Mindfulness Based Coach Camp 典生人語

クライアントのリソースをみつける

吉田典生 投稿者:吉田典生 カテゴリー:典生人語

クライアントのリソースをみつける

「既にクライアントは完全な存在である」という前提

コーチングは可能性に焦点を当てた対話であり、未来志向の対話であると説明されることが多いです。この説明は若干簡略化されすぎだと思う面もありますが、こうした説明の背景には、1960年代に勃興した、カール・ロジャースやアブラハム・マズローを起点とする人間性心理学があります。まだ当時は定量的な研究は少なったのですが、現在のポジティブ心理学などにもつながるコーチングの学術的な一つの源流です。

可能性に目を向けていくということは、単に可能性を探すことではりません。コーチングの理念やスキル体系(たとえば質問のしかた)を紐解いていくと、「既にクライアントは完全な存在である」という前提に立っていることがわかります。

「答えはクライアントの中にある」・・・という古典的な(!?)コーチングのキャッチフレーズも、人の可能性と完全性に基づいた表現ですね。

では、目の前にある課題に対して知識やスキルが極めて少ない人をコーチする場合、このキャッチを当てはめることはできるのでしょうか。

クライアントの中にあるリソースを探す

引き継ぎが不十分なまま、工場見学者に対する説明役を任されたAさんを例に考えてみましょう。一週間後に初めての団体客を迎えることになっています。このままだと、しどろもどろの説明になってしまいそうで不安だらけ。なんとかやり遂げたいという意欲や責任感はあるけれど、この短期間で何をどう準備すればいいか戸惑っています。

このような状況にあるAさんは、どんなリソースをもっているでしょう。初心者に知識を伝授しながら管理していく指導者的な関わり方を前提にすると、Aさんのリソースは限りなく少ないと考える方が整合性がとれますね。これはAさんの状況に適した一つの関わり方でしょう。

しかし指導の効果性は、Aさんのマインドセットにも大きく左右されます。『楽しみ>不安』 なのか、『不安>楽しみ』なのか。前者であれば学習が促進されますが、指導方法によっては不安を増幅させてしまうかもしれません。さらにひどい場合は、せっかく持っている意欲まで落としかねません。

「コーチングを活用できる指導者」なら、Aさんに次のような質問を投げかけることができます。

・大事な仕事を控えて、今どんな気分?

・いちばん困っているのはどんなこと?

・既に知っていることは何?

・知りたいことは何?

・どんなサポートが必要?

・そのサポートがあったら、どこまでできそう?

など、など。

Aさんが自分自身の今の状況を知っているということは、コーチングを進めるための一つのリソースです。その状況を聞いて共有することで、指導者やコーチは支援のポイントがみえてくるからです。

またAさんの「知っていること」を手がかりにした対話から視点を広げたり深めることで、さらに本人が自己認識を高めることができます。つまりリソースが増えてくるのです。

コーチとクライアントのパートナー関係に支えられ進められる

このようにして職場のマネージャーや指導者は、知識伝授のティーチング的なアプローチにコーチングを統合することができます。またOJT的な指導ができない外部のコーチであれば、さらに次のような質問を加えていくことができるでしょう。

・誰に教わる必要がある?

・どのように教えてもらうことをリクエストしたいですか?

・他に助けてくれそうな人は誰でしょう?

・自分ひとりで準備できることは何でしょう?

など、など。

コーチングを活用する職場の指導者も、外部のコーチも、Aさんがもっているリソースを活用できます。それはAさんの自己認識、意欲、思考や行動の特性、勇気、頻繁に使用する言語、変化する表情・・・本人の内面から現われてくるものは、すべてコーチングの貴重なリソースになり得ます。

そしてコーチがクライアントのリソースを確信してその場にいることが、クライアント自身が自分のリソースに気づくことを助けます。それは持続的に成果を生み出していくための基盤となる学習に他なりません。

どんなに課題と兼ね備えている知識・スキルのギャップが大きい状況であっても、コーチングのプロセスはコーチとクライアントのパートナー関係に支えられながら進んでいきます。

2021.8.3

MBCCファウンダー 吉田典生