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「アンラーニング」 ~コーチングで成長マインドを加速する~

今村佳未 投稿者:今村佳未 カテゴリー:コラムコーチング

アンラーニング ~コーチングで成長マインドを加速する~

アンラーニング(Unlearning)とは、既に得ている知識やスキル、習慣や信念を見直し、不要なものを手放して、新しく学び直すプロセスのことを指します。変化が激しく先行きが不透明なVUCA時代と言われる昨今、特に人材開発や組織開発の分野で耳にすることが増えましたが、アンラーニングの考え方自体は、人類が進化する過程でずっと存在していたと考えられます。

いかなる問題も、それをつくりだしたのと同じ次元の意識によって解決することはできません。

アルベルト・アインシュタイン

知識や経験が増えれば増える程、過去の成功体験に囚われた判断や対応をしてしまいがちです。

しかし、それだけでは超えられないような状況に出会った時、イノベーションが必要な時、果たして従来の知識や考え方をベースにアプローチすることが、ベストな方法だと言えるでしょうか?

本コラムでは、人や組織が次のステージへとステップアップする手助けとなる「アンラーニング」についての基本知識と合わせ、コーチングとの相乗効果について紹介します。

根気よく意識的に取り組む必要のある「アンラーニング」を取り入れ、一人でも多くの方が仕事や人生の障壁を突破していかれるヒントとなれば幸いです。

そもそも何故「アンラーニング」が必要なのか・・・

そもそも何故「アンラーニング」が必要なのか

少子高齢化、男女(ジェンダー)格差、地球の温暖化や異常気象、貧困や紛争、ダイバーシティの推進、更には人口知能(AI)との共存など、日本や世界での社会課題は山積みです。

職場ではZ世代と呼ばれる新しい価値観を持った若い世代が増えることで、世代間ギャップを感じている人も多いでしょう。多様化する社会の中で、急速にDX化やIT化を推進する企業も増えています。

ざっと今の時代背景を見渡すだけでも、過去の成功体験や知識、スキルに頼っているだけでは、太刀打ちできないと感じる場面が増えていると言えるのではないでしょうか。

アンラーニングとは、既に持っている知識や習慣などを全て捨てるわけではなく、「思考の断捨離」とも言えるかもしれません。簡単に言えば、既に持っている知識やスキル、価値観や仕事のやり方などを見直して、不要なものを手放し、新しく必要なスキルや知識、考え方を取り入れることを意味しています。

「Unlearn: Let Go of Past Success to Achieve Extraordinary Results」(日本語版:『アンラーン戦略 「過去の成功」を手放すことでありえないほどの力を引き出す』)の著者であるバリー・オライリー(Barry O’Reilly)氏は、アンラーニングについて次のように述べています。

進歩を阻害する重大な要因は、学習能力ではなく、かつては効果的であったが、今では成功を制限している古い考え方、行動、メソッドアンラーンすることができないことなのです。
Lifelong Unlearning Just As Critical As Learning In The Digital 2020s (forbes.com) / (デジタル 2020 年代における学習と同じくらい重要なのは、生涯にわたるアンラーニングです)  より抜粋

どんな時にアンラーニングが効果的なのか

どんな時にアンラーニングが効果的なのか

伸びしろを増やしてくれるアンラーニングですが、全ての状況に適しているわけではなく、既存のスキルや習慣とのバランスも大切です。どんな場面に出会ったら意識的に取り組むと良いのか、下記に典型的な3つの状況をご紹介します。もちろん異なるアプローチが必要なこともあるでしょう。自分の状況をよく観察して「バランス」を取るために、MBCCでコーチングのOSと位置づけている自己認識や自己管理が常に大切になります。

新しい環境や状況に適応したい時

例えば、転職や昇進などで役割や立場などが変わった際などは、それまでの経験が活きる場面とそうでない場面が必ずあります。環境が変化した際は、自分のやり方や考え方をただ貫くよりも、少し俯瞰した目線を持ち、自分とは異なる物事に好奇心を持って理解しようとする姿勢を持つことで、余白がうまれ、柔軟性や適応力の発揮につながっていきます。

創造性が求められている時

新しい物事に取り組むようなプロジェクトや、創造的な発想が必要な場面などにおいては、アンラーニングを通して、既存の知識や枠組みから解放されることが必要です。アンラーニングのアプローチにより、例えば全く異なる分野や視点から考えてみることや、より柔軟な考え方が、新しいアイデアの創出をサポートしてくれます。クリエイティブな発想が必要な時こそ、アンラーニングを積極的に取り入れていきたいものです。

伸び悩みを感じている時

伸び悩みに関してよく聞くテーマとしては、「中堅社員の伸び悩み」があります。

知識や経験をある程度積み重ねたことで、自分の中で徐々に確立された答えや常識が、逆に成長の足かせになっているような状況です。伸び悩みを感じているということは、成長過程の次の段階に行こうとしている時期なのかもしれません。決まった習慣や思考パターンをアンラーンして、新しいアプローチ方法を見つけることで、伸び悩みの時期から脱却できるきっかけとなっていくでしょう。

アンラーニングの実践方法・・・「カップを空にする」

アンラーニングの実践方法・・・「カップを空にする」

お茶がカップ一杯に入ったままでは、新しいお茶を注ぐことはできません。

Empty Your Cup: Why Unlearning Is Vital for Success(コップを空にする: 成功のために「学び直し」が不可欠な理由) | Psychology Todayでは、アンラーニングの様子をカップに入ったお茶に例えて説明しています。また、アンラーニングを実践する際のプロセスを3つのステップで解説しています。

カップがいっぱいになると、それ以上注ぐことはできません。一杯のお茶は、先入観、信念、偏見に満ちた心を表しています。カップに新しいお茶を入れるには、まずカップを空にする必要があります。言い換えれば、既存の信念を捨てて、新鮮なアイデアが入る余地を作る必要があります。行動研究によると、私たちの過去の行動に対する認識が、同じ行動を繰り返すよう影響を受けることがよくあります。
Empty Your Cup: Why Unlearning Is Vital for Success(コップを空にする: 成功のために「学び直し」が不可欠な理由) | Psychology Today より抜粋

アンラーニングを実践するための3つのステップ

1. 学びを手放す(Unlearn

まずは「手放す必要があるもの」を特定します。それは非生産的な習慣、間違った信念、または有害な思い込みである可能性があります。これらを認識するためには、自分の信念に挑戦することにオープンな姿勢を持ち、フィードバックを常に受け​​入れ、内省を実践する必要があります。不快な認識が伴うかもしれませんが、成長にとっては非常に重要です。

<次の質問を使って考えてみましょう>

  • あなた自身と他者についての疑いのない真実は何ですか?
  • あなたを制限している信念は何ですか?
  • 自分のコンフォートゾーンを探索してください。コンフォートゾーンから出ることを妨げているものは何ですか?

アンラーニングとは、自分が手放したいものを理解するだけではありません。何故それを手放したいのかも知っておく必要があります。

2. 学び直しRelearn

ここでは、必ずしも「置き換え」を意味するわけではありません。それは何かを進化させたり、放棄したりすることを意味するかもしれません。物事が以前どうだったかではなく、現在の状況を考慮してください。何が変化したのか?

目の前のトピックについて、あなたが抱いてきた全ての思い込みをリストアップして、それがどのように邪魔になっているのかを考えます。

新しい現実の中で成長するために必要な精神的な変化について考えてみましょう。学び直すということは、自分にとって役に立たないことをやめたり、別のことを始めたりすることを意味します。

<次の質問を使って考えてみましょう>

  • 望む結果を達成するために何をしたいですか?
  • 学び直しをより意図的に行うにはどうすればよいでしょうか?
  • あなたにとって「大きく考え、小さく始める」とはどのようなものでしょうか?

学び直しとは、道なき道を探求するために、意図的に脳を再配線することです。

3. ブレークスルー(Breakthrough)

最後のステップには、手放した信念や習慣を新しく、より健全なものに置き換えることが含まれます。これには、成長マインドセットを持ち、異なる視点から学び、継続的な学習にオープンであることなどが含まれます。定期的な練習、強化、フィードバックは、これらの新しい学習を定着させ、突破口を開くのに役立ちます。

<次の質問を使って考えてみましょう>

  • 学びを手放し、そして学び直すことを、どうすれば日々のルーティンの一貫に入れることができるのでしょうか?
  • 成功をどのように測るのか?
  • 古い習慣に戻りそうになったとき、どのようなきっかけが警告となるのだろうか?

新しい精神的な習慣を根付かせるには実験が必要です。実験が失敗しても問題ではありません。失敗した実験から学び、次に進みます。

理解すべきアンラーニングへの抵抗勢力

理解すべきアンラーニングへの抵抗勢力

成長やブレークスルーのために、アンラーニングが重要であることは理解できても、実際には長年かけて培われた思考プロセスや価値観、そして習慣を変えていくことは簡単ではありません。特にアンラーニングのプロセスに慣れるまでは、抵抗を感じることもあるはずです。

アンラーニングは短期決戦ではなく、根気良く続ける覚悟も必要なため、起こりうる「抵抗」についても理解しておくと良いでしょう。

固定観念:

長い年月をかけて培われた学びや経験により、固定的な思考パターンや信念が形成され、感情ともつながりができています。これらは個人の認知の枠組みを形成しているため、それを変更することは簡単ではありません。新しいアイデアや視点は、既存の信念や固定観念に挑戦することを意味しており、心理的に難しいと感じることがあります。

コンフォートゾーンへの執着:

人は快適な状態や慣れ親しんだ思考の枠組みにとどまりがちです。新しいアイデアやスキルを学ぶことは、未知の領域に踏み込むことを意味し、不確実性や不安を伴うことがあります。これが変化をためらわせ、アンラーニングを難しくすることがあります。

社会的圧力:

周囲の社会的な期待や組織内の文化は、ある程度の行動や思考の一貫性を求めることがあります。この中でアンラーニングを試みると、他者との認識の違いや、異なる進化した方向に進む可能性があり、抵抗感が生まれることがあります。また、他者を巻き込むようなアンラーニングの場合(例えば組織改革など)、他者のネガティブな反応によりモチベーションの低下を引き起こすこともあります。

時間とエネルギーの必要性:

アンラーニングのプロセスには時間とエネルギーが必要です。忙しい日常生活や仕事の中で、意識的に取り組むことは簡単なことではなく、十分なリソースを割くことができないため、アンラーニングがなかなか成功しない可能性もあるでしょう。

上記のような抵抗勢力は、アンラーニングを難しくさせる要因ではありますが、同時に人間には神経可塑性(かそせい)という力が備わっていることを理解しておきたいと思います。これは、脳が刺激(新しい経験や学習など)を受けると、構造的・機能的に再構成される能力のことで、人間が柔軟に変化できる可能性そのものだと言えます(神経可塑性についての詳しい説明については、コーチングの対話が脳を鍛える~脳科学から考えるコーチング~も参考にして頂けます。)

TED Ed – The backwards brain bicycle: un-doing understanding (動画)では、アンラーニングと神経可塑性へのユニークな挑戦を試みています。これは、一般的な自転車に乗るスキルをアンラーンして、ハンドル機能を左右逆さまにした自転車に乗るために、脳内のバイアスにチャレンジする実験です。

この実験からも分かるように、既に獲得した知識や習慣をアンラーニングするには、予想以上の時間が必要となる可能性があり、「継続性」がアンラーニングの成功要因の一つであることが理解できます。

この世で重要な物事のほとんどは、全く希望がなさそうに見えても
挑戦し続けた者たちによって成し遂げられてきた
デール・カーネギー

「アンラーニング」を後押しするコーチング

「アンラーニング」を後押しするコーチング

コーチングはクライアントのゴール達成を目指し、自己認識や柔軟性を養いながら新しい状況に適応する能力を向上させるプロセスでもあり、アンラーニングを後押ししてくれるアプローチと言っても過言ではないと考えます。

人が変化・成長をしようとすると、前述したような抵抗勢力があらわれ、現状に留まろうとする力が働くことは、誰でも経験していることだと思います。これは人間の習性でもあるため、無くそうとするよりは、理解して共に歩もうとする心構えも必要なのかもしれません。

アンラーニングのプロセスに必要な、現状理解、今は不要な信念や思い込みの認識、新しい視点の発見、目標の設定や調整、行動計画などは、全てコーチングに登場するアプローチです。特にアンラーニングのプロセスに慣れるまでは、コーチからの問いかけやフィードバック、言語化や行動促進へのサポートは、中長期的な取り組みを継続していく大きな力となるでしょう。

人の成長は一夜にして遂げられるものではありません。道なき道を、日々少しずつ進むしかないのです。

そんな忍耐も必要な取り組みだからこそ、隣で理解を示し、エールや激励をおくりながら伴走してくれるコーチの存在は、想像以上に大きな力を引き出してくれるのではないでしょうか。

成長という自然のプロセスにおいて近道をしようとすればどうするだろうか。たとえば、テニスの初心者であるにも関わらず、人に格好良く見せるために上級者のように振舞ったらどうなるだろうか。答えは明白である。こうした成長のプロセスを無視したり、近道したりすることは絶対に不可能なのだ。
スティーブン・R・コヴィー

MBCCリサーチ担当 今村佳未

 

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<参考文献・書籍>