うまでもありません。
わかっていることの奥に何があるのかをコーチング受けながら探っていくことで、まったく気づいていなかった自分の思いが浮かび上がってくるかもしれません。

(2)新しい習慣づくり

前述したような深い領域に根差した問題でなくとも、定着しているふるまいは簡単には変わりません。それは考えなくてもできること、今までの経験則や価値観に従った行動なので、それを選択する限りあれこれ悩むことが少ないからです。こうして認知機能の働きを省力化させるほうを、人は好んで選択しています。
コーチングを受けることによってマラソンで伴走するようにコーチがつくと、スモールステップを刻みながら古い習慣を手放し、新しい習慣に取り組み、それを少しずつ定着させていくプロセスが実現します。
「わかった」⇒「やってみよう」⇒「やってみた」⇒「できた」から、「できた」の再現性を上げ、意識的にやって「できた」を無意識に「できた」に変え、それが当たり前になっていく。
このような新しい習慣づくりの旅もコーチングを受けることの大きな価値となります。

(3)“宣言する”力を活用する

先に述べた新しい習慣づくりの過程でも使えることとして、定期的に話をするコーチに対して宣言し、言ったことを実行するコミットメントを自ら強化します。よくコーチはそれを提案し、コーチングを受ける相手と一緒に適切な宣言を共有していきます。
一人だと言いっぱなしになることもあれば、高いハードルを掲げすぎて挫折することもあります。また反対に、あまりにも簡単なことでごまかす(その場合たいてい意味がないのでフェイドアウトする)こともあるでしょう。
適切な宣言というのは、じつは簡単なようでそうでもありません。だからコーチングを受けることの意味につながります。

コーチングを受ける契機
組織のトップになったとき

コーチングを受ける契機 組織のトップになったとき

グローバルでみると、コーチングを経済ベースで牽引しているのはエグゼクティブコーチングです。これは欧米で“C-Suite”(CEO、COO、CFOなど”C“のつくトップマネジメント層)と呼ばれる人を対象にしたコーチングを指すのが通常ですが(注:C-Suiteの一つ下の役までを称するなど明確に定まってはいません)、あえてここで取り上げたいのは組織の規模を問わず最終責任を負うトップになったときです。

私は30代後半までは編集記者として、それ以降はコーチとして、多くの経営者と関わってきました。そのなかで繰り返し多くの人から聞いたのは「トップとナンバー2ではまったく違う」という言葉です。「ナンバー2とナンバー3の違いより、ナンバー1とナンバー2の違いははるかに大きい」と、社長に就任して間もない経営者が語っていたことを記事にしたこともあります。

これらは大手企業の話ですが、コーチになってからは中小企業経営者やスタートアップの起業家とも深く関わってきました。極端な話、自営業者も組織(たとえ一人でも)のトップです。
最終責任を負う逃げ場がない立場であるのと同時に、本音で相談する相手が限られる、あるいは正直いなくなる、といったことが起きてきます。
エグゼクティブコーチング(エグゼクティブと称しようが称しまいが)の価値はそこで発揮されます。

(1) 孤独を支える

コーチがいるから孤独でなくなるわけではないと、私自身は思っています。コーチがいるから孤独を和らげられる、そこに大きな価値があると言うエグゼクティブコーチもいるかもしれませんが。
しかし私は経営者が孤独に向き合うこと、覚悟をきめること、辛い立場にあってそれでもこの仕事を続けることの意味を自覚することに価値があると思っています。
組織のトップはどこまでいっても孤独。それをごまかしてしまうと、知らないうちにイエスマンを集めてしまうこともあれば、リスクを避ける行動を“合理的に”選択してしまうこともあります。
コーチが孤独を支える存在として伴走することは、トップとしての生き方や在り方を問い続けることでもあると思います。

(2)厳しいフィードバック

ほとんどのトップが気づいていないことかもしれませんが、自分が思っている以上に周囲はトップの目を気にし、気遣っています。組織の文化や個々の関係性にもよりますが、多少トップの考えや行動に気になることがあっても、批判的なことは言いにくいものです。
組織が大きくなるほど、また組織の規模に関わらず権限が集中しているほど、批判は届きにくいと思ったほうがいいでしょう。あるいは社会的に賞賛されるような成果を出したことで、周囲がトップを特別視するようになることもあります。
こうした関係性が固定化していくと、トップの判断ミスやミスを誘発するような何らかのふるまいが黙認され、気づいたときには組織に歪みが生まれていることが多いです。
トップはそういうリスクを抱えていることを自覚し、それを行動に表すことの一環がコーチングを受けることである場合も多いです。多いといってもまだ日本ではそこまでポピュラーではないかもしれませんが、そのぶんリーダーシップのアップデートと組織活性化のチャンスがあるはずです。

(3) 弱みをリソースにする

エグゼクティブコーチングは最強の経営者をつくるものではなく、しなやかな経営者をつくるものだと私は思います。VUCAと言われる変動的で不確か、複雑で問題の所在さえ曖昧な世界において、的確な判断を一人で下しつづけられるトップはいないと思います。
しかし組織において社会において“成功”の階段を駆け上がってきた人の多くは、自分の失敗を受け入れ、弱みを開示することに恐れや不安を抱きます。
「自分にも答えがない」というのが本音だけど、それを部下に言ったら組織はどうなるのか・・・というのは当然の思いでしょう。
しかし自らの弱みを開示できるオープンマインドは、部下の信頼を得ることにプラスとなります。もちろん単に愚痴をこぼすとか、それを言ったらみんな戸惑うでしょうという内容を、あけすけと話すという意味ではありません。
あるがままの自分を認識して、得意とすること、不得意なことを十分に自覚して、自分の価値観や信念、周囲に与えている影響にも敏感になったうえで、自分も不完全な人間であることを伝える。そのためのセルフアウェアネスを研ぎ澄ませていくことや、それにもとづくセルフマネジメントの確立、相手と状況に合わせたコミュニケーション。これらがとても重要です。
じっくりコーチングを受けながら、弱みを効果的に伝えていく方法が見えてきます。これはメンバーひとりひとりの当事者意識にも働きかける非常に価値のあるプロセスです。

コーチングを受ける契機
コーチングは体験型の商品

コーチングを受ける契機 コーチングは体験型の商品

コーチングについての情報はいくらでも収集することができます。コーチングを受けるとなれば相応の支出があるわけですから、真剣に検討するのは当然でしょう。しかしどんなに情報を集めても、コーチングに自己投資する価値を実感するのは難しいです。なぜならコーチングは人と人の関係性から生成されてくるものだからです。

たとえば完全に聴いてもらうことや共感されることの力、自分で考えたことのなかった切り口の質問を受けたときの新鮮さ。まったく話そうと思っていなかったことに会話が進み、想定外の目標が見えてくる驚き。

そういったことはコーチングの説明を通して得られるものではなく、コーチングを体験することで得られるものです。
ここで述べてきたことはコーチングを受ける契機になりやすい典型例ですが、ほかにもさまざまな契機、コーチングを受けるチャンスといえるタイミングがあると思います。

興味はあるけれどどこから始めればよいかわからない、どこにコンタクトをとればいいかわからない、いきなり依頼するのは不安。怪しいところにつかまったら嫌だし。

当然ですよね。

MBCCでは国際コーチング連盟の倫理基準を徹底することを前提に、気軽にコーチングを体験していただける体制を整えています。
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さて次回は、コーチングを受けるのに適さないとき、コーチングを受けることのリスク、リスクを回避して成果を上げるために知っておいてほしいことなどを取り上げる予定です。

MBCCファウンダー 吉田典生